4日後の土曜日、俺は学園の基礎訓練施設に置いてある鑑定機に手を差し込んでいた。
モニターに映る自身のステータスを見る。
ーーーーーーーー
〔鈴木海斗 年齢:16歳〕
〔職業:盗賊 Lv.2〕
[力:7][守:6][速:13][気:6][運:2]
〔職業スキル〕
[忍び足]
〔任意発動スキル 1/10〕
[ライトニング Lv.2]
〔常時発動スキル 0/5〕
ーーーーーーーー
「よーし、やっと終わったな」
学校終わりの放課後、そして土曜日の午前を全て気の訓練に費やして6まで上げきった。
ついでにライトニングのスキルレベルも上がっている、変化はあまり実感できないが。
気を上昇させるには、魔法スキルをひたすら使いまくる必要がある。
だから気のステータスが2になってからは使用できる回数が増えてきて、わりと効率が良く上がった感じがするな。
ちなみに一之瀬さんは一足早く終わっていた、どうやらマジックアモーのほうが気力の消費が少なかったみたいだ。
2日前、俺が休憩していたところに一之瀬さんが薄っすらと笑みを浮かべながら、その報告をしにきたことを、俺は忘れることはないだろう。
「ふぅ…それじゃ、早速美女木ダンジョンに行こうかな」
幸いにも、気の訓練をしている間に美女木ダンジョンの再構築期間は終わった。
前回、美女木ダンジョンには平原が広がっていたが、今回の再構築期間では環境が荒野に変わってしまったみたいだ。
それによって、現れる魔物も変わったから少し面倒だな。
俺は黒革のリュックを背負うと、美女木ダンジョンへ向けて歩き出した。
昼をちょっと過ぎた辺りで探索者協会美女木支部の近くに到着した。
敷地内に入ると、前より人が少ないように見える。屋台も同様に少ない。大通りを歩いていると、誰かが俺の肩を掴んできた。
「よぉ海人!随分久しぶりなんじゃねぇかぁ!?」
「うわっ、立花さん」
B級探索者の立花さんだ。酒の匂いがめっちゃする、今日はこの時間から飲んでるみたいだ。
俺は気になったことを質問してみる。
「今日はなんか人が少ないね。なんで?」
「おめーニュース見てねぇのか?千葉にあるダンジョンが大変革で迷宮型になりやがってな!迷宮型は武器やら魔道具やらが取れて儲かるから、関東の探索者は千葉に集まってんだよ!」
「へぇ~、なるほど。ここはどうなの?環境が荒野に変わったみたいだけど」
そう言うと、立花さんはニヤっと笑みを浮かべる。
「儲かるぜ。何なら人がいない今が狙い目だ。ダンジョン入口の近くでツルハシが1万で売ってるから買っとけよ」
「ツルハシ…?なんで?」
「環境が荒野に変わったから鉱石が採れんだよ。探索中はその辺の大きな岩をしっかり見とけ、鉱石が露出してることがあるからな。
まっ、掘ってる間も魔物に注意しなきゃいけねぇから、なかなか大変だけどな」
「なるほど…ありがとうございます。とりあえず行ってみます」
「おう。気を付けろよ〜」
俺は立花さんと別れて大通りをまっすぐ進み、ダンジョン入口の大扉前まで行く。
その近くではタープテントが設置されていて、探索者協会のスタッフがツルハシを売っていた。
ツルハシは丈夫そうで、品質も良さそうだ。俺は立ち寄ると、スタッフはにこやかに対応してくる。
「ツルハシをご購入ですか?今なら鉱石採集の依頼を受けた方なら無料ですよ」
「え、そうなんですか?じゃあお願いしようかな」
「ええ。探索者様専用のスマホからこちらにあるQRコードを読み取ってください」
俺は言われた通りにカウンターテーブルの上にあるQRコードを読み取ると、依頼が表示された。
『鉱石類 200kgを5月中に納品 報酬 50万円』
「えっ?200キロか…」
「ご安心ください。この依頼を受けている間は何度でもツルハシを無料で貰えますよ」
そこじゃない。ただ単に大変そうだと思っただけだ。
まぁでも、悪くないのか?報酬も低くないように思えるし。そう考えていると、スタッフが話しかけてくる。
「それに、この依頼は達成できなくても違約金が無いので、その辺の心配も大丈夫ですよ。報酬は無くなりますが、鉱石の売却金がありますから、無駄になることはありませんよ」
「…それなら、ツルハシを無料で貰えると思ってれば良いか」
俺はスマホで依頼を受けると、スタッフはにこやかにツルハシを渡してくる。
「依頼を受けていただき、ありがとうございます。頑張ってくださいね」
「はい」
スタッフが頭を深々と下げる。
何かこう、乗せられたような気がしないでもないが、まぁ稼げるんだ。頑張るとしよう。
俺はツルハシをリュックの中に入れると、大扉の前に行く。
以前とは違い、扉の奥には自然がほとんど無い荒野が広がっている。平原の時とは全然違うな。
大扉での手続きを済ませると、ダンジョン内に足を踏み入れる。
砂利混じりの土が広がり、ところどころに崩れかけた岩山と、背の低い枯れかけているような木が点在していた。
遠くには熱気で揺れる地平線が霞んで見えた。まるで西部劇の舞台みたいな風景だ。
「少し熱いな…まぁ、頑張るとするか」