俺は枯れ果てている植物しかない荒野を歩く。
足元を踏みしめると、ジャリっと乾いた音が聞こえる。背が高めの雑草が生えていない分視界は広いが、時折強めの風が吹いて砂煙が舞う。
10分ほど歩くと、大小の岩がゴロゴロ転がる斜面に出た。
そして、俺の背を少し越えるほどの岩に、何か光るものがあるのを見つけた。
「これ、鉱石か」
近づいて確認すると、岩の表面にわずかに覗く金属光沢がある。周囲の岩とは明らかに違う質感、ざらついた岩肌の中に、滑らかな銀白色が見える。
俺はリュックからツルハシを取り出し、両手で握り直すと、鉱石の周りの岩を崩すように狙いを定めて振り下ろした。
カン、と乾いた金属音が響き、少量の粉塵が舞う。
手に伝わる衝撃は思ったよりも鈍いが、それほど硬くはなさそうだ。
今度は少し角度を変えて叩き込むと、岩の一部が崩れ、銀白色の鉱石がはっきりと見えた。
その鉱石は、直径10センチほどの形が不規則な塊だった。慎重に周囲を砕き、両手で取り出す。
持ってみると見た目よりは重くなかった。
何の鉱石なのかは全く分からないが、俺はリュックに鉱石をしまい込んだ。
「これ何の鉱石なんだろうな…ん、ここにもある」
近くにあった腰ぐらいの岩に、黒めの鉱石が見えていた。
銀白色の鉱石とはまた違う、今度は艶のない深い黒の鉱石。
ツルハシで周囲を砕きながら、少しずつ露出させていくと表面の岩が剥がれ、拳大ほどの丸めの鉱石が露出した。
拾って持ってみると、思っていたよりも重かった。黒い鉱石をリュックに入れると、斜面の上の方から岩が転がる音が聞こえた。
音の方へ目を向けると、そこには金属のような前歯を持ち、赤い瞳の巨大なネズミがいた。こいつはノイズラットだな。
ノイズラットは口を大きく開けて、前歯を下の歯に勢いよく何度も当てた。
どうやら下の歯も金属のようになっているらしく、金属と金属がぶつかる騒音が辺りに鳴り響く。
ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!
「うるさ!!」
ノイズラットは前歯で金属音を響かせながら、走って接近してくる。鼓膜が騒がしい金属音で揺れるのを感じながらも短剣を取り出した。
俺はノイズラットがライトニングの射程まで入ると、左手をノイズラットに向けた。
「『ライトニング!!』」
バチィッ!っという小さめの雷鳴と共に、細い紫の雷がノイズラットに放たれて直撃する。
ノイズラットは感電して動きが鈍くなると、俺は短剣を逆手に構えて接近。そしてノイズラットに短剣を突き刺すと、傷を広げるようにして斬り裂いた。
ノイズラットは光となって消える。
「な、なんて不愉快な魔物なんだ…」
未だに鼓膜はジンジンと響いている。光が完全に消えると、地面にはノイズラットの前歯と魔石が落ちていた。
俺はそれをリュックに入れると、また鉱石を探し出した。
この辺りがそういう場所なのかは知らないが、数歩あるけば鉱石を見かけるというレベルで鉱石があり、さっき拾った銀白色のものや黒い鉱石のほかに、紫色に光る水晶まで見つかる。
「ふぅ…これじゃあ、探索者というより鉱夫だな」
額から流れる汗を拭いながらも、再び掘ろうとすると、地面が若干揺れていることに気がついた。
俺は作業を止めてツルハシをリュックにしまい、周囲を見渡すと、遠くからピンクと白が混じる人型を象ったような岩が、こちらに歩いてきているのが分かった。
その巨体はなかなかのもので、一歩歩くたびに地面が揺れているのが分かる。
「岩塩ゴーレムか。無理だな」
俺はリュックを背負い直すと、岩塩ゴーレムがいる方とは逆に向かって走りだした。
「さすがにあれは相手しようがないもんな〜…ん!?」
チラッと岩塩ゴーレムの方を見ると、大きな岩を持ち上げているのが分かった。そして、それを俺に向かって投げてきた。
大きな岩が俺の元へ正確に落ちてくる。
「うおおおっ!!」
俺は横に飛び避けて地面に転がる。俺がいた場所には大きな岩が落下し、岩が砕ける音と共に、地面には大きな窪みが出来ている。
「怖すぎるだろ…さっさと逃げよ」
すぐに立ち上がると、また走り出した。チラチラとゴーレムの方を確認しながら走っていたが、動きは遅く、岩を投げてくる様子もなかった。
しばらく走ってゴーレムが見えなくなると、ダンジョン入口の大扉の方まで戻ってきてしまった。
ついでにさっき探索していた方とは逆方向を行ってみることにした。
リュックから水筒を取り出して喉を潤しつつ、あまり大扉から離れないように10分ほど歩いていると、俺の身長を越えるような岩がゴロゴロとある場所に着いた。
例のごとく鉱石がちらほらと見える。俺はリュックからツルハシを取り出した。
「さて…始めるかな」
魔物にも邪魔されることもなく、長いこと鉱石を掘り続けていると、そろそろ戻ることにした。
もちろん疲労を感じていたのもあるが、単純に飽きた。俺はツルハシをしまって体を伸ばす。
「なんかいつもより疲れたなぁ」
俺はトボトボと歩きながら大扉に向かって歩き出した。
しかし、本当に探索者が少ない。ここまでいないもんかと、辺りを見渡す。
今日も10人程度しか見てないんじゃないかと思うほどだ。それにしては魔物は少ないし。
大扉に着くと、警備員さんに会釈をして、探索者協会のスタッフによる手続きを終わらせる。
ダンジョンドローンを停止させてリュックにしまうと、買取所へと向かった。
大きな倉庫のような買取所に入ると、端末台の前に立つ。そして端末台に探索者カードを差し込むと、ダンジョンポイントでの受け取りを選ぶ。
「今日は多いんだよなぁ」
板をベルトコンベアの上に何枚も乗せると、魔石以外の今日手に入れたものを全て並べる。なかなかリュックから取り出して並べるだけでも一苦労だった。
そしてベルトコンベアのボタンを押した。少し経つと、タッチパネルに精算されたものが表示される。
ーーーーーーーー
『魔法水晶 3kg分』
15000円
『聖鉄鉱石 18kg分』
36000円
『重鋼玉 27kg分』
43200円
『ノイズラットの前歯』×1
3000円
『売却費用』
972円
合計96228円
ーーーーーーーー
「へぇ、結構いったな。しかも午後だけだもんな」
というか白めの鉱石は聖鉄だったんだな、たしかダンジョンドローンの装甲で使われてるんだったか?
そんなことを考えながら確定を押すと、探索者カードが端末台から出てきた。
買取所から出ると、空は夕焼けに染まっていた。
明日も来ようかなぁと考えながら歩いていると、金髪オールバックで派手な赤いジャケット、そして黒い革パンにサングラスをかけた男、コウタtvがいた。
ドローンが見当たらないから配信はしていないようだ。
コウタtvが俺の方を見ると、ズカズカとこちらに歩いてくる。
「よう!お前なんかネットニュースに乗ってたなぁ!探索者の遺体を持ち帰ったんだろぉ!?」
「あ、はい」
「偉いなぁ!!ウンウン、日本の未来は明るい!!」
1人で何度も頷いている。そして俺の両肩を掴んできた。
「これからも頑張れよ!!」
「あ、はい」
俺は勢いに押されながらもそう返事すると、コウタtvは満足したのか、またズカズカと去っていった。
というか、あの人まだここのダンジョンに潜ってたんだな。てっきり千葉のダンジョンに行ってるもんかと思ってたけど。魔物が少なかったのもあの人がいたからか?
(まぁ、悪い人では無さそうだったな)
そう思いながら、家に向かって帰り始めた。