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第21話 カンザキ社

次の日、俺は早朝からダンジョンの入口に来ていた。

今日もまた鉱石掘り掘りタイムになるかと思ったが、ダンジョンの入口前には数人の探索者たちが集まってざわついていた。


「…なんかあったのかな?」


独り言で呟くと、隣にいたスーツ姿の協会職員がチラッとこちらを見た。


「昨日、ダンジョンの奥深くで異常魔力反応が観測されたんです。封鎖するほどじゃありませんが、警戒強化中です」


「異常魔力って、強い魔物か何かが出たってことですか?」


「正確にはまだ分かっていません。現在調査中ですが、あまり深くまでは行かないほうがいいですよ」


職員はそう言い残すと、別の探索者のところへ向かっていった。


(元々深いところまで行くつもりは無かったけど、注意しないとな)


俺は軽く息を吐くと、ダンジョンドローンをリュックから取り出して起動させた。

そして入口で手続きを済ませると、ダンジョン内に入った。相変わらず空気がカラッとしていて微妙に暑い。

別に昨日と変わった様子もないが、いつも以上に注意しながら鉱石を掘るとしようか。


そう思いながら、俺は昨日掘っていた場所まで歩いていった。






ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!ガキン!!


「うるせぇぇ!!『ライトニング!!』」


左手から後方から追ってきているノイズラットたちへ適当にライトニングを放つ。細い紫の雷がノイズラットに直撃して痺れている。

俺は十数匹はいるであろうノイズラットから逃げつつも戦っていた。相変わらずノイズラットは金属のような大きな前歯と下の歯をぶつけて騒音を鳴らしている、それが十数匹もいるんだから地獄だ。


一匹のノイズラットが飛びかかってきたので、俺は短剣を突き刺して、すぐに引き抜いて再び走る。

さすがにこの数に囲まれたらまずいので足は止めない。


だが、走りながらの戦闘には限界がある。背後からはまだノイズラットの足音と、例の耳障りな金属音が追ってくる。

鼓膜が軋むたびに集中力が削がれていくのを感じた。


(どっかで撒かないとまずいな)


視線を走らせて、左手に斜面を見つけた。岩が転がり落ちそうな傾斜だが、逃げ場としては悪くない。

俺は反射的にそちらへ向かって足を切り替えると、滑るように斜面を駆け下りた。背後ではノイズラットたちが転げ落ちる音と共に、次々と足を滑らせて転倒していく。


斜面下に着地すると、岩陰に身を滑り込ませて息を潜めた。地表を叩く無数の足音が頭上を通り過ぎ、数匹のノイズラットが俺を見失ったまま進んでいくのが分かる。


「…撒いたか。なんであんな数のノイズラットが一緒に行動してんだよ…運悪いな」


そーっと周囲を見ると、ノイズラットがいる様子はない。俺はダンジョン入口の大扉に向かって歩き出した。

というか逃げてる途中に探索者と遭遇しなくて良かったな。まぁいたとしても逃げる方向を変えるだけなんだけど。


歩いていると、そのうち大扉が見えてきたので、また採掘できるエリアを探し始めた。


しばらく歩いた先、小さな岩山の裏手に窪地を見つけた。

岩肌には鉱石がいくつも見え、見るからに掘りがいがありそうだ。周囲に魔物の気配はなく、耳に届くのは自分の足音とダンジョンドローンの駆動音だけ。


「…よし、ここにするか」


腰を落とし、ツルハシを構える。岩を砕く音が鳴り響くたび、鉱石の周りの岩が剥がれていく。ここらにある鉱石は、ほとんどが聖鉄やら重銅玉だな。

妙に静かだが、逆にありがたい。さっきまでのノイズラット地獄が嘘みたいだ。


俺は次々と岩壁を掘って鉱石を異空間収納のリュックに入れていくと、大きめ岩が窪地の中央に勢いよく転がっていった。

そして、コンッと乾いた音が背後から聞こえた。思わず後ろに振り返る。


「ん…?」


俺は試しに足元にあった大きめの岩を窪地の中央に軽く投げると、また軽い音が響いた。


俺は眉をひそめながら、窪地の中央へとゆっくり近づいた。足元をツルハシで慎重に叩くと、確かに地面の一部が他とは違う反響を返してくる。


「おもしろ、何なんだろうな」


興味が湧いた俺は、足で中央の砂利と岩を退かしていく。

すると、そこには謎の模様が刻まれている四角い金属板があった。試しに軽く押してみると、少し動かせた。完全に動かすのは怖いのでやめておく。


「んー小型ダンジョンか?まっ、とりあえず報告だな」


俺はその金属板がよく見えるように砂利と砂を払っていき、探索者用のスマホで写真を撮ると、その写真を座標の情報と共に、探索者協会に『謎の金属板発見』と付けて送った。


「何が起こるか分かったもんじゃないな。さっさと離れよ」


俺はそそくさとその場から離れていった。そしてまた鉱石が大量にあるエリアを見つけたので、また掘り出した。

周囲を警戒しつつも、無心でツルハシを振るう。


カンッ!カンッ!カンッ!

「…探索者ってなんだっけ」


少なくともここまで退屈じゃないはずだが…。

俺は探索者用のスマホを見て時間を確認すると、まだ9時だった。さすがに戻るには早すぎる。


「なんだかなぁ…いや稼ぐためではあるんだけど。まぁ稼いだらスキルスクロールも買えるしな」


カンッ!カンッ!

ツルハシのリズムに合わせて、そんな言い訳じみた独り言が虚空に吸い込まれていく。


「次は何のスクロールにすっかな〜、この前見た気配遮断なんてベストな気がするけど、索敵系もあったら欲しいんだよな〜」


少し汗ばんだ額を腕で拭い、腰を伸ばす。じんわりとした疲労感が足元から這い上がってきていた。

リュックから水筒を取り出して飲むと、また作業を開始する。




1時間後…


「飽きた飽きた飽きた飽きた飽きた…」


そう呟きながらもツルハシを振るう。さっきのノイズラットたちはどこに行った、今ならブチブチに出来るんだが。

なんで魔物まったく来ないんだよ、コウタtvがいるからか?

そんなことを考えていると、スマホの通知が鳴った。作業を中断して確認すると、探索者協会からだった。


どうやら危険度が高く、それなりに広い小型ダンジョンの入口だったようで、見つけた報酬として5万円がダンジョンポイントで振り込まれるようだ。


「やっぱ開けなくて正解だったな」


そう呟くと、いい加減採掘に飽きた俺は大扉に向かって帰り始めたのだった。


大扉に着くと、一般的な探索者のものとは違う近代的な装備を身に纏った人達が来ていた。

外骨格風のパーツが各関節を覆い、黒を基調としたボディスーツには、各所に暗い紫の発光ラインが走っていた。

肩や胸部には"神崎"と、やけに達筆なロゴがある。


「…なんだあれ」


「ん、初めて見たか?」


近くにいた中年男性の警備員がフランクに話しかけてくる。


「はい。なんなんですか?あの人たち」


「あの人たちはカンザキ社所属の探索者たちでな。実力はC級以上、装備しているのはカンザキ社が開発している最先端の装備だ。

人がいないときや対処が難しい問題が発生したときは探索者協会がカンザキ社に要請するのさ。

今回は小型ダンジョンが発見されたみたいだな」


「へぇ、そうなんですね」


危ねぇ…そんなに危険なところだったのか。

思わず額から冷や汗が流れる。変に興味持たないで良かったと心の底から思った。

カンザキ社所属の探索者は談笑しながら小型ダンジョンへ向かっていった。


「入らなくて良かったな」


「なんだ、お前さんが見つけたのか?なら命拾いしたな」


そう小さく笑いながら警備員は持ち場に戻っていった。

俺も一息ついて、休憩するために大扉をくぐった。

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