授業が終わって、食堂で生姜焼き定食を食べていると、正面に一之瀬さんが立っていた。一之瀬さんは焼肉定食を頼んだみたいだ。
「ここ、座っていいかしら」
「もちろん」
彼女はトレイを音も立てずに置いて座ると、静かに箸を取り出した。
「さっきの授業面白かったね。神崎啓介のやつ」
「面白いも何も、小学校のときから何度も聞いてきたでしょう」
「あー、俺の親が過保護でさ。ここに来るまで学校行ったことなかったんだよね」
「はい?」
一之瀬さんは驚いたような顔で箸を止める。
「何よそれ、勉強とかはどうしてたのよ」
「母親が教師代わりで教えてくれてたよ。スパルタだったけどね」
「ふーん…そんな過保護だった親が、よく探索者になることを許してくれたわね」
「なんか一族の掟ってやつかな?16になる年になったら自由にやらせるって方針なんだってさ」
俺はそう言うと、生姜焼きを食べてご飯をかきこむ。
一之瀬さんがタレが絡んだ肉を口に入れ、ご飯を食べて飲み込むと、気になった様子で質問してくる。
「どうして16まで?」
「幼いうちに他所から影響を受けて、変な価値観を持たないようにするためって言ってたかな。
意味があったのかはよく分からないけど」
「ふーん、大変だったのね」
「一之瀬さんはどうなの?」
「私?私は…そうね、両親が武道家だったから一通りの武術はやらされたわ。
それで結局、職業が戦士だって発覚して盾と斧の力技で戦ってるんだから面白いわよね」
「ハハ!確かに」
俺が思わず笑うと、一之瀬さんも薄く笑みを浮かべて焼肉を食べ進めていく。
「そういえば、一之瀬さんは美女木ダンジョンに行った?」
「まだよ。どうせ、採掘の話でしょう?」
「あれ!よく分かったね。もしかして配信見てた?」
「ええ、見てたわよ。あなたがブツブツ何かを呟きながら、死んだ顔でツルハシを振るっているの」
一之瀬さんはその配信を思い出したのか、クスッと笑う。
「今週の土曜日にでも一緒に行こうよ」
「いやよ。面倒くさそうだし」
「でも稼げるよ、採掘。あの日だけでいくら稼いだか聞く?」
「聞かな…」
「19万」
俺は返事を聞かずに間髪入れず答える。すると一之瀬さんの箸が止まる。
「力が低めの俺でも、あの日だけで19万。つまり戦士の一之瀬さんだったら20万は軽く越えると思うな」
「……」
「今なら人も少ないだろうし、土日とも行っちゃえば、スキルスクロール1つは買えちゃうね」
「……」
「話し相手がいると、あの退屈な採掘も、いくらかマシだと思うなぁ」
「もう、分かったわよ。土日一緒に行きましょう」
「よっしゃ!あれ1人だとマジで退屈なんだよね!」
俺は思わずガッツポーズを取ってしまい、周囲の目線に気付いて慌てて腕を下ろす。
一之瀬さんは苦笑いしながら、焼肉の最後の一切れを口に運んだ。
「それじゃあ、土曜日は6時に協会前に集合ね」
「ろ、6時?早すぎません?」
「当然よ。せっかくやるなら、日曜日にはスキルスクロール2つ買えるぐらいやらないと」
「あー…なんなら採掘依頼の報酬も入れたら3つぐらいは買えるかもしれないね」
「採掘依頼?」
一之瀬さんが探索者用のスマホで調べる。
「この、200kg納品ってやつ?」
「そう。それ受けてたらツルハシが無料で支給されるんだよね。俺は土曜日の午後と日曜日の朝から夕方までで140kgぐらい行ってたから結構楽勝だと思うよ。
期限も今月までだし」
「へぇ、それは良いわね」
そう言うと、一之瀬さんはトレイを持って立ち上がった。
「それじゃ、土曜日にね」
「うん。またね」
一之瀬さんはトレイを返却口に置きに行った。
(一之瀬さん食べるの早いな)
そんなことを考えながらも、俺も生姜焼き定食を食べ進めていった。
生姜焼き定食を食べ終えた俺は、治療室に行って筋肉痛を癒すと、基礎訓練施設へと向かった。
基礎訓練施設のなかに入ると、俺は鑑定をすることにした。鑑定機に学生証を差し込んで、手を鑑定機の穴に入れる。
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〔鈴木海斗 年齢:16歳〕
〔職業:盗賊 Lv.2〕
[力:8][守:6][速:13][気:6][運:2]
〔職業スキル〕
[忍び足]
〔任意発動スキル 1/10〕
[ライトニング Lv.2]
〔常時発動スキル 0/5〕
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「おっ、力が1だけ上がってるじゃん」
やっぱり採掘は力を使うからか、ステータスも上がってくれたな。これは一石二鳥というやつか。
採掘のやる意味が1つ増えるだけでも、やる気が上がるな。
「それじゃ、今日は速の訓練でもしようかな」
そう呟くと、俺は速の訓練エリアへ足を運んでいった。