土曜日、俺はまだほんのりと薄暗い道を歩いて、探索者協会美女木支部へと向かっていた。まださすがにバスは出ていなく、徒歩で向かっている。
一之瀬さんと約束していた土曜日までの間、俺は力を9まで、速を16まで上げられた。
これで今月は、速が3つ、気が5つ上げられたから、5月の努力成果も提出できた。速を優先的に上げたのは正解だったな。
これで今月は心置きなく活動できるってもんだ。
しばらく静かな道を1人でトボトボと歩いていき、探索者協会の近くまで着くと、探索者協会の入口近くにあるベンチで、すでに一之瀬さんがスマホを見ながら待っていた。
思わずスマホを確認すると、まだ5時36分だ。一之瀬さんも俺に気が付いてスマホをしまう。
「おはよう!着くの早いね。待った?」
「おはよう、私もついさっき着いたところよ。ちょっと早く来すぎたと思ってたのだけれど」
「俺も早めに着くように来たんだけど、一之瀬さんがいてビックリしたよ。
それじゃ、ちょっと早いけど行っちゃう?」
「そうね。行きましょうか」
一之瀬さんはベンチから立って、一緒に歩き出した。
「まず大扉の近くにツルハシ売ってるところがあるから、そこでツルハシを受け取ろう。依頼は受けた?」
「ええ。依頼を受けていれば無料だったかしら?」
「そうそう。まぁ受けてなくても1万円だから安いんだけどね」
喋りながら大通りを歩いていく。さすがにまだ早朝だからか、人はかなり少ない。
大扉前に着くと、ツルハシを売っているタープテントへ行く。早朝にも関わらず、探索者協会の女性スタッフが立っていた。
一之瀬さんがスタッフに話しかける。
「すみません、採掘依頼でツルハシを貰いたいんですけど」
「はい。探索者用のスマホから依頼画面を確認させて貰ってもよろしいですか?」
「はい」
一之瀬さんはスマホを軽く操作してスタッフに画面を見せると、スタッフは軽く頷いて、一之瀬さんにツルハシを渡した。
「ありがとうございます、こちらがツルハシですね。
千葉のダンジョンの影響でここの人が少ないので、採掘してくれて助かります。そちらの方は大丈夫ですか?」
「あ、俺はもう依頼を受けててツルハシも受け取ってます」
「そうでしたか。それでは、お気をつけて」
そう言って女性スタッフは軽く頭を下げた。
俺と一之瀬さんはダンジョンドローンを起動させて、大扉の入口前で手続きを行うと、荒野のダンジョン内へと入った。
一之瀬さんは眩い日差しに目を細める。
「ちょっと暑いのね」
「そうだね~。それじゃ、この前来たときに鉱石がたくさんあった場所があったから、まずはそこ行ってみよっか」
「了解。案内お願いね」
俺は一之瀬さんと共に、鉱石が露出した岩が大量にある場所の方へと向かった。
周囲を警戒しながらも、一之瀬さんと喋りながら歩く。
「俺思ったんだけどさ、スキルスクロールじゃなくて新しい武器を買ってもいいよね」
「あぁ、確かにそうね。武器…武器も高いのよね」
「安いのでも20万、30万ぐらいかなぁ。だから鉱石ホリホリ頑張らないと」
「もし明日で依頼も達成できたとして、90万いけたら最高って感じかしら」
「そうだね~。結構頑張らなきゃだけど…っと、着いたね」
目の前には、背丈を越える大きな岩や腰ほどの岩などが大量にある平地に着いた。鉱石が光を反射しているのが所々に見える。
俺と一之瀬さんはリュックからツルハシを取り出した。
「どんな感じに掘ればいいのかしら」
「鉱石の周りをツルハシで崩して取るって感じかな。これが最適なのかは分からないけど」
「まぁ、やっていくうちに分かるわよね」
「うん。周囲は常に警戒ね」
そうして、俺たちは採掘を開始した。相変わらず聖鉄鉱石と重鋼玉ばかりだな。
一之瀬さんは最初だけ手こずっていたが、わりとすぐに慣れていた。なんなら戦士で俺よりも力が高いからか、鉱石も効率良く取れていたな。
すると、少し遠くでノイズラットが歩いているのが見えた。
側にいた一之瀬さんに小さな声で話しかける。
「一之瀬さん、あそこにノイズラットがいるよ」
「…! ほんとね」
一之瀬さんは片手をノイズラットへ向ける。
「『マジックアロー』」
スキルを唱えて、一之瀬さんの片手の先から薄い紫の魔法の矢が生成されると、矢はノイズラットに向かって勢いよく放たれた。
矢はノイズラットの頭に突き刺さり、ノイズラットの体がビクリと震え、その場でバタリと倒れた。
ノイズラットは光となって消え、前歯と魔石をドロップした。
「倒せたわね」
一之瀬さんは魔法を放った手を下ろし、軽く息を吐いた。その表情には焦りもなく、確かな自信が滲んでいた。
「戦士兼魔法使い…って感じだね」
「ふふ、そうね」
一之瀬さんと俺はドロップしたところへ歩く。
「これは、ノイズラットの前歯?」
「そうだね、この歯で鳴らす音がまぁうるさいんだ。そんじゃ、再開しよっか」
「そうね………まだ8時か」
俺はツルハシを持ち直すと、一之瀬さんはスマホを確認してそう呟いた。
俺はニヤリと笑みを浮かべて呟く。
「まだまだこれからですぞ。一之瀬後輩」
「うるさいわよ」