俺と一之瀬さんは、ただひたすらツルハシを振るって採掘をやり続けていた。一之瀬さんの目はすでに死んでいるように見える。
「一之瀬さん」
「なに?」
「楽しいね」
「…からかっているでしょう?」
一之瀬さんかジトッとこちらを見てくる。
俺は笑いを堪えながらツルハシを肩に担いだ。
「ごめんごめん。いやぁ、話し相手がいるって素敵だな〜」
「……確かに、この作業を1人でやるのはキツそうね。前の配信のあなたみたいにはなりたくないし」
「あっ、バカにした」
「ふふ、気のせいじゃないかしら?」
一之瀬さんが少しだけ笑った。その笑顔にほんの少しだけ元気が戻っている気がした。
俺はツルハシを再び構えて採掘を開始する。
「にしても、この辺りは取り尽くしてきたかな」
「そうね。ここが取れたら場所変える?」
「うん。でも、その前にちょっと休憩しよう」
俺たちは岩から鉱石を取ると、岩陰に腰を下ろして、リュックから水筒を取り出した。
一之瀬さんも隣に座り、水を口に含んでからため息をつく。
「……はぁ、汗で背中がベタついてきたわ」
「俺も。空気はカラッとしてて風もあるけど、日差しがねぇ」
二人で黙って空を仰ぐ。ダンジョン内だってわかってるけど、どこまでも広がる青空で外にいるような錯覚を覚える。
「…ねえ、鈴木くん」
「ん?」
「お昼食べたら、アイスも食べましょうよ。探索者協会の中で売ってるみたいなのよね」
「へぇー!いいね。疲れた後のアイスは最強だからな〜」
俺と一之瀬さんは少しの間談笑しながら休憩すると、また次の採掘できそうな場所を探すために歩き出した。
「次はどっちに向かうの?」
「次はもう探す感じだね。楽しい探索タイムだよ、あまり奥には行かないけど」
「まぁ気分転換にはなるわね」
俺と一之瀬さんは周囲を警戒しながらも荒野を歩く。
「それにしても、あまり探索者を見かけないわね」
「少ないねぇ。同級生も来ないのかな?」
「あぁ、何か千葉のダンジョンに行くみたいな話をしていたような気がするわね」
「迷宮型なんだっけ?。行っても人が多いから稼げなそうだけどなぁ」
「それでも、宝箱でも見つけたら一儲けできるらしいから、それ狙いでしょう」
「運が良ければって感じか、少なくともここよりは楽しそうではあるね」
「フフッ、それは間違いないでしょうね。ん…あれ魔物じゃない?」
一之瀬さんが見ている方に視線を向けると、少し離れた場所に大きなサソリがいた。背中には赤く透き通った水晶が付いている。
まだ俺達には気がついていない。
「あれなんだっけ」
「見た目通り、クリスタルスコーピオンよ。そこまで強くないし、ドロップする水晶は高く売れたはずだわ」
「へぇ、いいね。倒しちゃおっか?」
「ええ。水晶から撃ってくる光線だけ注意よ」
「了解」
一之瀬さんは盾と斧を構える、俺も短剣を取り出した。
「俺がライトニングを当てるから、そこから一気に攻め込む感じかな」
「了解」
俺と一之瀬さんは微かに身を低くして、クリスタルスコーピオンに接近していく。ライトニングの間合いに入ると、俺はクリスタルスコーピオンに手を向ける。
「『ライトニング』」
俺の手から放たれた紫の細い雷が一直線にクリスタルスコーピオンへ向かって奔った。
乾いた音と共に雷が命中し、サソリの体がビクリと跳ねる。
その瞬間、一之瀬さんが地を蹴った。
斧が振り下ろされると、サソリの一部の脚が弾け飛ぶ。クリスタルスコーピオンは甲高い鳴き声を上げると、背中の水晶が強く光った。
「光線か!」
俺は声を上げると同時に、すぐさま横へ飛んだ。
直後、赤い光線が俺のいた場所を焼き払った。地面が黒く焦げ、熱波が頬をかすめる。
一之瀬さんのほうにも光線が放たれるが、一之瀬さんも飛び避けて躱していた。
俺は一気に距離を詰め、サソリの側面に回り込む。短剣に魔力を乗せ腹部の隙間へ突き刺した。
サソリが激しくのたうち回り、一之瀬さんが追い打ちのように斧を振るう。
甲殻を砕く音とともに、魔物の動きが止まり、やがて光となって消えた。
赤く輝く大きな水晶と魔石がドロップした。
「ふぅ…結構危なかったね」
「ふふ、でも上手く倒せたわね」
武器をしまって、俺たちは軽くハイタッチすると、地面に残ったドロップを拾い上げた。水晶は手のひらにずしりとした重みを感じさせるほどのサイズだった。
それをリュックにしまう。
「そういえば私たちパーティー組んでなかったわね。やる?」
「うーん、それだと鉱石の報酬も半分になっちゃうけど良い?」
「別に、それぐらい良いわよ」
俺と一之瀬さんは探索者用のスマホを取り出すと、パーティー登録を完了させた。
そしてまた探し出すと、鉱石が露出している岩がいくつもある平地にたどり着いた。
「さっきよりは鉱石が少なそうね」
「そうだねぇ、それじゃ始めよっか」
そうして俺たちはツルハシを取り出して、また採掘し始めた。