「よーし、ここも取り切ったね。そんで、ちょうどお昼になるぐらいだ」
「ようやくお昼休憩ね…」
俺と一之瀬さんはツルハシをしまうと、自然と二人とも体を伸ばした。
「ふぅ〜…細かい休憩は何回か挟んだけど、5時間ぐらいはやったのかな」
「たぶんね…そろそろ腕がつるかと思ったわ」
一之瀬さんが肩をぐるぐる回しながら言う。
「それじゃ、いったん戻ろっか」
「ええ、そうしましょう」
そうして、俺たちはダンジョン入口の大扉へと歩いていった。
幸いにも道中魔物に遭遇することもなく、大扉にたどり着いた。大扉をくぐって手続きを済ませて、ダンジョンドローンを停止させて大通りを歩く。
「どこでご飯食べる?」
「なにか、ジャンキーなものを食べたい気分ね。あそこのシーカーズバーガーってところ行ってみない?」
「お、いいね」
大通りにあったシーカーズバーガーというハンバーガーショップに立ち寄ると、まず俺たちは自然とメニューの値段を確認した。
そこには様々な種類のハンバーガーがあり、これも疲労回復の効果が乗っているようで、1つにつき3000円という値段だった。ポテトは2000円だな、量はあるように見える。
バーガーを頼むと飲み物も付いてくるみたいだ。
「ポテトはシェアしよっか。結構ありそうだし」
「そうね、それが良さそう。私は…スパイシーチキンバーガーにするわ」
「俺はダブルミートバーガーにしようかな、肉肉しいやつが食べたい気分だ。飲み物はどうする?」
「コーラしようかしら」
「いいね、俺もコーラにしよう」
中に入るとタッチパネルの端末があり、そこで注文を済ませてダンジョンポイントで支払うと、注文番号が表示された小さなレシートが発行された。
俺はそれを手に取り、一之瀬さんと一緒に席を探す。さすがに昼時だからかそれなりに人がいたが、窓際の席が空いていた。
「お、あそこ空いてる。行こう」
「ええ」
座ってしばらくすると、厨房の方からジューッという肉の焼ける音と、香ばしい匂いが漂ってきた。俺たちはしばし無言でその香りに癒されながら、ぼーっと外の通りを眺める。
「それにしても、午前だけでそれなりに鉱石取れたと思わない?」
「そうだね。5時間もやってたし、かなり取れてると思う。
今日だけで120キロぐらいはいけるかも?」
「ほんとね。今さら鉱石の報酬が楽しみになってきたわ」
そう話していると、番号が呼ばれた。
俺は立ち上がって受け取りに行くと、重みのあるトレイを持って戻っていく。
「おまたせ。ポテト、ほんとに山盛りだわ」
「これは凄いわね…」
トレイの上には、厚みのあるハンバーガー二つと、大皿に山盛りのポテト、それにコーラの入った透明なカップが二つ。
見るからにカロリーの暴力だ。
「いただきます」
「いただきます」
二人同時にハンバーガーにかぶりつく。ジュワッと溢れ出す肉汁とスパイスの香りが鼻を抜け、思わず目を細めた。
「うまっ……」
「これ、思った以上にちゃんとしてる味ね。スパイシーだけど、後から甘味もある」
「うん、俺のも肉汁が凄くて美味いわ。しばらく通っちゃいそう」
「…アイスのこと、忘れちゃいそうね」
「それはちゃんと覚えとこう。午後のモチベが消える」
一之瀬さんはくすっと笑う。お互いにハンバーガーを食べ終えると、ポテトをつまみながら喋り始める。
「ポテト美味いけど、かなりお腹にたまるね。これ午後動ける?」
「最悪、動かなくてもいいんじゃない?」
「ハハ!採掘で大儲け大作戦が台無しだよ」
「ふふ、冗談よ。でもちょっとだけ、動きたくないのは本音かも」
一之瀬さんがストローをくわえながら、テーブルに肘をついて気だるそうに言う。
午後の光が窓から差し込み、彼女の頬に柔らかい影を落とす。こう見ると、放課後のカフェでだべってる普通の学生みたいに見えるな。
しばらくして食べ終わると、トレイを返して店を出る。
「だいぶ腹いっぱいになったね」
「ええ、2つとか頼まなくて良かった。それじゃ、探索者協会でアイスを買いに行きましょう」
「アイスは別腹ってね」
そう言って俺たちは並んで歩き出す。少し歩いて探索者協会のロビーに入ると、ひんやりとした空調の空気が火照った体に心地いい。
「アイスは…あったあった。今日はバニラ、チョコミント、ストロベリーチーズ、キャラメルエスプレッソだって」
「なんか新作っぽいのもあるわね。私はチーズのやつにしようかしら」
「俺はキャラメルのやつでいこうかな」
会計を済ませてアイスを受け取ると、二人で休憩スペースの端のテーブル席へと移動する。
静かな空間には、薄くBGMが流れていて、どこか非日常の余韻を感じさせた。
スプーンですくったキャラメルアイスを口に運ぶと、香ばしさとほろ苦さが口の中に広がった。
「…うまいなこれ。幸せになる味だ」
「ん、こっちもなかなか。酸味が良いアクセントになってるわ」
甘くて冷たいアイスを食べながら、ぼんやりと窓の向こうを眺める。
「しばらく休憩してから行こっか」
「そうね。お腹の中のポテトが全然消えないわ」