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第27話 アイス

「よーし、ここも取り切ったね。そんで、ちょうどお昼になるぐらいだ」


「ようやくお昼休憩ね…」


俺と一之瀬さんはツルハシをしまうと、自然と二人とも体を伸ばした。


「ふぅ〜…細かい休憩は何回か挟んだけど、5時間ぐらいはやったのかな」


「たぶんね…そろそろ腕がつるかと思ったわ」


一之瀬さんが肩をぐるぐる回しながら言う。


「それじゃ、いったん戻ろっか」


「ええ、そうしましょう」


そうして、俺たちはダンジョン入口の大扉へと歩いていった。

幸いにも道中魔物に遭遇することもなく、大扉にたどり着いた。大扉をくぐって手続きを済ませて、ダンジョンドローンを停止させて大通りを歩く。


「どこでご飯食べる?」


「なにか、ジャンキーなものを食べたい気分ね。あそこのシーカーズバーガーってところ行ってみない?」


「お、いいね」


大通りにあったシーカーズバーガーというハンバーガーショップに立ち寄ると、まず俺たちは自然とメニューの値段を確認した。


そこには様々な種類のハンバーガーがあり、これも疲労回復の効果が乗っているようで、1つにつき3000円という値段だった。ポテトは2000円だな、量はあるように見える。

バーガーを頼むと飲み物も付いてくるみたいだ。


「ポテトはシェアしよっか。結構ありそうだし」


「そうね、それが良さそう。私は…スパイシーチキンバーガーにするわ」


「俺はダブルミートバーガーにしようかな、肉肉しいやつが食べたい気分だ。飲み物はどうする?」


「コーラしようかしら」


「いいね、俺もコーラにしよう」


中に入るとタッチパネルの端末があり、そこで注文を済ませてダンジョンポイントで支払うと、注文番号が表示された小さなレシートが発行された。

俺はそれを手に取り、一之瀬さんと一緒に席を探す。さすがに昼時だからかそれなりに人がいたが、窓際の席が空いていた。


「お、あそこ空いてる。行こう」


「ええ」


座ってしばらくすると、厨房の方からジューッという肉の焼ける音と、香ばしい匂いが漂ってきた。俺たちはしばし無言でその香りに癒されながら、ぼーっと外の通りを眺める。


「それにしても、午前だけでそれなりに鉱石取れたと思わない?」


「そうだね。5時間もやってたし、かなり取れてると思う。

今日だけで120キロぐらいはいけるかも?」


「ほんとね。今さら鉱石の報酬が楽しみになってきたわ」


そう話していると、番号が呼ばれた。

俺は立ち上がって受け取りに行くと、重みのあるトレイを持って戻っていく。


「おまたせ。ポテト、ほんとに山盛りだわ」


「これは凄いわね…」


トレイの上には、厚みのあるハンバーガー二つと、大皿に山盛りのポテト、それにコーラの入った透明なカップが二つ。

見るからにカロリーの暴力だ。


「いただきます」

「いただきます」


二人同時にハンバーガーにかぶりつく。ジュワッと溢れ出す肉汁とスパイスの香りが鼻を抜け、思わず目を細めた。


「うまっ……」


「これ、思った以上にちゃんとしてる味ね。スパイシーだけど、後から甘味もある」


「うん、俺のも肉汁が凄くて美味いわ。しばらく通っちゃいそう」


「…アイスのこと、忘れちゃいそうね」


「それはちゃんと覚えとこう。午後のモチベが消える」


一之瀬さんはくすっと笑う。お互いにハンバーガーを食べ終えると、ポテトをつまみながら喋り始める。


「ポテト美味いけど、かなりお腹にたまるね。これ午後動ける?」


「最悪、動かなくてもいいんじゃない?」


「ハハ!採掘で大儲け大作戦が台無しだよ」


「ふふ、冗談よ。でもちょっとだけ、動きたくないのは本音かも」


一之瀬さんがストローをくわえながら、テーブルに肘をついて気だるそうに言う。

午後の光が窓から差し込み、彼女の頬に柔らかい影を落とす。こう見ると、放課後のカフェでだべってる普通の学生みたいに見えるな。


しばらくして食べ終わると、トレイを返して店を出る。


「だいぶ腹いっぱいになったね」


「ええ、2つとか頼まなくて良かった。それじゃ、探索者協会でアイスを買いに行きましょう」


「アイスは別腹ってね」


そう言って俺たちは並んで歩き出す。少し歩いて探索者協会のロビーに入ると、ひんやりとした空調の空気が火照った体に心地いい。


「アイスは…あったあった。今日はバニラ、チョコミント、ストロベリーチーズ、キャラメルエスプレッソだって」


「なんか新作っぽいのもあるわね。私はチーズのやつにしようかしら」


「俺はキャラメルのやつでいこうかな」


会計を済ませてアイスを受け取ると、二人で休憩スペースの端のテーブル席へと移動する。

静かな空間には、薄くBGMが流れていて、どこか非日常の余韻を感じさせた。


スプーンですくったキャラメルアイスを口に運ぶと、香ばしさとほろ苦さが口の中に広がった。


「…うまいなこれ。幸せになる味だ」


「ん、こっちもなかなか。酸味が良いアクセントになってるわ」


甘くて冷たいアイスを食べながら、ぼんやりと窓の向こうを眺める。


「しばらく休憩してから行こっか」


「そうね。お腹の中のポテトが全然消えないわ」

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