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第28話 取材

結局、アイスを食べ始めてから1時間ほど一之瀬さんと談笑してしまった。

そろそろ行くかという話が出たころ、スーツを来た女性がこちらにやってきて、俺たちに話しかけてきた。


「すみません、私はシーカーズ・ニュースという探索者のニュースを専門に取り扱っているメディアの者です」


スッと懐から名刺を出して渡してくる。


「鈴木海人さんと、一之瀬舞さんですよね?」


「そうですけど…」

「なんでしょう?」


「以前、探索者のご遺体を持ち帰ったことで話題になっていたと思うんですけど、よりお二人のことについて取材をしたいなと考えておりまして…お手数ですがよろしいですか?」


突然の申し出に、俺も一之瀬さんも一瞬目を見合わせた。


「取材……どうする?」


「まぁ、少しなら良いんじゃない?」


「ありがとうございます!質問は事前に決めてありますので、それに沿って簡単にお答えいただければ大丈夫です。

お時間は10分ほどを予定しています」


女性記者は慣れた手つきで、胸元のポケットから細長い録音デバイスを取り出し、机の上にそっと置いた。


「それでは、早速ですが――」


彼女の声色が少し変わる。仕事用の澄んだトーンだ。


「まず、お二人があの遺体搬送という非常に困難な判断をされた時、どういった想いだったのかをお聞かせください」


その問いに対して、一之瀬さんが少し悩んで答える。


「元々は、既に攻略された小型ダンジョンの調査、そして可能であれば探索者の遺品回収という依頼だったのですが…

攻略された小型ダンジョンは崩壊してしまうので、探索者の遺体がこちらに帰れなくなってしまうのは悲しいとは思っていました。

ただ、その時私たちはレベル1だったので、私が悩んでいたら彼が後押ししてくれたという感じですね」


「確かに、レベル1では浅い場所とは言えど危険ですよね。

鈴木さんはいかがですか?」


「俺も一之瀬さんと同じですかね。正直危険というのもあって、ご遺体を持ち帰ることは選択肢になかったですけど、一之瀬さんがご遺体の前で立ち止まって悩んでいるのを見て、俺が持ち帰ることを提案しました」


「なるほど…お互いに支え合って判断されたわけですね」


記者は小さく頷きながら、タブレットにメモを取る音を立てた。


「次の質問ですが、お二人のご関係と出会ったきっかけをお聞きしてもよろしいですか?」


その質問に一之瀬さんが答える。


「あぁ、友達ですね。学園が同じで、そこで知り合った形です」

(友達…………父さん、母さん、ついに俺にも友達が出来たよ…今までいなかった原因は貴方達だけど…)


俺の心が歓喜に満ち溢れる。友達だと思っていたのは俺だけじゃなくて本当に良かった。


「学園…もしかしてお二人は探索者育成学園に?」


「そうです」

「そうですね、先月入学したばかりです」


「なるほどなるほど…それでは最後に、お二人の将来の目標を教えてください。

一之瀬さんからお聞きしてもよろしいですか?」


「はい。将来の目標か…」


一之瀬さんは視線を窓の外に向けて少しの間考え、そして薄く笑みを浮かべて答えた。


「やっぱり、どうせなら上を目指したいという気持ちがあるので、何十年かかってでもA級の探索者になること…ですね」


記者は感心したように頷き、次に俺へと視線を移す。


「鈴木さんは、いかがですか?」


目標か…正直、あまり深く考えたことはなかったけど、まぁ簡単だな。


「とにかく楽しく生きて、そして強くなって、誰かを助けるというような選択肢を迷わず取れるような探索者になりたいですね」


「なるほど…ありがとうございます。お二人とも、とても素敵な目標ですね」


記者は微笑み、録音デバイスを止めた。


「これで全ての質問は終了です。本日は本当にありがとうございました。記事が完成しましたら、ご連絡させていただきますので、連絡先を教えていただけますか?」


「あ、はい」


俺と一之瀬さんはスマホを取り出して、女性記者に連絡先を教えた。

記者が去っていくのを見送ったあと、なんとも言えない余韻が残った。


「……ちょっと緊張したけど、悪くなかったわね」


「うん。まさか取材される日が来るとは思ってなかったな」


「ほんとにね……いい加減ダンジョンに行きましょうか。このままだと、ここで寝ることになっちゃうわよ」


「アハハ!そうだね、それじゃ早速行こっか」


俺たちは立ち上がってアイスのゴミを捨てると、探索者協会から出た。そして大通りを並んで歩く。


「もう14時になりそうで笑えるね」


「さすがに休みすぎたわね。午前中の頑張りが午後のサボりでプラマイゼロになるんじゃない?」


「ほんとにありえるから怖いな。午後はより一層頑張らなきゃ」


「…また採掘か。少し憂鬱になるわね」


「楽しく話しながらやればすぐに終わるよ、たぶん」


「話題にも限界があると思うけれど」


「その時はしりとりでもしてればいいさ」


そんなことを話していると、大扉にたどり着いた。

手続きを済ませて、大扉をくぐる。


「それじゃ、鉱石がありそうなとこ探しますか」


「ええ」

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