しばらく休憩をした俺は、結局探索する気が起きなくなり、魔石以外を売って、午後は美女木ダンジョンで採掘をして帰った。
若葉ダンジョンでの稼ぎが23000、美女木ダンジョンでの稼ぎが80000ぐらいだ。
若葉ダンジョンでは大して稼げなかったけど、まぁ新鮮味があって楽しかった気がするな。
そして次の日、授業の終わっていつも通りに基礎訓練施設に向かって歩いていた。
すでに5月の終わりも近く、暑い日が多くなっている。
日差しが強く、制服の上着を脱いでもじんわりと汗が滲んでくる。学園の敷地を歩く生徒たちの姿も、どこかだらけて見えた。
「はぁ……」
ため息をひとつ吐いて、俺は訓練施設の冷房を思い浮かべながら足を速めた。涼しい場所でトレーニングでもしてれば、そのうち気も紛れるはずだ。
基礎訓練施設の中に入って、まず鑑定機へと向かった。
それなりに魔物も倒してるはずだからレベルが上がってるはず。
鑑定機の前に立つと、学生証を入れて、穴の中に手を置く。
すると画面にステータスが表示された。
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〔鈴木海斗 年齢:16歳〕
〔職業:盗賊 Lv.4〕
[力:10][守:7][速:16][気:8][運:3]
〔職業スキル〕
[忍び足]
〔任意発動スキル 3/10〕
[ライトニング Lv.3]
[気配遮断 Lv.1]
[斬撃強化 Lv.1]
〔常時発動スキル 0/5〕
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「お、4になってんじゃん」
昨日ハチの魔物を何体か倒したのがでかい…というかその前にもノイズラットとかも倒してたもんな。
運も1つだけ上がってるし、ライトニングもめっちゃ使ってるからスキルレベルも上がってる。
「うん、いいね。それじゃ、今日も頑張るかな」
なんて呟きながら速の訓練をしようと歩き出すと、リュックのポケットに入れてあったスマホから着信音が鳴り響いた。
取り出して確認すると、いつだかに取材を受けた女性記者さんからだった。
(記事が出来上がったのかな?)
そう考えながら、通話に出る。
「もしもし、鈴木ですけど」
『どうも!以前取材させていただいた、シーカーズ・ニュースの霧島です!』
電話の向こうから聞こえてきたのは、はつらつとした女性の声だった。
以前よりもなぜかテンションが高いな。
「こんにちは。どうかしました?」
『実はですね。取材のときに話してもらった内容と、探索Lifeでの鈴木さんと一之瀬さんの配信映像を社内で共有したところ、編集部が大盛り上がりでして!』
興奮気味にまくし立てる霧島さんの声に、俺は返す言葉を探しながらも黙って聞いていた。
『それでですね。どうせなら企画として“無名の新人特集”をやろうって話になったんです!
タイトルは仮ですが、『無名でも輝く!新星探索者たち』って感じで。その第一弾に、鈴木さんと一之瀬さんを取り上げたいと思ってまして!』
「はぁ、俺と一之瀬さんが?」
『はい!まぁ厳密にはお二人は無名ではないんですけど。
それで、その新人特集は探索Lifeでの配信と取材内容を含めたものを映像として制作しようと考えておりまして。
打ち合わせをしたいなと考えているのですが…一之瀬さんには先に聞いて、放課後なら空いているとお聞きしたんですけど、鈴木さんはどうですか?』
「俺も放課後なら大丈夫です」
『そうですか!それなら明日、12時には美女木ダンジョン駅近くにある一般向けのシーカーズバーガーで待っていますので!』
「わかりました。自分たちも13時前には着くようにします」
『ありがとうございます!楽しみにしてますね!』
通話が切れると、スマホの画面に一瞬だけ自分のぼんやりとした表情が映った。
(信じられないぐらいテンション高かったな)
そう思いながらも速の訓練用のエリアに向かって歩き出す。
エアコンの効いた施設内は涼しく、熱を持った頭が少しずつ冷えていく。
ストレッチを始めた頃には、もう特集のことなんか忘れるほど集中していた。
次の日、授業が終わり、一之瀬さんに声をかけようと立ち上がると、一之瀬さんが先に近寄ってきていた。
「鈴木くん。一緒に行きましょう」
「そうだね。行こっか」
一之瀬さんが先に歩き出すと、俺も続いて歩き出す。
「一般向けのシーカーズバーガーか。どんな感じなんだろ」
「大して変わらないわよ。ただ作り手が料理人の職業じゃないだけで」
「へぇ〜、そうなんだ」
駅に着く頃には、すでに昼前の陽射しが強くなっていて、汗が額に滲み始めていた。
美女木ダンジョン駅から少し歩いた先にある一般向けのシーカーズバーガーは、探索者協会の敷地内にあるものと同じような外観をしていた。
店に入ると、ちょうど霧島さんがカウンターの近くに座って待っているのが見えた。
彼女の姿を見つけた瞬間、前以上に明るく手を振りながら向こうが声をかけてきた。
「あ、鈴木さん、一之瀬さん!早いですね!」
「どうも」
「こんにちは」
そう言って二人で席に着くと、軽く雑談を始めた。
「何食べますか?奢りですよ」
「俺はポテトとコーラだけで大丈夫です」
「私も鈴木くんと一緒に食べます」
「あら、そうですか。それじゃあ買ってきますね」
そう言うとレジで注文しに行き、そして大皿に乗った大盛りのポテトと飲み物3つを持ってやってきた。
テーブルの上にトレイを置いて、霧島さんはにこにことしながら、ポテトの山を真ん中に置いた。
「パーティーポテトってやつがあったので頼んできました!
チーズ、バーベキュー、チリソースの3つのソースがあるのでつまんでください」
「ありがとうございます」
「いただきます」
ポテトの香ばしい匂いが漂い、胃が反応する。
2人でつまんで食べていると、霧島さんがノートパソコンを取り出して真剣な顔をする。
「それじゃあポテトをつまみながら聞いてください。
まず特集で使おうと考えているのが、この前取材した内容を、実際の映像と共に編集して載せます。
そしてその後に、初めてお二人で探索したときのゴブリンやマッスルピッグとの戦いや、荒野での採掘などのダンジョン内での活動をまとめたハイライト映像を流すつもりです。
こちらがまだ試作の動画なんですけど」
そう言いながら、霧島さんはパソコンの画面をこちらに向ける。そこには俺と一之瀬さんが並んで、平原を歩く探索Lifeの映像が映し出されていた。
画質は綺麗で、ダンジョンドローンが滑らかに俺たちを捉えている。
「初めてのパーティー探索で、まだちょっと気まずい時の俺たちだ」
「こう見ると私、露骨に緊張してるわね…ちょっと恥ずかしいかもしれない」
「アハハ!そこが良いと編集部の間でも話題でしたよ。リアルな新人の挑戦で良いって」
「なら、良いのかな?」
一之瀬さんは気恥ずかしそうにしながらもポテトをつまむ。
「というか、このあと小型ダンジョンの調査になるのか…あっ、亡くなった探索者の方のご遺族にも声かけてますよね?」
「もちろんですもちろんです!むしろ真っ先に声をかけさせていただきました。快く承諾してくれましたよ」
「なら良かったです」
それからしばらく打ち合わせを続け、映像の流れやナレーションの候補などを一つ一つ確認していった。
霧島さんは熱心にメモを取りながら、俺たちの意見を細かく拾い上げていく。
打ち合わせは順調で終わり、霧島さんの手元のノートもほとんど埋まっていた。
霧島さんがトレイを返しに行き、俺たちは一緒にシーカーズバーガーを出る。
「それじゃあ今日はありがとうございました!また後日連絡させていただきますので」
そう言って、手を振りながら霧島さんは去っていった。
俺と一之瀬さんも軽く雑談をすると、解散して帰路についた。