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第41話 憂鬱

しばらくの間歩いていき、扉の前にたどり着いた。

ただ、さっきの戦闘の衝撃が、まだ腕に鈍く残っている気がする。


やっぱり、中間領域の魔物は文字通りレベルが違うな。

俺が活動しているのは、まだ表層領域。以前遭遇したフォレストベアも、表層領域と中間領域の間らへんにいる魔物らしいし、やっぱり奥にいくにはまだまだ早すぎるな。


大扉をくぐってダンジョンから出ると、不快な湿気から解放される。

アパートから出たときは暑く感じていたぐらいだが、今は涼しく感じるぐらいだ。


俺はダンジョンドローンを停止させてリュックにしまうと、屋台が並ぶ通りまで歩き、いつもの焼き鳥屋さんの場所まで行く。

おっちゃんは俺に気がついて顔を上げた。


「おー、あんちゃんじゃねぇか。探索終わりか?」


「休憩っす。このあとまた探索しに行きますね」


「よく行くなぁ、ジャングルは大変だろ?」


おっちゃんは感心したような顔をして聞いてくる。


「まじでキツいですね。湿気は凄いし、足元は悪いし」


「だろうなぁ…新しく出してる串焼き食えよ」


「え、なんか出たんですか?」


俺はメニュー看板を確認すると、そこには豚の串焼きが追加されていた。


「おぉ~、豚の串焼きですか。良いっすね」


「おう、しかもマッスルピッグの肉だぜ。いつもの疲労回復はもちろん、気持ち程度だが力も上昇する」


「へぇ〜、良いっすね。それじゃあ豚のタレ2本と鳥の塩1本貰おうかな」


「りょーかい。座ってまってな」


俺は言われた通りに近くにあるベンチに座って待つ。

その間に、探索者用のスマホを開いて依頼を確認した。とは言っても、受けられる依頼はそこまで無いな。

魔石と浄化の実やらの納品依頼ぐらいか、どうやら治癒の花もあるみたいだな。


「俺も探索者ランクそろそろ上げなきゃだな」


上げるには依頼をガンガン受ける必要があるから少し面倒なんだよな。

少しの間待っていると、おっちゃんが声をかけてきた。


「あんちゃんできたよー!」


「はーい!」


俺はダンジョンポイントで支払うと、串焼きが入った袋を受け取った。

受け取った串は、湯気と一緒に香ばしい匂いを放っていて、それだけでまた腹が鳴りそうになる。

ベンチに戻って腰を下ろすと、すぐに豚のタレ串にかぶりついた。


「うまっ」


噛み応えのある肉の中に、豚肉特有の濃厚な旨味が詰まっていて、タレの甘みがその旨味を引き立てる。

口の中で肉汁が広がるたび、疲労が消えていくのが分かった。力の上昇はまったく分からないが。

焼き鳥もいつも通り美味い。すべて食べきると、ベンチで休憩する。


時間はまだ11時だ。正直、あのジャングルに戻るのがかなり憂鬱だな。

探索するだけでも罰ゲームのような環境だが、それでも土屋先輩みたいな人は頑張ってるわけだしなぁ。


すると、座っている俺の前に誰かが立った。顔をあげると、そこには一之瀬さんがいた。

俺と同じ探索用の迷彩服上下で、黒革のリュックも背負っている。


「あれ!一之瀬さんだ。来たの?」


「ええ…虫が苦手なだけでダンジョンに行かないのは勿体ないと思ってね。それに、鈴木くんにレベルで置いていかれたくないし」


「アハハ!なるほど。いや、でも嬉しいな。正直1人でジャングルに行くの憂鬱になってたところなんだよね」


そう喋っていると、一之瀬さんも隣に座る。


「やっぱり、ジャングルはキツい?」


「そうだねぇ。足元も悪いし、湿気は凄いし…まぁ行けば分かるよ。あの不快な環境」


「それに、虫の魔物でしょう?…行きたくなくなってきたわね」


「そんなこと言わずに行こうよ。エスコートするからさ」


「……エスコート、ね。頼りにしてるわよ、鈴木くん」


そう言いながら、一之瀬さんはふっと笑った。


「じゃあ行こう…あれ、ご飯は?」


「もう食べてきたわ」


「そっか。それじゃあ行こっか」


「ええ……もし虫を見て悲鳴をあげても笑わないでよ」


「ん、まぁ…頑張るよ」


一之瀬さんと並んで立ち上がり、ダンジョン入口の大扉へと向かう。

一之瀬さんが加わったからか、ちょっと前までの憂鬱さはいくらか消え去っていた。

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