ダンジョン入口の大扉をくぐった瞬間、外の爽やかな空気が俺たちを迎えてくれた。
湿気から解放された開放感で、思わず深呼吸をする。
「やっぱり外の空気は最高ね」
一之瀬さんも同じように大きく息を吸って、安堵の表情を浮かべている。
「どう?この解放感」
「素晴らしいわね…っと、ダンジョンドローン停止させましょうか」
「あぁ、そうだった」
俺たちはダンジョンドローンを停止させてリュックにしまうと、買取所への方向へ歩き始めた。
買取所に行く前に、レアハーブと浄化の実の納品依頼を一之瀬さんが見つけてくれたので受けておいた。
もちろん魔石はドローンのために取っておく。
結果としては、合計で10万ちょっとだった。レアハーブが1つで6万、レアハーブ納品依頼の報酬が2万。
グラウンドワームの牙が1つ3千円だったのも意外と大きいな。
買取所を出ると、夕方の日差しが心地よく感じられた。時刻は16時を回っているが、まだ明るい。
「そうだ、鈴木くん」
「なに?」
一之瀬さんが突然立ち止まって振り返る。
「探索者協会にあるアイス、食べに行かない?」
「いいね!行こうよ、今日はずっと蒸し蒸ししてたからな〜」
「ええ。今日のアイスはきっと格別よ」
一之瀬さんは薄く笑みを浮かべながら、探索者協会へと歩き出す。
俺たちは探索者協会のロビーを抜けて奥に進むと、アイス屋へとたどり着いた。
「何にする?」
「うーん、チョコミントかな。さっぱりしたいし」
「じゃあ、私はストロベリーで」
俺たちはアイスを受け取って、ガラス張りの明るい休憩スペースへと向かい、窓際の席に座った。
外の景色を眺めながらアイスを食べる。
「美味すぎる」
一口目から、冷たくて甘いアイスが舌の上でとろけていく。
チョコのほんのりした苦味と、ミントの爽快感と甘みが交互に押し寄せてきて、さっきまで体にまとわりついていたジャングルの湿気が、完全に消えていくような気がした。
「今日のアイス、格別でしょう?」
「うん。めちゃくちゃ美味いや」
一之瀬さんもストロベリーアイスをスプーンですくって口に運ぶと、自然と笑みを浮かべる。
「うん。美味しい」
俺と一之瀬さんはアイスを食べ進める。
「虫の魔物はどうだった?」
「まぁ、慣れてきたような気がしなくもないわね」
「ハハ!絶対慣れてないやつじゃない?それ」
俺が笑いながらそう言うと、一之瀬さんは外の景色を見る。
「そうね、正直まだ苦手だわ」
「だよねぇ。今まで苦手だったものが、1日で得意になるわけもないし」
「ええ。慣れるために、これからも頑張らないと……」
そう言って、一之瀬さんは少し黙ると、俺の方を向いて目を合わせる。
「ねぇ、鈴木くん」
「なに?」
「これからダンジョンに潜るときは、2人で行くようにしない? いわゆる、固定パーティーって言うのかしら」
言葉の意味を理解するまで、ほんの数秒かかった。
固定パーティー。
お互いの能力や相性を信頼した者同士が、長期的に組むことを意味する言葉。
スプーンを持ったまま固まった俺を見て、一之瀬さんは少し恥ずかしそうに視線を逸らす。
「…もちろん、無理にとは言わないわ。だけどね、さっきの探索でも思ったの。
鈴木くんと一緒に探索していたら楽しいし、何より連携も取りやすいから、これからも一緒に行きたいなって」
「……いや、むしろ俺の方こそお願いしたいくらいだよ。
一之瀬さんと組めるなら、心強いどころの話じゃない」
自然と、その言葉が出た。一之瀬さんの頬がほんのり赤く染まる。
それが夕陽のせいなのか、照れているのかは分からなかったけど、まぁどちらでもいいか。
俺はスプーンをテーブルに置いて、軽く右手を差し出す。
「これからもよろしくね、一之瀬さん」
一之瀬さんは、少し驚いたように目を丸くして、それから静かに笑った。
「…ええ、こちらこそ。よろしく、鈴木くん」
そうして俺たちはガラス越しの夕暮れに包まれながら、新しい関係の始まりを、そっと握手で結んだ。