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第44話 チーム

「これからもよろしくね、一之瀬さん」


俺は手を差し出すと、一之瀬さんはそれを優しく握り返してくれた。


「ええ、こちらこそ。よろしく、鈴木くん」


アイスを食べ終えた俺たちは、探索者協会の休憩スペースでゆっくりと過ごしていた。


「ねえ、鈴木くん」


「何?」


「固定パーティーを組むことにしたけど、チームも作らない?」


「チーム?」


俺は首をかしげた。パーティーとチームって何が違うんだろう。


「あ、知らないのね。チームっていうのは、パーティーよりももっと正式な組織なのよ」


一之瀬さんは身を乗り出して説明し始めた。


「パーティーは一時的な組み合わせだけど、チームは長期的な協力関係を前提としてるの。

探索者協会に登録すると、いろいろな特典があるのよ」


「どんな特典?」


「まず、報酬の自動分配システムが使えるの。チームで登録しておけば、パーティー登録をしなくても自動で報酬が分配されるのよ」


「へぇ、それは便利だね」


「ええ。それに、チーム用の口座が作れるの。

報酬の一部を自動で貯蓄することもできるから、将来的に高価な装備を買ったり、危険なダンジョンに挑戦するための資金を貯めたりできるのよ」


一之瀬さんの説明を聞いて、俺は興味を持った。


「すごいじゃん。何か条件とかあるの?」


「基本的には2人以上のメンバーがいれば大丈夫よ。ただし、チームとしての活動実績が必要だから、定期的に一緒に探索する必要があるの」


「なるほど。俺たちなら問題ないか」


「そうね。どう?作ってみない?」


一之瀬さんの提案に、俺は迷わず頷いた。


「やろう。メリットしかないじゃん」


「やった!それじゃ、早速行きましょ!」


一之瀬さんは嬉しそうに手を叩いた。

俺たちは休憩スペースを出て、探索者協会の受付カウンターに向かった。

先ほどとは別のスタッフが立っている。


「あの、チーム登録について聞きたいんですけど」


「はい、チーム登録ですね。こちらの用紙にご記入ください」


スタッフは緑色の用紙を差し出してくれた。パーティー登録の時とは色が違う。


「チーム登録は少し複雑になりますが、ご不明な点があればお声かけください」


俺たちは近くのテーブルに移動して、用紙を確認した。


「うわ、けっこう項目が多いね」


チーム名、代表者、副代表者、メンバー、活動方針、第1目標、予想される活動頻度、専用口座の設定。

当たり前だが、探索者用のスマホから簡単にできるパーティー登録よりもずっと大変だな。


「まずはチーム名を決めましょう」


「チーム名かぁ…何かあるかな」


一之瀬さんは少し考えてから言った。


「"ツインブレード"はどう?二つの刃って意味で、私たちにぴったりだと思うの」


「わぁ、めっちゃ良いじゃん。ツインブレードにしようよ」


俺は用紙のチーム名の欄に「ツインブレード」と記入した。


「代表者は…」


「鈴木くんでいいわよ。私は副代表で」


「俺?」


「ええ。あなたの方が探索経験も豊富じゃない」


「豊富って…大して変わらないでしょ」


一之瀬さんの言葉に少し笑う。


「じゃあ、お言葉に甘えて。俺にするね」


「ええ」


代表者に俺の名前、副代表者に一之瀬さんの名前を記入する。


「活動方針は…」


「安全第一で着実な成長を目指す、とかどう?」


「いいわね。私たちらしいわ」


「うんうん。そんで、第1目標は…」


「…レベル10到達と中間領域での安定した活動とか?」


「うん。現実的でいいね、採用」


「採用って、どこ目線なのよ」


俺たちは協力して残りの項目も埋めていく。

活動頻度は週2程度、学園が休みの日。

専用口座は設定する、緊急連絡先…。


「専用口座の貯蓄率はどうする?」


「20%くらいでどうかしら?将来のための投資として」


「いいね。それくらいなら無理がないし」


記入が終わった用紙を受付に提出すると、スタッフが内容を確認し始めた。


「ツインブレード…素敵なチーム名ですね」


「ありがとうございます」


「では、こちらにもサインをお願いします。チーム規約の同意書になります」


俺と一之瀬さんは規約に目を通してからサインした。

パーティー規約よりも詳細で、チームとしての責任や義務について書かれている。


「それから、専用口座の開設手続きもございます。こちらの書類もお願いします」


追加の書類にも記入する。


「ありがとうございます。では、チーム登録証と専用口座のカードを発行いたします。少々お待ちください」


スタッフはパソコンで何か入力し、プリンターから出てきた書類に公式スタンプを押した。

さらに、小さなカード型の機械でプラスチックカードも作成してくれる。


「こちらが『ツインブレード』チームの登録証です。そして、こちらがチーム専用口座のカードになります」


受け取った登録証には、チーム名、登録番号、メンバー名、設立日などが記載されている。

専用口座のカードは、普通の銀行カードのような見た目だった。


「このカードで、チーム口座の残高確認や引き出しができます。また、報酬の自動分配設定も、こちらの端末で変更可能です」


スタッフは近くにある専用端末を指差した。


「もちろん探索者用スマホからも確認できますので。

あ、そうそう。チーム登録の特典として、こちらの冊子もお渡しします」


スタッフは小さな冊子を差し出した。

『チーム向け特別依頼一覧』と書かれている。


「チーム限定の依頼もあるんですね」


「はい。個人では受けられない、より高度で報酬の良い依頼が掲載されています。

ただし、チームとしての実績が必要なものもありますので、まずは通常の探索で経験を積んでくださいね」


「分かりました」


俺たちは協会を出て、夕暮れの街を歩き、駅へと向かう。


「なんだか、本当に探索者になったって感じがするね」


「そうね。チームを組むなんて、ちょっと前の私には想像もできなかったわ。

本当に、ソロで活動する気だったから」


「俺も1人で活動する気だったなぁ」


一之瀬さんの言葉に、俺も同感だった。


「そうだ、明日はどうする?」


「またここで良いんじゃない?私も虫の魔物に慣れたいし」


「オッケー、何時に集合にする?」


「7時ぐらいかしら?」


「りょーかい。てか早いね」


「できるだけ多く稼ぎたいもの」


そんなことを話しながら駅に向かっていると、あっという間に到着してしまった。


「それじゃ、また明日ね。鈴木くん」


「うん。またね」


一之瀬さんは笑顔を浮かべて、手を振りながら去っていった。

俺もアパートへと帰り始めた。

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