「これからもよろしくね、一之瀬さん」
俺は手を差し出すと、一之瀬さんはそれを優しく握り返してくれた。
「ええ、こちらこそ。よろしく、鈴木くん」
アイスを食べ終えた俺たちは、探索者協会の休憩スペースでゆっくりと過ごしていた。
「ねえ、鈴木くん」
「何?」
「固定パーティーを組むことにしたけど、チームも作らない?」
「チーム?」
俺は首をかしげた。パーティーとチームって何が違うんだろう。
「あ、知らないのね。チームっていうのは、パーティーよりももっと正式な組織なのよ」
一之瀬さんは身を乗り出して説明し始めた。
「パーティーは一時的な組み合わせだけど、チームは長期的な協力関係を前提としてるの。
探索者協会に登録すると、いろいろな特典があるのよ」
「どんな特典?」
「まず、報酬の自動分配システムが使えるの。チームで登録しておけば、パーティー登録をしなくても自動で報酬が分配されるのよ」
「へぇ、それは便利だね」
「ええ。それに、チーム用の口座が作れるの。
報酬の一部を自動で貯蓄することもできるから、将来的に高価な装備を買ったり、危険なダンジョンに挑戦するための資金を貯めたりできるのよ」
一之瀬さんの説明を聞いて、俺は興味を持った。
「すごいじゃん。何か条件とかあるの?」
「基本的には2人以上のメンバーがいれば大丈夫よ。ただし、チームとしての活動実績が必要だから、定期的に一緒に探索する必要があるの」
「なるほど。俺たちなら問題ないか」
「そうね。どう?作ってみない?」
一之瀬さんの提案に、俺は迷わず頷いた。
「やろう。メリットしかないじゃん」
「やった!それじゃ、早速行きましょ!」
一之瀬さんは嬉しそうに手を叩いた。
俺たちは休憩スペースを出て、探索者協会の受付カウンターに向かった。
先ほどとは別のスタッフが立っている。
「あの、チーム登録について聞きたいんですけど」
「はい、チーム登録ですね。こちらの用紙にご記入ください」
スタッフは緑色の用紙を差し出してくれた。パーティー登録の時とは色が違う。
「チーム登録は少し複雑になりますが、ご不明な点があればお声かけください」
俺たちは近くのテーブルに移動して、用紙を確認した。
「うわ、けっこう項目が多いね」
チーム名、代表者、副代表者、メンバー、活動方針、第1目標、予想される活動頻度、専用口座の設定。
当たり前だが、探索者用のスマホから簡単にできるパーティー登録よりもずっと大変だな。
「まずはチーム名を決めましょう」
「チーム名かぁ…何かあるかな」
一之瀬さんは少し考えてから言った。
「"ツインブレード"はどう?二つの刃って意味で、私たちにぴったりだと思うの」
「わぁ、めっちゃ良いじゃん。ツインブレードにしようよ」
俺は用紙のチーム名の欄に「ツインブレード」と記入した。
「代表者は…」
「鈴木くんでいいわよ。私は副代表で」
「俺?」
「ええ。あなたの方が探索経験も豊富じゃない」
「豊富って…大して変わらないでしょ」
一之瀬さんの言葉に少し笑う。
「じゃあ、お言葉に甘えて。俺にするね」
「ええ」
代表者に俺の名前、副代表者に一之瀬さんの名前を記入する。
「活動方針は…」
「安全第一で着実な成長を目指す、とかどう?」
「いいわね。私たちらしいわ」
「うんうん。そんで、第1目標は…」
「…レベル10到達と中間領域での安定した活動とか?」
「うん。現実的でいいね、採用」
「採用って、どこ目線なのよ」
俺たちは協力して残りの項目も埋めていく。
活動頻度は週2程度、学園が休みの日。
専用口座は設定する、緊急連絡先…。
「専用口座の貯蓄率はどうする?」
「20%くらいでどうかしら?将来のための投資として」
「いいね。それくらいなら無理がないし」
記入が終わった用紙を受付に提出すると、スタッフが内容を確認し始めた。
「ツインブレード…素敵なチーム名ですね」
「ありがとうございます」
「では、こちらにもサインをお願いします。チーム規約の同意書になります」
俺と一之瀬さんは規約に目を通してからサインした。
パーティー規約よりも詳細で、チームとしての責任や義務について書かれている。
「それから、専用口座の開設手続きもございます。こちらの書類もお願いします」
追加の書類にも記入する。
「ありがとうございます。では、チーム登録証と専用口座のカードを発行いたします。少々お待ちください」
スタッフはパソコンで何か入力し、プリンターから出てきた書類に公式スタンプを押した。
さらに、小さなカード型の機械でプラスチックカードも作成してくれる。
「こちらが『ツインブレード』チームの登録証です。そして、こちらがチーム専用口座のカードになります」
受け取った登録証には、チーム名、登録番号、メンバー名、設立日などが記載されている。
専用口座のカードは、普通の銀行カードのような見た目だった。
「このカードで、チーム口座の残高確認や引き出しができます。また、報酬の自動分配設定も、こちらの端末で変更可能です」
スタッフは近くにある専用端末を指差した。
「もちろん探索者用スマホからも確認できますので。
あ、そうそう。チーム登録の特典として、こちらの冊子もお渡しします」
スタッフは小さな冊子を差し出した。
『チーム向け特別依頼一覧』と書かれている。
「チーム限定の依頼もあるんですね」
「はい。個人では受けられない、より高度で報酬の良い依頼が掲載されています。
ただし、チームとしての実績が必要なものもありますので、まずは通常の探索で経験を積んでくださいね」
「分かりました」
俺たちは協会を出て、夕暮れの街を歩き、駅へと向かう。
「なんだか、本当に探索者になったって感じがするね」
「そうね。チームを組むなんて、ちょっと前の私には想像もできなかったわ。
本当に、ソロで活動する気だったから」
「俺も1人で活動する気だったなぁ」
一之瀬さんの言葉に、俺も同感だった。
「そうだ、明日はどうする?」
「またここで良いんじゃない?私も虫の魔物に慣れたいし」
「オッケー、何時に集合にする?」
「7時ぐらいかしら?」
「りょーかい。てか早いね」
「できるだけ多く稼ぎたいもの」
そんなことを話しながら駅に向かっていると、あっという間に到着してしまった。
「それじゃ、また明日ね。鈴木くん」
「うん。またね」
一之瀬さんは笑顔を浮かべて、手を振りながら去っていった。
俺もアパートへと帰り始めた。