「…私、あなたの事が好きみたい」
「……へっ?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の思考が完全に停止した。
そして、その言葉を理解すると、顔に熱が集まってくるのを感じて、自分でも顔が赤くなったのを自覚した。
「な、なんで?」
俺は思わずそう口にしていた。一之瀬さんの突然の告白に、頭が追いつかない。
一之瀬さんは少し顔を背けて、頬を薄く染めながら答えた。
「いつの間にか好きになってたから、好きになったきっかけは分からないけれど…」
一之瀬さんは俺の方を見つめ直すと、そっと俺の手に自分の両手を重ねた。
温かくて柔らかい感触が伝わってくる。
「あなたのこと、誰にも渡したくないの」
その言葉と同時に、俺の心臓が激しく鼓動し始めた。
ドクドクと音が聞こえそうなほど早く打っている。手のひらに汗をかいて、呼吸も浅くなってしまう。
「え、あ…その…」
俺は狼狽えながら言葉を探したが、うまく話せない。
一之瀬さんの手の温もりと、彼女の真剣な眼差しに圧倒されていた。
一之瀬さんは俺のそんな様子を見て、クスッと小さく笑った。
「可愛いわね」
「か、可愛いって…」
俺がそう言いかけた時、一之瀬さんが俺にもたれかかるように抱きついてきた。彼女の体温と香りが一気に近くなって、俺の混乱は頂点に達した。
「私のものになってくれる?」
一之瀬さんは俺の耳元でそう囁くと、顔を上げて俺を見つめた。その瞳には強い意志が宿っている。
「一之瀬さん…」
俺が何か言おうとした瞬間、一之瀬さんの唇が俺の唇に重なった。
柔らかくて温かい感触。時間が止まったような感覚。
俺の頭の中は完全に真っ白になって、何も考えられなくなった。
キスは数秒間続いた。一之瀬さんが顔を離すと、俺たちは見つめ合った。
「…初めて?」
一之瀬さんが小さく聞いた。
「う、うん…」
俺は頷いた。顔が火照って、まだ心臓がドキドキしている。
「私も」
一之瀬さんも少し恥ずかしそうに微笑んだ。
リビングに静寂が流れた。窓の外では街の明かりが輝いていて、夜景が美しく見える。
でも俺の頭の中は、さっきのキスのことでいっぱいだった。
「あの…」
俺は何か言おうとしたが、言葉が出てこない。
「今すぐ答えを出さなくても大丈夫よ」
一之瀬さんは優しく言った。
「でも、私の気持ちは本当。あなたのことが好き」
「俺も…」
俺は言いかけて、言葉に詰まった。自分の気持ちがよく分からない。
一之瀬さんのことは確かに大切に思っているし、一緒にいると楽しい。でも、それが恋愛感情なのかどうか、俺にはまだ分からなかった。
「俺も、一之瀬さんのことは大切に思ってる。でも、恋愛感情なのかどうか、まだよく分からないんだ」
「フフ、正直でいてくれてありがとう」
一之瀬さんは微笑んだ。
「でも、今のキスはどうだった?」
「え?」
「嫌だった?」
「いや…嫌じゃなかった」
俺は正直に答えた。
「それなら、少しずつでいいから、私のことを考えてみて」
一之瀬さんは俺の手を握り直した。
「私は、待ってるから」
一之瀬さんは笑顔でそう言った。
時計を見ると、もう19時を過ぎていた。
「そろそろ、帰ろうかな」
「そうね。見送るわ」
俺は立ち上がって、玄関に向かった。一之瀬さんも一緒についてきてくれる。
「今日はありがとう、楽しかった。お菓子とかもありがとね」
「こちらこそ。楽しかったわ」
「うん…それじゃ、また明日」
「ええ、また明日」
一之瀬さんは玄関で俺を見送ってくれた。
エレベーターに乗って1階に降りると、俺は深く息を吸った。外の空気が冷たくて、少し頭がすっきりする。
駅に向かって歩きながら、俺は今日のことを考えた。
確かに一之瀬さんのことは大切に思っている。一緒にいると楽しいし、彼女が危険な目に遭うのは嫌だ。
でも、それが恋愛感情なのかどうか、まだよく分からない。
電車に乗って家に帰る間、俺はずっとそのことを考えていた。一之瀬さんの優しい笑顔、温かい手の感触、そして柔らかい唇の感触が頭から離れなかった。
家に着いて部屋に入ると、俺は鏡で自分の顔を見た。まだ少し赤くなっている。
「どうしたら、良いんだろう」
俺は一人で呟いた。
【一之瀬視点】
私は鈴木くんを見送ると、足早にリビングまで戻り、ソファに腰を下ろした。
そして、さっきまで鈴木くんが座っていた場所に視線を向ける。
「言っちゃったなぁ…」
本当は今日、告白するつもりは無かったけれど、いつも過ごしている空間に鈴木くんがいたのと、特集を見ていたら想いが溢れてしまった。
「き、キスもしちゃった。鈴木くんと…」
唇を指先で軽く触れる。僅かにまだ、鈴木くんの唇の感触が残っているような気がする。
そう思うと、鼓動が早まってきた。
「鈴木くん…可愛かったな」
告白されて狼狽えてる鈴木くんを思い出すと、胸が締め付けられる。
もう、ダメだ。私には鈴木くんしか考えられない。
「もっと、攻めなきゃ」
まだ付き合ってるわけじゃない、でも反応的に悪くは無かったはず。
でも油断はできない。これから有名になるにつれて、鈴木くんの女性ファンもどんどん増えるだろうし。
あの、ギャルの探索者みたいな人が鈴木くんを誘惑するかもしれない。
その前に、私で耐性をつけてもらわないと…
「鈴木くん…好き…」