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第57話 久しぶり

平原に足を踏み入れると、久しぶりの開放感が俺たちを包んだ。

青い空が頭上に広がり、緑の草原が地平線まで続いている。

吹き抜ける風が心地よく、ジャングルの蒸し暑さとは大違いだ。


遠くには小さな丘がいくつか見え、所々に木々が点在している。草を踏む音が足元から聞こえ、土と緑の匂いが風に乗って運ばれてくる。


「どっちに進む?」


舞が周囲を見回しながら聞いてきた。


「とりあえず森が無いほうを進んで行こっか」


俺は右手の方向を指差した。左側の奥には森が見えるが、右側は開けた平原が続いている。


「そうね。見通しも良いし、安全そうだわ」


俺たちは右方向に向かって歩き出した。ドローンが静かに俺たちの後を追ってくる。

歩きながら、舞が思い出したように口を開いた。


「たしか、平原のほうが魔物が弱いんだったかしら?」


「そうそう、その代わり進むにつれて数が多くなるらしいけどね。あんまり進みすぎないように気をつけないと」


「そうね。まっ、いつも通りかしら」


平原を歩いていると、所々に他の探索者たちの姿が見える。

2人組のパーティーが魔物と戦っている様子や、1人で素材を採取している探索者もいる。


「今日は結構人見かけるわね」


「そうだねぇ。見通しも良いから尚更かな」


そんな事を話しながら歩いていると、僅かな違和感を感じ取った。この感覚は気配察知だな。


「魔物がいるっぽい、あっちの茂みかな」


俺は前方の小さな茂みを指差した。

舞も警戒しながら茂みの方を見る。俺たちは武器を構えた。

俺はサーベルを抜き、舞は斧を手に取る。


茂みからガサガサと音がして、筋肉質な豚が姿を現した。マッスルピッグだ。


「マッスルピッグね。1匹だけみたい」


「よし、やってみよう」


マッスルピッグは俺たちに気づくと低く唸った。

筋肉の塊のような前脚が地面を叩き、土埃が舞い上がる。


俺は左手をマッスルビッグへ向けた。


「『ライトニング』」


細い紫の雷がマッスルピッグに直撃し、一瞬動きを止めた。


その隙を逃さず、俺は一気に距離を詰めてサーベルを振り下ろした。刃がマッスルピッグの体に深々と食い込み、マッスルピッグは悲鳴を上げて倒れた。

そして光となって消える。


マッスルピッグは肉と魔石をドロップした。俺は異空間収納のリュックにそれらをしまい込む。


「以前よりもすんなり倒せたわね」


「そうだね。一人でも楽にいけた」


以前なら少し苦戦していたマッスルピッグを、今では余裕を持って倒すことができる。

成長を実感できるのは、やっぱり嬉しいな。


俺たちは再び歩き出した。途中、治癒の花や豚キノコなんかを採取しつつも歩いていると、また気配察知が反応した。

今度は複数の気配を感じる。


「今度は複数いるみたい」


「どこ?」


「あの丘の向こうかな」


俺たちは慎重に丘に近づいた。丘の向こうを覗くと、2匹のゴブリンが錆びた剣を持って歩いているのが見えた。


「ゴブリン2匹ね」


「そうだね、やっちゃおっか」


俺たちはすぐさま接近する。俺は慌てふためくゴブリンの首をサーベルで斬り裂き、舞は頭に斧を振り下ろして頭をかち割って倒した。


ゴブリンたちは魔石と錆びた剣をドロップした。錆びた剣は売値は安いが、数が集まれば結構な金額になる。


俺たちはさらに平原を進んだ。途中でスライムやマッスルピッグと何度か戦闘になったが、どれも楽に倒すことができた。


そしてしばらく奥に進むと、俺たちは平原で初めて見る魔物に遭遇した。


「あれは…オークか」


前方に、ゴブリンよりも一回り大きく、筋肉質な緑色の人型の魔物が2体いた。手には木のこん棒を持っている。


「平原でオークを見るのは初めてね」


「そうだね。でも2人なら大丈夫だと思う」


オークが俺達に気が付くと、唸り声を上げながら突進してきた。


舞は斧を高く掲げて、右のオークに斬りかかる。

オークはこん棒を振りかぶって迎撃しようとするが、彼女の速度がそれを上回る。

斧はオークの腕をかすめ、肉を割る音が響いた。


俺も左のオークと距離を詰める。奴がこん棒を振り下ろしてくる瞬間を狙って横に避けながらサーベルを振るう。

鋭い切っ先が膝の関節を斬り裂き、オークが呻き声を上げてよろめく。


その隙を逃さずに接近して、首に狙いを定めてサーベルを振るった

オークの首に深々と刃が食い込み、苦悶の声を上げて倒れて光となる。


舞も斧を振り抜き、オークの首を斬り飛ばす。その瞬間、奴の体は光となって消えた。


「ナイス!良い動きだったね〜」


「フフ、あなたもね」


オークたちは木のこん棒とオークの肉、そして魔石をドロップした。

俺たちは戦利品をリュックにしまった。


そこで舞が探索者マップを確認した。


「ちょっと、進みすぎかしら?」


舞のスマホからマップを見ると、確かに大扉からそこそこ離れていた。


「そうだね、ちょっと引き返して辺りの魔物を倒そっか」


「ええ、そうしましょう」


俺たちは来た道を少し戻りながら、周辺の魔物を倒していった。スライムやゴブリン、マッスルピッグなどと戦闘を重ね、治癒の花なんかも見つけ次第採取していった。


気がつくと、もう昼の時間になっていた。


「そろそろお腹空いたね」


「そうね。一度戻りましょうか」


俺たちは大扉まで戻ることにした。


大扉に向かって歩いていると、ちょうどダンジョンに入ろうとしている人影が見えた。

よく見ると、見覚えのある顔だった。


「あれ、立花さん! 久しぶりですね」


俺が声をかけると、立花さんが振り返った。


「おぉ、海人か。最近は依頼で別のダンジョンに行ってたんだよ…ん、そこの子はパーティーメンバーか?」


立花さんは舞の方を見ながら聞いてきた。


「パーティーというか、同じチームのメンバーです」


「そうか、お前もソロじゃなくなったか。良いことだ」


立花さんは笑みを浮かべて言った。


「こんにちは、一之瀬舞です」


舞が自己紹介をした。


「よろしくな、舞ちゃん。俺は立花太一だ。こいつの先輩みたいなもんだな。

そんじゃ、2人も気をつけて探索しろよ」


「はい、立花さんもお気をつけて」


俺たちは立花さんと別れて、ダンジョンから出た。

外に出ると、相変わらず暑い日差しが照りつけていた。


「今日は屋台にしようか」


「いいわね」


俺たちはダンジョンドローンを停止させて屋台街に向かった。

以前よりも屋台の数が戻ってきているようで、活気が感じられる。


俺はいつもの焼き鳥屋に向かった。


「焼き鳥のタレ3本と塩1本お願いします」


「お、あんちゃんか。あいよ」


おっちゃんが手際よく焼き鳥を準備してくれる。

一方、舞は別の屋台で焼肉のおにぎりとからあげを買っていた。


「焼肉のおにぎり…めっちゃ美味そうだね」


俺は舞が買った焼肉のおにぎりを見て言った。

おにぎりのてっぺんから牛肉が溢れ出ていて、かなり美味しそうだ。


「そうでしょう?結構人気みたいよ」


「へぇ~、俺も買ってこようかな」


「いいじゃない、一緒に食べましょう」


俺は焼肉のおにぎりを買いに行った。


「焼肉のおにぎり1つお願いします」


「はーい!」


焼き鳥と焼肉のおにぎりを受け取ると、俺たちは探索者協会の休憩スペースに向かった。

エアコンの効いた涼しい空間で、俺たちは昼食を取る。


焼き鳥の香ばしい香りが鼻をくすぐり、俺は一口かじる。

甘辛いタレが肉の旨味と混ざり合い、じんわりと口の中に広がった。


「やっぱ、この焼き鳥うまいな」


そう呟くと、舞は焼肉のおにぎりを手にしてニコニコしていた。彼女がかじるたびに、肉の脂がご飯に染み込んでいて、見ているだけで腹が鳴りそうになる。


俺も焼肉のおにぎりを手にとって齧り付いた。

牛肉は甘辛く味付けされていて、炭火の香りが残っている。


「うんまっ!」


「ええ、当たりだったわね」


二人で笑いながら、それぞれの昼食を楽しむ。休憩スペースの窓の外では、入れ替わり立ち替わり、探索者たちがダンジョンへ向かっていくのが見える。

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