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第59話 トラブル

探索は昨日と変わらず順調に進んだ。

ファングラビットやゴブリン、マッスルピッグといった魔物たちと遭遇したが、やっぱり気配察知で事前に魔物の位置を把握できるのは大きく、効率良く倒すことができた。


そしてお昼の時間になると、俺たちは大扉まで戻ってきた。

ダンジョンから出ると、日曜なのと昼時だからか、外は多くの探索者で賑わっていた。


「今日も屋台にしよっか」


「いいわね。昨日悩んでたけど買わなかったのがあるのよ」


屋台が並ぶ道へと行くと、食欲をそそる香りがそこかしこから漂ってくる。

舞は肉がたっぷり入った大きなお好み焼きを注文した。

俺はいつもの焼き鳥屋で豚の串焼きのタレ味を3本と、昨日買った焼肉のおにぎりを購入した。

それぞれが好みの昼食を手に、俺たちは探索者協会の休憩スペースへと向かう。


「うわっ、すごい人…空いてるかな」


「探してみましょう」


休憩スペースは、昼食をとる探索者たちでごった返していた。空いている席を見つけるのも一苦労だったが、なんとか席を確保することができた。


テーブルに購入した食べ物を並べ、俺たちは早速昼食を食べ始めた。

舞のお好み焼きは、熱々の鉄板で焼かれたばかりだからか湯気が立ち上っている。舞は割り箸でお好み焼きをつまんで口に運んだ。


「ん、美味し」


美味しそうに口を動かしている舞を見て、俺も豚の串焼きに齧り付いた。甘いタレの味と豚の肉汁が口に広がる。

1本食べると、焼肉のおにぎりを食べた。


「今日もそれ買ったのね」


「うん。美味かったからさ、我慢できずに買っちゃったよ」


俺たちは、探索の疲れを癒すように、ゆっくりと食事を楽しんだ。

食事が終わると、トイレに行きたくなり立ち上がる。


「ちょっとトイレに行ってくるね」


「ええ、いってらっしゃい」



少し経って俺がトイレから戻ってくると、休憩スペースの様子が少しおかしいことに気が付いた。


舞の座っていたテーブルの前に、見慣れない男性探索者が立っていて、舞に話しかけているようだった。

男性はいかにも自信ありげな態度で、舞に何かを熱心に語りかけている。

俺は嫌な予感を覚えながら、二人の元へと近づいていった。


俺が近づくと、男性の声がはっきりと聞こえてきた。


「一緒にパーティー組んだら強い魔物も倒させてあげるからさ、ね?」


「興味ないですね、というか既にパーティー組んでるので」


男性は舞の顔を覗き込むようにして誘うが、毅然とした態度で断る。

しかし、男性は諦めようとしない。

さらに言葉を重ねようとしたその時、俺が二人の間に割って入った。


「舞は俺とパーティー組んでますけど、どうしたんですか?」


俺は冷静な口調で男性に問いかけた。

男性は俺をチラリと一瞥すると、まるで存在しないかのように無視して、再び舞に話しかけた。


「こんなやつとパーティー組むより俺と組んだほうが絶対良いって!」


男性はそう吐き捨てた。その瞬間、舞の表情が凍りつく。

舞はゆっくりと顔を上げ、男性を真っ直ぐに見据えた。


「こんなやつ…ですか。

私から言わせてもらえば、何度も断られているのにみっともなく勧誘してきて、なおかつ私の仲間を馬鹿にするような品性の無い貴方のほうが"こんなやつ"と言うのに相応しいと思いますが」


舞の言葉は、休憩スペースにいた他の探索者たちの耳にも届いた。

すると、周囲からクスクスと笑い声が漏れ始めた。

少し柄の悪そうな男性探索者にいたっては、ゲラゲラと大声で笑っている。

男性は顔を真っ赤にして、表情は怒りによって醜く歪む。


男性は拳を固く握りしめ、舞を殴ろうと振り上げた。その拳は、舞の顔めがけて一直線に振り下ろされる。


俺は咄嗟に、男性の両足にタックルをしながら両足を持ち上げて、男性を地面に倒した。

そしてすぐに立ち上がると、男性は地面に倒れたまま、憎悪に満ちた目で俺を睨みつけた。


「テメェ!!」


男性は叫びながら片手を俺に向けて突き出した。


「『ロックランス!!』」


その瞬間、俺の危険察知スキルが激しく反応した。


(やべぇっ!!)


全身にゾクッとした悪寒が走り、俺は咄嗟に飛び避けようとする。

しかし、ロックランスが放たれるよりも早く、周囲にいた何人かの探索者が男性に駆け寄り、その身柄を素早く取り押さえた。


同時に、先ほどゲラゲラと笑っていた柄の悪そうな男性探索者が、形成されている途中の岩の槍を拳で粉々に破壊した。

男性は取り押さえられながらも、舞と俺に向かって罵声を浴びせ続けていた。


探索者協会の職員も駆けつけ、男性はそのまま連行されていった。


「ありがとう、海人。助かったわ」


「いや、大丈夫だった?」


「ええ、大丈夫よ。海人が助けてくれたから」


先ほどまで騒がしかった休憩スペースは、何事もなかったかのように、再び穏やかな雰囲気に戻っていた。

よくあることなのだろうか?いや、それにしても…


「酷い目にあったなぁ」


「ええ、本当にね」

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