探索は昨日と変わらず順調に進んだ。
ファングラビットやゴブリン、マッスルピッグといった魔物たちと遭遇したが、やっぱり気配察知で事前に魔物の位置を把握できるのは大きく、効率良く倒すことができた。
そしてお昼の時間になると、俺たちは大扉まで戻ってきた。
ダンジョンから出ると、日曜なのと昼時だからか、外は多くの探索者で賑わっていた。
「今日も屋台にしよっか」
「いいわね。昨日悩んでたけど買わなかったのがあるのよ」
屋台が並ぶ道へと行くと、食欲をそそる香りがそこかしこから漂ってくる。
舞は肉がたっぷり入った大きなお好み焼きを注文した。
俺はいつもの焼き鳥屋で豚の串焼きのタレ味を3本と、昨日買った焼肉のおにぎりを購入した。
それぞれが好みの昼食を手に、俺たちは探索者協会の休憩スペースへと向かう。
「うわっ、すごい人…空いてるかな」
「探してみましょう」
休憩スペースは、昼食をとる探索者たちでごった返していた。空いている席を見つけるのも一苦労だったが、なんとか席を確保することができた。
テーブルに購入した食べ物を並べ、俺たちは早速昼食を食べ始めた。
舞のお好み焼きは、熱々の鉄板で焼かれたばかりだからか湯気が立ち上っている。舞は割り箸でお好み焼きをつまんで口に運んだ。
「ん、美味し」
美味しそうに口を動かしている舞を見て、俺も豚の串焼きに齧り付いた。甘いタレの味と豚の肉汁が口に広がる。
1本食べると、焼肉のおにぎりを食べた。
「今日もそれ買ったのね」
「うん。美味かったからさ、我慢できずに買っちゃったよ」
俺たちは、探索の疲れを癒すように、ゆっくりと食事を楽しんだ。
食事が終わると、トイレに行きたくなり立ち上がる。
「ちょっとトイレに行ってくるね」
「ええ、いってらっしゃい」
少し経って俺がトイレから戻ってくると、休憩スペースの様子が少しおかしいことに気が付いた。
舞の座っていたテーブルの前に、見慣れない男性探索者が立っていて、舞に話しかけているようだった。
男性はいかにも自信ありげな態度で、舞に何かを熱心に語りかけている。
俺は嫌な予感を覚えながら、二人の元へと近づいていった。
俺が近づくと、男性の声がはっきりと聞こえてきた。
「一緒にパーティー組んだら強い魔物も倒させてあげるからさ、ね?」
「興味ないですね、というか既にパーティー組んでるので」
男性は舞の顔を覗き込むようにして誘うが、毅然とした態度で断る。
しかし、男性は諦めようとしない。
さらに言葉を重ねようとしたその時、俺が二人の間に割って入った。
「舞は俺とパーティー組んでますけど、どうしたんですか?」
俺は冷静な口調で男性に問いかけた。
男性は俺をチラリと一瞥すると、まるで存在しないかのように無視して、再び舞に話しかけた。
「こんなやつとパーティー組むより俺と組んだほうが絶対良いって!」
男性はそう吐き捨てた。その瞬間、舞の表情が凍りつく。
舞はゆっくりと顔を上げ、男性を真っ直ぐに見据えた。
「こんなやつ…ですか。
私から言わせてもらえば、何度も断られているのにみっともなく勧誘してきて、なおかつ私の仲間を馬鹿にするような品性の無い貴方のほうが"こんなやつ"と言うのに相応しいと思いますが」
舞の言葉は、休憩スペースにいた他の探索者たちの耳にも届いた。
すると、周囲からクスクスと笑い声が漏れ始めた。
少し柄の悪そうな男性探索者にいたっては、ゲラゲラと大声で笑っている。
男性は顔を真っ赤にして、表情は怒りによって醜く歪む。
男性は拳を固く握りしめ、舞を殴ろうと振り上げた。その拳は、舞の顔めがけて一直線に振り下ろされる。
俺は咄嗟に、男性の両足にタックルをしながら両足を持ち上げて、男性を地面に倒した。
そしてすぐに立ち上がると、男性は地面に倒れたまま、憎悪に満ちた目で俺を睨みつけた。
「テメェ!!」
男性は叫びながら片手を俺に向けて突き出した。
「『ロックランス!!』」
その瞬間、俺の危険察知スキルが激しく反応した。
(やべぇっ!!)
全身にゾクッとした悪寒が走り、俺は咄嗟に飛び避けようとする。
しかし、ロックランスが放たれるよりも早く、周囲にいた何人かの探索者が男性に駆け寄り、その身柄を素早く取り押さえた。
同時に、先ほどゲラゲラと笑っていた柄の悪そうな男性探索者が、形成されている途中の岩の槍を拳で粉々に破壊した。
男性は取り押さえられながらも、舞と俺に向かって罵声を浴びせ続けていた。
探索者協会の職員も駆けつけ、男性はそのまま連行されていった。
「ありがとう、海人。助かったわ」
「いや、大丈夫だった?」
「ええ、大丈夫よ。海人が助けてくれたから」
先ほどまで騒がしかった休憩スペースは、何事もなかったかのように、再び穏やかな雰囲気に戻っていた。
よくあることなのだろうか?いや、それにしても…
「酷い目にあったなぁ」
「ええ、本当にね」