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第61話 ショッピングモール

探索者協会を後にして、俺たちはショッピングモールへと向かった。なんだかんだ初めてだな、舞と二人で探索関連以外の場所に出かけるのは。


ショッピングモールは、探索者協会とは全く異なる活気に満ちていた。色とりどりのショップが立ち並び、流行の音楽がBGMとして流れている。

家族連れやカップル、友人同士など、様々な人々が楽しそうに買い物をしたり、食事をしたりしている。


「人がいっぱいだね」


俺が思わず呟くと、舞は目を輝かせながら答えた。


「ええ、でもダンジョンとかとは違う賑やかさね。なんだか新鮮だわ」


普段の探索者としての舞とは違う、年相応の女の子らしい表情に、俺は少しドキッとした。

舞は興味津々といった様子で、ショップの案内板を眺めている。


「何か欲しいものある?」


俺は舞に尋ねた。舞は少し考えてから、首を横に振った。


「そうね…特にこれといったものはないけれど、あなたと見てるだけでも楽しいわ」


「そ、そっか」


俺は少し跳ねた鼓動を誤魔化すように歩き出した。俺たちはぶらぶらとショップを見て回る。

洋服店、雑貨店、本屋、ゲームセンター。どれもダンジョンとは無縁の世界だ。


特に目的もなく歩いていると、ふと舞が立ち止まった。

彼女の視線の先には、キラキラと輝くアクセサリーが並べられたショップがあった。


「見て、海人。あそこのアクセサリーショップ、可愛いピアスがたくさんあるわ」


舞は吸い寄せられるようにショップの中に入っていく。

俺もその後を追った。店内には、様々なデザインのピアスやネックレス、ブレスレットが並んでいる。

舞は目を輝かせながら、一つ一つのアクセサリーを手に取って見ている。


「これ、可愛いわね」


舞が手に取ったのは、小さなひし形のピアスだった。どうやら穴を開けなくても付けられるタイプのやつみたいだ。

試しに舞が耳元に寄せて試してみる。舞の白い肌に、そのピアスがよく映えているように見えた。


「いいね、似合ってるよ」


俺が素直な感想を口にすると、舞は少し照れたように微笑んだ。


「そうかしら?でも、普段はあまりアクセサリーはつけないのよね。探索の邪魔になるし」


「たまにはいいんじゃない?気分転換になるし、それに…」


俺は言葉を濁した。それに、舞がもっと可愛くなる、なんて言えるはずもない。

舞は俺の言葉の続きを待っているようだったが、俺が何も言わないので、クスッと笑った。


「そうね…」


舞は少し迷った後、そのピアスを購入した。小さな紙袋を手に、舞は嬉しそうに微笑んでいる。


俺たちはアクセサリーショップを出て、さらにショッピングモールの中を歩いた。

舞が嬉しそうにしているのを見ると、俺も自然と笑顔になる。こんな風に舞と二人でゆっくりと過ごす時間は、探索とはまた違った充実感があった。


次に俺たちが立ち寄ったのは、ゲームセンターだった。UFOキャッチャーやリズムゲーム、対戦格闘ゲームなど、様々なゲームが並んでいる。

舞はUFOキャッチャーの前に立ち止まった。中には可愛らしいぬいぐるみがたくさん入っている。


「UFOキャッチャー、やってみない?」


舞が俺を見上げて言った。その瞳は、ぬいぐるみに釘付けになっている。


「いいね。何か欲しいものある?」


「あの、クマのぬいぐるみが欲しいわ」


舞が指差したのは、少し大きめの白いクマのぬいぐるみだった。俺は挑戦してみることにした。


100円玉を投入し、クレーンを操作する。狙いを定めてボタンを押すが、クレーンはぬいぐるみを掴み損ねてしまう。


「あー、惜しい!」


「なかなか難しいね」


舞が残念そうに声を上げた。俺はもう一度挑戦する。

今度は慎重にクレーンを操作し、クマのぬいぐるみの首元を狙う。


「どうかな?」


クレーンがぬいぐるみをしっかりと掴み、ゆっくりと持ち上がっていく。そして、見事に景品口に落ちた。


「よっしゃ!」


「わっ、凄い!」


舞は両手を叩いて満面の笑みで喜ぶ、俺も思わずガッツポーズしてしまった。

俺はぬいぐるみを取り出して、舞に手渡す。


「ありがとう、海人。2回で取るなんて凄いわね!」


「だよね?こんなにすんなり取れるとは思わなかったなぁ」


舞は嬉しそうにぬいぐるみを受け取り、抱きしめている。


「もう一つ、何かやらない?」


「もちろん。面白そうなのいっぱいあるね」


舞が提案した。俺たちはリズムゲームや対戦格闘ゲームも楽しんだ。

普段の探索では見せないような、舞の真剣な表情や、負けて悔しがる姿を見ることができて、俺は新鮮な気持ちになった。

舞の意外な一面を知ることができて、なんだか嬉しかった。


ゲームセンターを出ると、もう夕方になっていた。

ショッピングモールの中は、夕食をとる人々でさらに賑わっている。


「お腹空いたね」


「そうね。何か食べて帰る?」


「いいね。何食べたい?」


「そうね…パスタとかどうかしら?」


「パスタ!いいね!」


俺たちはショッピングモール内のレストランが並ぶところへと向かった。

イタリアンレストランに入り、パスタとピザを注文した。


食事をしながら、俺たちは今日の出来事を振り返った。男性探索者とのトラブル、警察の聴取、そしてショッピングモールでの買い物。

波乱の一日だったが、最後は楽しい思い出で締めくくることができた。


「今日はありがとう、海人。本当に楽しかったわ」


「どういたしまして。俺も楽しかったよ」


舞は嬉しそうに微笑んだ。


「また、こういう日があってもいいわね」


舞が俺の目を見て言った。その瞳には、期待の色が宿っている。


「うん、また来よう。次は俺がゲームで勝ち越すからね」


「フフ、負けないわよ」


俺たちは食事を終え、ショッピングモールを後にした。

外に出ると、空はすっかり暗くなっていたが、街の明かりが眩しい。

駅に向かって歩きながら、俺は舞の隣を歩く。舞はクマのぬいぐるみを抱きしめ、時折嬉しそうに眺めている。


すると、舞の手が、そっと俺の手に触れた。俺は少し驚いて舞の方を見たが、舞は何も言わずに、ただ俺の手を握ってきた。

そのまま手を繋いで歩いていく。その間、俺の鼓動は常に高鳴っていた。


駅に着くと、俺たちは改札で別れた。舞は笑顔で手を振ってくれた。


「また明日ね、海人」


「うん、また明日、舞」


俺は舞の姿が見えなくなるまで見送った。そして、一人になった改札で、今日の出来事をもう一度思い返す。

トラブルもあったけれど、舞と過ごす時間は何よりも楽しかったと強く思った。


そして、舞の気持ちに応えたいと、思い始めていた。

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