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第6話

四人の戦いには致命的に欠点があった。どんなに魔法の威力が高くても、どんなに連携が取れていても覆せない力の差。

個々人の力量では劣っていない。むしろ圧倒している。

劣っているのは数だ。数の力だ。


「クソが! こいつら次から次にわらわらと……。一体どんだけいやがる」


中川が文句を言う。「喋っていないで戦いに集中しろ」冴島はそう言いたかったが、言葉にはしなかった。

中川の気持ちもよくわかる。倒しても倒してもスケルトンは絶えず現れる。まるで抗うことに意味がないのかと思うほどだ。

最初に罠を発動させてしまった時、確かに群れの数に焦った。しかし想定していた数を大きく超えている。

もう何十……いや何百と倒したはずだ。地面には奴らの骨が散らばり、足の踏み場も限られてきている。だというのに奴らの待機列は一向に減りもしない。


「まったくよ……。人気アトラクションの順番待ちじゃねぇぞ!」


中川の炎の球が部屋の入り口で炸裂する。爆炎が上がりスケルトンがン何体か崩れ落ちる。しかし

その炎を乗り越えてすぐに他のスケルトンが現れる。


戦い方が雑になっていた。中川だけではない。全員がだ。

探索者の使う魔法には上限がある。いわゆる魔力というやつだ。取り込んだ魔石の数だけ魔力は蓄積する。

一度取り込んだ魔力ならば使い切っても休めば回復する。しかし、使い切った直後は一切の魔法を使えなくなる。


残存魔力は十分ではなかった。戦いの中で動き続ける限り体力も無限ではない。

限界は案外四人のすぐ近くまで迫っていた。


波動を感じた。それが何かと問われても上手く説明はできないだろう。とにかく何かを感じ取り、戦いの最中さなか冴島は振り返った。


感じたのは彼だけではない。中川も、他の二人もほとんど同時に振り返っていた。

攻撃の手が止まる。

スケルトンが同胞の亡骸を踏み越えて迫る。


四人は気を取られていた。後方で怪しく光るまばゆい輝きにだ。


「おいおい……嘘だろ」


信じられないというように中川が呟く。冴島も同じことを思ったが意味は少し違う。

中川はスケルトンに完全に背を向けて、それから抗うように一歩踏み出した。


進む先にはラクがいた。両手に持った白い魔石が怪しく光っている。

ラクはそれを自らの胸に強く押し付けた。


「おいやめろ……やめてくれ。それはお前のじゃない。俺の物だ。俺の魔石だ!」


中川が走り出す。手を伸ばし、ラクの魔石を奪い取ろうとする。

一歩遅い。

魔石は完全にラクの中に吸収され、冴島の伸ばした腕は空を掴んだ。


ラクの身体が一瞬光り、周囲の空気が揺れた。一番近くにいた中川が何か不思議な力に弾き飛ばされて倒れる。


強い力。身体の中に漲る膨大な魔力をラクは感じていた。

自分の両手を開き、見つめる。これが本当に自分なのかと疑うほどの万能感。なんだってやれる気がした。


「ラク……おい、大丈夫なのか?」


冴島が声を漏らす。信じられないという顔でラクを見つめる。ラクは軽く微笑んで頷いた。


「おじさんの言った通りだった。僕は白い魔石に選ばれたみたいだ」


冴島は腰が抜けそうになるのをぐっと我慢した。まさか自分の甥が、誰も扱うことのできなかった白い魔石を吸収するなんて……。

一度は提案してみたものの、。それはラクを励ますための方便だった。まさか本当に選ばれるとは思っていない。目の前でその光景を見ても尚信じ切れない自分がいる。


「おいまずいぞ」


風の魔石を扱う男が言う。スケルトンがもうすぐそこまで来ているのだ。

ボロボロの剣を振り上げ、声にならない声を上げながら迫りくる大群はまさに魔物の波のようだった。


危機的状況にありながら、ラクはなぜか自身に満ち溢れていた。

全身にみなぎる力が「できる」と訴えていた。全身の魔力が。


「下がってて」


冴島が止める間もなかった。ラクはそう言うと単身でスケルトンの群れに飛び込んだのだ。

その姿はあっという間に波に飲みこまれ、見えなくなる。


「あんなガキに何ができる! 魔石の吸収なんてできていない。何かトリックを使って隠しやがったんだ。あとで売って独り占めする気なんだよ」


倒れて呻いていた中川が喚く。もう誰もその言葉に耳を貸してはいない。

スケルトンの波が隆起する。煌々と灯る光と共に。

光が拡大し、スケルトンを飲み込んでいく。


冴島の目の前まで迫った光は寸前で止まる。彼の目の前には光に飲み込まれもがくスケルトンがいた。


「これが……光の魔法?」


まるで光の中が透けて見える。包まれたスケルトンたちは一切の身動きを封じられているようだ。

水の魔法と同じように搦め手を基本とした魔法かと冴島は思った。比べ物にならないほどの規模だが、系統は似ている。


しかし、すぐにそうではないと思い知る。光の中に当然ラクがいる。自らの身体にも光を纏い、高速で移動する。目で追うのがやっとだ。


両手は光線を放ち、光線はスケルトンを屠る。搦め手だけではない十分な威力を持ち合わせている。


攻めよせてきたすべてのスケルトンが崩れ落ちるのにそう長い時間はかからなかった。

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