目が
風はとっくに死に、熱された空気が体にまとわりついて離れない。
額から流れる汗は、砂の匂いと混じって鉄の味になった。
リュッカ・リンドベリは太陽を
辺り一面、見渡す限りの砂漠。植樹が必要とされる極度の乾燥地帯。
景色で
楔の先端には白い布。布は目印としての役割を放棄して、炎天下にぐったりと垂れていた。
数メートル先のその一画が「立ち入り禁止」とされている理由は単純だ。
安全が、保証されていない。
この場所が、比較的最近まで地域紛争の中心地となっていたことは、19歳になったばかりのリュッカもしっかりと理解していた。
激しい戦火が、すべてを
呪いなどではない。もっと現実的で、残酷なものだ。
この一帯は特に危険だと、朝のミーティングでも繰り返し聞かされた。
それでも――この不毛な土地を、自分の手で救うのだ。
リュッカは唇を噛んで、己に言い聞かせる。
容赦のない陽射し。肺を圧迫する熱気。灰色の短髪から汗が
ここらで一旦休憩するか。
リュッカは土壌改良のためのディガーショベルを砂に突き立てて、作業仲間を振り返った。
リュッカの一番近くにいた、後輩の
極東エリア出身の綾鷹は、よくも悪くも頑固で、生真面目な男だった。生まれは華道の家元だとか。砂漠では黒髪が陽光を集め、リュッカよりもずっと暑そうに見えた。
リュッカは暑さで
疲労が滲んだ、
そんな動作の繰り返しのあと、ふと、綾鷹がしゃがみ込んだ。
綾鷹がショベルを置き、砂の中から両手で
黒光りする金属製の箱。それはどこか、オルゴール箱に似ていた。
何だ、これ?
綾鷹の口がそう動くと同時に、箱の表面がぎらりと光った。
妙に、不吉なきらめきだった。
まるで、長い眠りから覚めた獣がこちらを見据えたかのような。
背筋を伝う嫌な予感。リュッカはにわかに胸騒ぎがして、慌てて綾鷹のもとへ駆けだした。
――まさか、それが光に反応する地雷だなんて。
そんなものが今も残っているなんて、思いもよらなかった。
ただ、綾鷹が持つ箱が一秒後に爆発することは、なぜか直感的にわかっていて、
「それに触るな!」
リュッカは砂の上を飛ぶように走り、綾鷹を突き飛ばして箱を奪った。
この箱は掘り出してはいけないものだ。
絶対に、光を当ててはいけないものだ。
言葉にならない、確信めいた恐怖があった。
いつか緑化作業員の研修で聞いた、旧式の感光式地雷が脳裏をかすめる。
前時代の負の遺産。砂に埋もれた人の悪意――掘り起こされ、光に
ならば、光を
だけど、日陰のない砂漠の真っ只中でどうすれば――?
ためらう間もなく、考えるより先に体が動いた。
そのまま地雷に
時が止まったかのような一瞬の静寂をおいて、
視界いっぱいに、
刹那、耳をつんざく
熱風が強く胸を打って、意識が吹き飛んだ。
何かが弾ける反動と、骨が
視界の隅で、人の手が宙を舞っているのが見えた気がした。あれは、
砂埃の向こうから悲鳴が響く。
あの冷静な綾鷹が、子どものように声を張り上げていた。
やがて音声は遠のいていき、季節外れの寒気が全身を包む。
リュッカの体を起点にして、乾いた砂が赤く染まっていく。
その光景は、砂漠に紅い花が咲いたかのように鮮烈で、幻想的で――それでいて、どうしようもなく血生臭い現実だった。