「チッ、広がってやがるな」
僕、リック・フェルメールは寝ころび空を見上げると、舌打ちしながら言った。
かつてこの空は綺麗で昼寝で最適だった。
だがある日、この世界はおかしな光景が広がった。
その日は雲は灰色に霞みここら一帯冷たい雨が降り、雨音が世界に響いていた。
だがその空はまるで何かに雲が切り裂かれたように大きく斜めに切り裂かれ、灰色の雲の裂け目から白い光と蒼く澄み渡った綺麗な蒼空が映っていた。
不思議な光景に誰しも不思議には思っていたが、次の瞬間広がるように蒼空の中心から少し、ほんの少しずつ楕円上に黒い何かが広がっていき、不気味で誰しもが不吉の象徴、世界の終わりという者もいる程気味が悪かった。
それからこの空は楕円上に広がり続け、ある程度で広がりが収まった。
「綺麗で昼寝に最適だったのに、何してくれてんだこの野郎」
毎度ここに来るたびにそう吐き捨てる。
だってそうだろ? 眺めるだけで空が切り裂かれて折角の景色が台無しなんだぜ? 我慢できないだろ……ん?
そんな事を思いながら空を見上げていると、空から光る何かがどんどんこっちに近づいてくる。
そして僕の目の前でその光が落ちる。
面倒だなぁ~。
もし、空の亀裂に関係があるのならすご~く面倒くさい。
起き上がり視線を向けると、光を放つ少女の姿があった。
そしてその光にひびが入ったかと思うと、紫白の髪の女の子が姿を現すと、その場に倒れ込んだ。
その姿を僕は座りながら見ていると、今度は彼女が現れた時と対極の亀裂と同じ黒い何かを纏った人影が現れる。
「手間をかけさせやがって」
そう倒れ込む少女に吐き捨てる。
口が悪いなぁ~。
そう思っていると、こっちに視線を向ける。
その目は汚い物を見るような目で、不快な気持ちになる。
「ついでに殺すか」
そう言って彼は剣を抜くと、こっちに向かってくる。
いきなり殺すってどこの盗賊もしない行為だぞ。
起き上がり、剣に手を掛ける。
「遅い!!」
遅いもんか、丁度いいんだよ。
僕は彼の件を受け止めながら問いかける。
「一つ聞くけど、なんで僕を殺す?」
そういうと、男は鼻で笑った。
切り殺そうかな?
「お前だけじゃねえよ、この世界の人間は一人残らず殺す」
「……そうか」
その言葉だけで交わす言葉は十分だった。
この程度で僕を殺そうなんて甘い甘い。
「んぁ?」
その言葉と同時に男は倒れ込み二度と言葉を発することはなかった。
……この子、どうするかな?
このまま放置するのは流石に気が引けるし、かといってさっきみたいな奴が来たら皆に危険が及ぶから迷うし見なかったことにしても、イアがうるせえからなぁ~。
息があり呼吸をしているので、彼女が目を覚めるまで待つことにした。
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そうしてしばらくして、少女は目を覚ます。
「……誰?」
警戒しているのかと思ったが、どこか気の抜けたような声で問いかけてくる。
「人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのが筋だろ」
「……?」
彼女は人差し指を唇に当て、可愛らしく首を横に傾ける。
何だこいつ。
「名乗らない気か?」
そういうと、彼女は首をフルフル横に振り否定する。
「わかんない」
「……は?」
「……誰?」
そういうと、人差し指で彼女自身を指差す。
「そういうのいいから」
「本当に、わかんないの!!」
そういうと彼女は目に涙を浮かべ、泣き始めた。
記憶喪失かはたまたそれを使った工作か?
確かめてみるか。
そうして僕は剣を向ける。
「もう一回聞くよ、答えなかったら斬る」
彼女は涙を流しながらこっちを見て「本当にわかんない!!」っとこっちに言い放ってくる。
「そうか」
僕は剣を振るおうとすると、彼女はビビるように目を閉じる。
この感じ、本当っぽいな。
踏み込まずに剣を振うと剣は彼女に触れることなく空を切る。
「意地悪して悪かった、立てるか?」
彼女が目をあけたのでそう言うと、腰が抜けているのか立てないのか首を横に振る。
そうして落ち着くまで彼女と共にいると、奥から何かが飛び出してくる。
それは先程切り捨て半分になった筈の男だった。
「クソが、いてぇじゃねえか」
そう言って胸をさすりながら狂気じみた声でそう言ってきた。
「さっきは油断したが、今度はそうはいかねぇ!!」
そう言って彼は突っ込んでくる。
先程よりも無駄のない洗練された動きで僕に詰め寄り剣を振う。
僕は一撃をよけると、剣を引き抜き迎撃する。
そうして金切り音が鳴り響く。
言うだけあって中々に速く、そして重い。
「どうした、受けるので精一杯か!? あぁ!?」
これが防戦一方に見えるのか……。
そうして一撃一撃を受流していく。
ふ~ん、大体こんな感じか。
僕は合間をぬって彼の身体を削る。
「いってぇな!!」
そう言いながらも狂気的に笑い血飛沫を上げながらも剣を振ってくる。
狂人、傷つけば傷つくほど力を発揮する人間のようだ。
こういう奴は面倒なんだよなぁ~。
どちらかが死ぬまでこういう奴は止まらないのに加え、相手は未知の再生能力がある。
こっちの方が不利と言っていいい。
「鬱陶しいな」
僕がそう呟き、彼はいやらしく笑う。
そうして激しい剣戟が鳴り響く。
「……ちぃ!!」
合間を縫って斬撃が僕の胸を切り裂く。
「勝負ありかぁ!?」
そう言って彼はやっと入った斬撃にニヤリと笑う。
「調子に乗るな」
そう言って仕返しに剣を入れ、彼の攻撃よりも深い傷を返すように与える。
返すように傷を与えながら距離を取る。
しかし、男は傷など関係ないかのごとく突っ込んでくる。
だろうな!!
「あめえよ、そんなの」
そう言って再び剣戟に持ち込もうとする彼の脚が急に止まる。
「こりゃいいや、大物だぁ~」
彼の視線の先には銀髪の氷のような冷えた眼差しで見ている男が居た。
それを見た瞬間、狩りの対象が僕から銀髪の男に向く。
「あ? お前誰に向かって口きいてんの? 幹部になって調子乗ってんのか?」
瞬間、背筋の凍る感覚が襲う。
「小僧、その女の子を連れて去れ」
視線を向けることなく、彼はそう言う。
状況がよくわからないが、今は言う事を聞いた方がいいと直感的に理解する。
彼女を抱え、走り出す。
逃がさないかと思ったが、誰も追ってくることなく僕村に逃げ帰るのだった。。