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第6話 『遺物』

 2がつ9にち。

 きょうは、おやつにぷりんをたべた。すっごくおいしかった。

 おにわで、おにんぎょうさんとあそんだ。おちゃをこぼしちゃったけれど、おにんぎょうさんにはかからなかった。ほんとによかった。



      〇




 2がつ13にち。

 ひみつきちをつくった。いつものはやしのなかに、ひみつきちをともだちと。

 ぜったいにばしょは、おとなにはばれないとおもう。

 わたしたちだけのひみつのばしょ。

 みつけたタイヤはいすにするの。ぶらんこもつくりたいな。



      〇



 3がつ20にち。

 あかいろのちいさいキをみつけた。とってもめずらしいいろだから、みんなでそだてる。

 みずもちゃんとあげて、ちゃんとおせわするの。

 おっきくなったら、おとうさんにじまんするの。

 あかいろのキなんてみたことないとおもうから。

 びっくりするとおもう。



      〇



 4がつ13にち。

 あやちゃんがいなくなった。ひみつきちであそんでたら、いなくなって。

 いえにもかえってないって。

 もしかしたら、まだひみつきちにいるのかも。

 さがさなくちゃ。



      〇



 嘘じゃない。

 みんな揃って俺の頭がおかしくなったって。

 娘をなくして気が触れたと、そもそも俺の自作自演だと。俺が殺すはずがないだろう、最愛の娘を亡くして気が触れたとしても、俺の手で娘を殺すはずがない。

 俺の頭がおかしくなったと、おかしくなったのかもしれない。

 ちがう、だが。じゃない。そうか。ちがう。ちがう。

 見た、俺は見たんだ。

 赤い苗木が娘を土に引きずり込みやがった。嘘じゃない。正気だ俺は。幻覚でも夢でもない。ほんとうだ。ほんとに見たんだ嘘じゃないんだ。



      〇



 やっぱりだ。

 俺の言うことを聞かないからだ。

 町はあの赤い樹木に食われた。

 無駄だ、あれに火は効かない。意味は無い。

 聖堂の方に生き残ったヤツらが逃げたが、無駄だ、どうせ全員食われる。

 おわりだ。なにもかも。

 こうなるのは分かってた。

 わかってるなら、なぜこの街から出なかった?

 娘を諦めきれなかったそうだ、そうだよ。どうせ、全員もう食われるんだ、生きて出られねえんだ。



      〇



 もしだ。

 もし、これをお前が発見したとしよう。

 この町から出ろ。

 なるべく急げ、聖堂には行くな。人が多いところに行くべきじゃない。

 最初は気づかなかった、人が入り乱れていたからな。奴らは音に反応する。

 静かにしていればこの町から出られるかもしれない。

 俺はこの街から出る気は無い。


 俺は、娘を取り返しに行ってくる。

 もし、お前がこれを見てここから出ようとするなら、ページの最後に挟んでおく。

 爆竹の使い方くらいわかるだろう。

  もし、あの木を駆除しに来たのなら、あとは任せた。

 奴らに火は効果がない、音に反応する。俺から言えるのはこれくらいだ。

 あとは任せた。

 君の幸運を祈ろう。



      〇



 追記。

 愛してるよ、アリス。



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