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レッドドラゴン4






 箱にぶら下がっているダイヤル式の南京錠のナンバーを合わせて開けた後、中から鍵を取り出して家の玄関のドアの鍵を開ける。開け放って片手を出して促した。竜は促されるよりも先にドアに近付いており、止まることなくドアを通り中へと入った。



「わ……中綺麗ですねぇ」

「築年数が経って価値が下がってしまったのもあって、フルリノベーションされたそうなんですよ。まだリノベーションされてからそれほど時間も経っていないので、非常に綺麗なんです」



 外観はそれなりに経年劣化を感じさせたが、中は綺麗な状態だった。ただリノベーションをしただけでなく、要所要所でデザインにこだわったのだろう事を感じさせる室内となっている。

 竜が尾の先まで家に入ったのを確認してから天川も中へと入る。竜は先々に進んでおり、追いつくとそこはダイニングキッチンだった。キッチンは壁から離れた──アイランドキッチンだ。こちらは一軒目と違い天井はそれほど高くはないが一軒目よりもダイニングは広い。ダイニングにある掃き出し窓が一面にあるのもあって開放感があった。



「天井は……頭をぶつけそうでもないでもないし……。このお家はドワーフのあれは……」

「もちろん、頼まれたそうですよ。なので、こちらも人間以外の種族の方もお貸し出来ると大家さんがうちに」



 竜の炎にも耐えられる防火、刃のように鋭い切れ味の爪や牙に耐える防刃。その二つが叶うドワーフ作の品が使われている。それを聞くと竜はダイニングやキッチンをあちこち見始めた。キッチンに立っては引き出しや棚を開けている。人間であれば少し高めの吊戸棚も、竜であるレッドドラゴンであれば楽に開けられるばかりか奥まで手が届く。果たして彼が奥にまで物を置くかどうかはともかくだ。

 尾を振り回さなければどこにもぶつからない程度の広さもあり、キッチンも問題ないように見えた。



「あの、次は部屋見てもいいですか?」

「はい。もちろんです」



 心なしか竜の声が弾んでいた。

 お客様の要望に応えて天川はまずは近くにある部屋への扉に向かう。扉を開けて促せば竜は体の上半身を部屋の中へと入れて覗き込んだ。



「洋室……で広さは」

「六帖ですね」

「さっきのお家の洋室は何帖でしたっけ?」

「八帖で、ロフト付きですね」



 一軒目よりは部屋は狭いようだった。竜は部屋の中へと入って中央へと座る。尾が左右に揺れ動くが、壁や備え付けられた窓に衝突するような気配はない。



「でもこれだけあれば大丈夫かも……」



 ぽつりと竜は溢して、前足二本を床につけて立ち上がる。一瞬よろめいたが、歩いて窓に近付いた。窓からは太陽の光が入ってきている。住宅街なため、外は静かで窓越しでも耳障りになりそうな音は聞こえてこない。



「……あ。二階あるんでしたよね?」

「はい。見られますか?」



 二階建ての戸建て住宅である事は天川からの言葉からも、間取りからも竜は知っている。一階部分を見終わって終了ではない事を思い出した竜が二階の話を出したため、ふたりは階段へと向かった。

 階段は昔ながらの急さだったが、両側に手すりがついていた。公的な場所で空を飛べる飛行免許は所持していないだけで、飛ぶ事は出来るらしい竜には急な階段はむしろ通りやすいようだった。先を飛んで行く客の姿を見ながら、天川は手すりに掴まって上がっていく。



 階段を上がった先──廊下の向こうのドアの前に竜は立っていた。廊下の道中にあった収納スペースには目もくれずに。



「……お客様、開けて見てくださって構いませんよ」



 これまで天川から許可を取りがちだった為、天川が来るのを待っているのかドアを開けようとしない。そんな客じんに声を掛けると竜は声に反応して振り返った。



「は、はい」



 天川に言われて竜はドアノブに手をかける。人間のように器用に動く手指で無くても開けやすいレバーハンドルを下げて、ドアを開けた。

 そこにあったのは畳が敷かれた一室で、窓と押し入れもついた極一般的な和室だ。もう一つの物件はダイニングのある2LDKだったのだ。



「畳……は、えっと」

「広さですか? 四・五帖です」

「四・五……畳。畳……畳」



 竜は部屋の中を見るとうんうん唸っては右を向いたり、左を向いたりと忙しない。しかし部屋の中には入ろうとはしなかった。天川はそれを見ていたが一軒目の内見の際の竜の言葉を思い出す。



「畳は引っかかる、んでしたっけ」

「はい……それで畳をボロボロにしちゃいそうで。転んだりとかもするし。実際違う家の内見の時に転んじゃって。それに畳の交換するお金とか。でも……竜族も可だとなると、妥協ポイントかなとも思っちゃったりは……」

「それは怖いですね……。ウチでも大量に物件がある訳ではないのは確かです。さすがに畳のドワーフ産はないので。畳を傷付けないようにカーペットやクッションフロアを敷いて対策される方はいらっしゃいますね」



 爪が引っかかってしまいがちだという安全面に対しての懸念もあるが、引っかかるというのなら畳の交換代も馬鹿にならない。経年劣化や自然な破損だと判断されない限りは畳は借りた側が自分で交換代を出さなければならない。それは人間以外でも変わらない。

 二軒目として紹介されている物件は完全に人外向けではない。そこがマイナスポイントともなるだろう。



「クッション……フロア? にカーペットかあ……。ボクからしたらさっきのロフトみたいなものだし、荷物置き場にしてもいいかも」



 全てが完璧にはいかない。その部分の一般的な対策もあるが、自分なりの解決策を既に竜は見出し始めているようだった。



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