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第八話 “考えるスライム”

 俺は驚いた。

 上機嫌になった団長が見せてくれたからくり人形の中味。表面を覆う布の下には、半透明でゲル状のものがびっしり詰まっていた。スライムというらしい。


「この”考えるスライム”は意思疎通によって色々なことを覚えて、その通りに動いてくれるんですよ」


 少し興奮気味に話す団長。

 ポーシェさんが反応した。 


「意思疎通はあれかい? 精神感応の魔導を使うのかい?」

「ご名答!」

「団長さん、あんたはそれが出来るんだね?」

「だからこそ、様々な種族を従えるサーカス団を率いることが出来たのです」

「レイテアちゃん、私も精神感応の魔導は使えるから、スライムへの躾は受け持つよ」

「ポーシェさま、よろしくお願いします」


 後で聞いた話だと、精神感応の魔導を使うには生まれ持っての適性が必須とのこと。その適性持ちの数は千人に一人程度の割合。かなり希少な存在らしい。


 人の心が何でも読めて、というわけでもなく表層意識をぼんやりと読み取り伝える精度だということだが、これは個人差が大きいそうだ。


 そう言えばドラゴンは俺の高校時代の記憶まで読み取っていたけど『そんなの無理』とポーシェさんに否定された。

 俺とレイテアちゃんの精神と同期して直接やり取り出来るなんて大魔導士ポーシェさんですら出来ない。それをあっさりやってのけるとは……ドラゴンすごいね。


「レイテアお嬢さまの望む人の動きの模倣、これは私がやったようにスライムを身体に密着させてしばらく生活してもらいます」


 なんだって?


「ちょうど良かった。こいつに相棒役が必要になってまして。からくり人形による劇を新しい目玉にしようと考えてたんですよ。貴族のお嬢様と平民の騎士、身分違いの恋」


 ほう。どこの世界でも女性が好むのは悲恋の物語か。


「平民の女衆の動きならうちの団員を模倣させたら出来ますが、貴族のお嬢様の所作なんかは無理ですから」

「すぐに身につけたいと思います」


 レイテアちゃんは思い切りがいい。ゴーレムの為なら何だってする。


「こりゃ返事が早いですな。肝の座ったお嬢様だ。では」


 団長はからくり人形の中にいるスライム、それの一部をもぎ取り、じっと見つめる。


「了承してくれましたよ。お嬢様のことが気に入ったようだ。じゃ、手に取ってください」


 団長がレイテアちゃんの手のひらへテニスボールサイズのスライムを手渡す。


「ひゃっ」


 スライムは一瞬で薄い膜となり、レイテアちゃんの体表に張り付き、あっという間に薄皮となって顔以外を覆ってしまった。


 すごい早業だ。

 今現在、俺もレイテアちゃんとある程度の感覚を共有してるが、異物感は全くない。


「この状態で一週間ほど過ごしてください。その間にお嬢様がこのスライムにして欲しい動きをやっていただければ、こいつはそれを覚えますし、形も模倣します。また、こっちに残った方に一度接触させたら覚えたことを伝達するんですよ」


 “考えるスライム”……スーパーウルトラ便利生物じゃねぇか!軍が、いや、皆が欲しがるだろうな。これが大量にあったら世界征服出来そう。


「すごいわね。目を凝らして見てもスライムが張り付いてるようには見えないわよ」


 ポーシェさんがレイテアちゃんの腕を観察している。 


「団長さん、ありがとうございます! 謝礼はうんとさせていただきます」

「あーそれなら、ルスタフ公爵領での公演許可と少しばかり支援をいただきたいですな」

「父に頼んでみます!」


 公爵はレイテアちゃんに甘いから二つ返事でOKだろうよ。


 こうして俺たちはゴーレムの筋肉組織、そのベースを手に入れた。予定としては十メートルぐらいの大きさになるから、このスライム、気合い入れて大きく成長させないといけない。


 ……そのためには、どんな餌がいいんだ?


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