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第九話 飛び蹴りを覚えた公爵令嬢

 わたくしが“考えるスライム”を身に纏って一週間。  


『さっ! レイテアちゃん特訓がんばろう』

「が、がんばりますわ」


“考えるスライム”に戦う動きを覚えさせる特訓が始まります。

 今、わたくしがいる場所は我が家にある格技場。

 対面に並ぶはわたくしの護衛騎士たち。


『まずやってほしいのはさ、スライディングかな』

(すらいでぃんぐ?)

『相手の足元へ滑り込んで、足首あたりを蹴飛ばすことによって、転ばせるのさ。あのバランス悪そうな大型ゴーレムには有効だと思う』

(滑り込む……)


 今ひとつどんな動作なのかが思い浮かびません。


『身体を寝かせて、相手の足元へ自分の足を突っ込む感じ?』


 これはよくわかります。


『ひっくり返ったら、大型ゴーレムは絶対起き上がれないよ』

(なるほど……動けなくして無力化するのですね)


 でもわたくしの対面に立つ護衛騎士達は鍛え上げられた立派な体躯。

 身の丈もわたくしより頭ひとつ大きいですし。


 それに比べずっと華奢で小柄なわたくしがその『すらいでぃんぐ』をしたところで、果たして上手くいくのでしょうか?


『大丈夫だよ。“考えるスライム”が動きを覚えるだけでいいんだから』


 おじさまの思い浮かべる動作が伝わります。


『幸い床はツルツルのピカピカだ。助走つけてやってみよう』 

「い、いきます!」


 覚悟を決めました。

 床を蹴り助走、狙うは騎士の足首。

 思い切り身体を寝かせ足の裏をぶつけます。


「おっと」


 騎士は身じろぎするものの、少しも動きません。


(おじさま、やはり駄目なのではないでしょうか?)


 わたくしは落ち込んでしまいます。


『いやあれで上出来だよ。騎士はゴーレムと違って関節があるから、そう簡単に転ばない。解剖学の図で習っただろう?』

(関節……あ、そうでしたわね)


 医師さまに見せてもらった解剖学の書。

 よく覚えています。


『関節が衝撃を受け止めるから、人間はそうそう簡単に転ばない。でも大型ゴーレムなんて足はただの棒。バランス崩したら簡単にすっころぶよ』

(なるほど!)


 次の日からあらゆる特訓をしました。回し蹴り、飛び蹴り、張り手など。


『動きが鈍いゴーレムを、速い動きで翻弄すればいいわけさ』

(ですわね)

『レイテアちゃんもストレッチをやった成果もあって、なかなか良い動き出来るようになったし』

(おじさまのおかげです)


 そんなある日。

 私が騎士相手に飛び蹴りを決めた瞬間に、格技場へ飛び込んできた人が。


「レ、レイテア嬢ぉぉぉぉぉぉっ!! な、何をしているぅぅぅぅっ!」


 あら! ダロシウ王太子殿下です。

 先ぶれもなしにいらっしゃるとは……。

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