いらっしゃったのは森の奥に住む大魔導士ポーシェさま。
「ポーシェさま、ようこそお越しくださいました」
「いいよいいよ、堅苦しい挨拶は無しでね。レイテアちゃん」
ポーシェさまが人払いをとおっしゃり、応接間にて二人きりとなりました。
「まず真っ先にレイテアちゃんに見てほしくてね」
「何でしょうか」
懐から何かの塊を取り出し、それを床に放り投げ、それがみるみる形を変え始め……そこにもう一人ポーシェさまが現れました。
「えっ? ポーシェさまがお二人に?」
「そう。これは考えるスライムだよ」
なんてことでしょう!
滑らかなお肌の感じ、美しい金色の髪、形の良い唇、そしてお召しになっている服も全く同じで見分けがつきません。
「レイテアちゃんに分けてもらった方にさ、精神感応であれこれ会話してね。本人曰く魔導を覚えてみたいって言うから、教えてみたら覚えも良くて。私も調子に乗って色々と仕込んじゃったのよねぇ」
これは驚きです、考えるスライムはかなり高い知能を持つようです。
「スライムに知能があるとはまず思わない上に、このスライムも精神感応を使える魔導士も、どちらも滅多にいない。魔導なしでは意思疎通も出来ない。だから研究なんてされてないんだろうね」
団長さんは大発見をされてたのですね。
『レイテアちゃん、これってさ筋肉だけじゃなく、感覚器官、つまり目や耳、神経組織まで模倣出来るって話だよ?』
(……人体をほぼ複製できるんですね)
『だったらさ、遠隔コントロールにしなくていいんだ』
現存する大型ゴーレムは全て遠隔による操作をしています。
『このゴーレムを使えば、人が中に乗り込んで意思疎通しながら動かすゴーレムが作れるってことだよ』
(人が中に……)
『そうするとさ、視点がゴーレムに同調するから、遠隔式と違って行動範囲に制限がなくなる』
遠隔操作だと操作担当の魔導士から離れることはほぼ不可能です。
「ポーシェさま!
「レイテアちゃんにはわずかながら適性があるんだよ。家庭教師していた頃に気がついてね」
「え……そうなのですか」
「でもね、それが周囲に知られたら軍や情報部に飼い殺しにされるから。公爵夫妻と話し合ってそれは秘匿することにしたのよ」
「ポーシェさま……」
「しばらくここに滞在してもいいかい?」
「もちろんです! 父に話をします」
『あとはちょっとやそっとじゃなく、大きく増やすための餌か……』
(団長さんによると生き物なら何でも取り込むってことでしたわ)
『よし本人に聞こう』
明確に言葉でやり取り出来るわけではないのですが、イメージは伝わります。そしてわかったのは、スライムさんが大きく増えるには、力のある生き物の肉が必要、だそうです。