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第二十三話 巡り合わせ

「あなたは誰です?」


 カシアちゃんが冷たい目で俺を見下ろし、詰問してくる。

 バレちまった。


 話は昨夜、俺とレイテアちゃんとドラゴンさんの三者がいた夢空間に戻る。

 レイテアちゃんが倒れ、いくら呼びかけても反応がない。


 ドラゴンさんによるとあの楔の影響が、レイテアちゃんの魂にも及んだんだろうとのこと。

 俺がオタオタしていると『心配しなくてもすぐに目覚めると思う』ってドラゴンさんが言うのでそのまま眠りに落ちた。


 朝。

 目覚めるとレイテアちゃんは沈黙したままだ。

 今まで俺の意識は低反発クッションに包まれた感じで、レイテアちゃんと視覚や聴覚を共有、ただそれだけだった。モニターで見ている、まさにそれだ。


 断っておくが俺はおっさんだが紳士だからな。レイテアちゃんが湯浴みする時やトイレじゃOFFにしてたよ。


 それが今はレイテアちゃんの主導権を任された状態だ。

 まずい。

 もうすぐカシアちゃんが部屋に来る頃だ。

 俺は掛布を引っかぶり寝たふり。

 ノック。


「おはようございます。レイテア様」

「……」

「……レイテア様?」

「カシア、今日は体調が優れませんの。学院はお休みしますわ」

「……具合が悪いのですか? 医師様をお呼びします」

「あ、それには及びませんわ。寝ていたらそのうち治ります」

「……朝食はいかがなさいます?」

「部屋でいただきます」

「……レイテア様、なぜお顔を見せてくださりませんの?」

「ゴホッ、調子が悪いからです」

「失礼します」


 言うが早いかカシアは掛布を剥ぎ取った。


「カシア、何し……」 


 一瞬の動きで喉元にナイフを当てられた。


「お姿はレイテアお嬢様のようですが、魔導で変装しているのですか? レイテア様は掛布を頭から被るような無作法は決してなさりませんし、医師様を拒むことも決してありえない。ましてやこの自室で食事なんて」


 うえ……貴族階級の生活作法知らなすぎたのが敗因か。


 そして冒頭に戻るわけだ。


「わ、私はレイテアよ」

「お嬢様はご自分のことを『私(わたくし)』と」

「……」 

「もう一度尋ねます。あなたは誰です?」


 もうヤケクソである。


「あーわかったわかった! 白状するよ。でもこの身体はレイテアちゃんだよ」


 この後すったもんだあって、俺は公爵夫妻と対面で今までのことを全て語った。

 公爵は眉間に皺を寄せ深刻そうな顔になってるが、公爵夫人は平然としている。


「アテナの突飛な発想は君の助言によるものだったのか」

「ですね。俺……私のいたところじゃ空想物語がそれこそ星の数ほどありました。こちらで言う平民も識字率が高く、老若男女に親しまれてましたよ」


 地球の人口が数十億だと言うと夫妻は大いに驚いた。


「その空想物語の中で、ゴーレム、あちらじゃロボットと言うんですが機械仕掛けの人型兵器の物語は世代を越えて流行してたんです」

「実際にはどうだったのかね?」

「空飛ぶ兵器があるので非現実的ですよ」


 紙とペンを借りて陸海空軍のの大雑把な説明をする。核兵器には二人とも顔が引き攣っていた。


「随分と物騒だな」

「公爵、こっちもあっちも戦争の歴史です。古くは塩を巡って、そして領土的野心、宗教、思想の対立。それに見せかけ裏で大国が糸引く代理戦争」

「……同じだね」

「戦争を無くすことはできません。ただアテナは早期に戦争を終わらせることができます」

「……それは理解できる」


 夫人が口を開く。


「で、娘は無事なのですね」

「はい。眠ったような状態です。ドラゴンさんによると一時的なものだと」

「あなたは何を望むのです?」


 夫人の目が怖いが、俺は正直な気持ちを話すことにした。


「既に死んだ身ですから。いや私の人生は終わったと考えてます。第二の人生はレイテアさんの……そうですね、彼女の支えになれたらと。夫婦みたいなものじゃなくて」

「娘の無事を約束しなさい」

「誓います。レイテアさんが必ずここへ帰って来られるよう最大限努力します」


 夫人の目を見てゆっくり話す。


「信じましょう」


 最愛の娘だ。親としての気持ちは俺もわかる。


「これも天の巡り合わせ。大いなる意思がレイテアに天命を与えたと思えば理解できます」


 生前から思ってたが、母は強しだ。度量が大きい。


 その後、大魔導士であるポーシェ女史が呼ばれ、多重人格ではないこと、ドラゴンも知っていること、レイテアちゃんの精神的支えになっていることを公爵夫妻に説明してもらった。


 夫人は納得したようだ。公爵はまだ引っかかりがありそうだったが、夫人の『目の前の現実を認めなさい』の一言で沈黙した。

 ほんと女は強しだね。


「生前、私にも娘がいました。レイテアさんも娘のように思ってます。この子が笑って暮らせるように尽力します」


 そのまま公爵とポーシェ女史にドラゴンから伝えられた内容を話す。

 生き物の魂を剥ぎ取り傀儡に変えてしまう楔型魔導器具。


「わかった。陛下にも至急お伝えしておく」

「私も解析急ぐわね」


 幸いなことにそれからすぐにレイテアちゃんの意識が目覚めた。

 助かったぜ。


 俺の存在は公爵夫妻、カシア、ポーシェ女史だけの秘密として、今後レイテアちゃんの意識が眠った時にカシアから礼儀作法のレクチャーを受けることを決められた。


 カシアは涙を堪えて喜んでいる。

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