「ここは……?」
レイテアは全く見たことのない部屋にいることに気がつく。
いつものようにカシアの迎えで学院から帰宅して、工房で剣、槍に続く武装の考案。
その後両親と夕食を共にした後、床に就いたはず。
「ここは彼の自室、それを再現しました」
「あ、あなたは」
髪も肌も瞳さえも白い美女。ドラゴンの化身である。
「ここは夢の中なんですね」
「ええそう。心のずっとずっと奥。あなたと彼、そして私が互いに繋がるぐらい深いところ」
見下ろすと眠っている少年──以前にも会った黒髪の少年。
レイテアはそっと少年の手を握り、優しく呼びかける。
「
少年の瞼が僅かに動いた。
「おじさまっ!」
思わず声が弾む。
「……ん……あ……レイテアちゃん?」
飛び起きる少年。
「ドラゴンはどうなった?!」
「おじさまっ!」
レイテアは少年に抱きついて涙を流す。
「あのドラゴンに刺さっていた楔は破壊できました」
「そうか……良かった。操り人形から解放できたんだな」
「ええ」
「俺は長いこと寝てたのかな? あれからどれぐらい経つの?」
「一ヶ月以上ですわ」
「え? そんなに!」
「ありがとう、異界の方。私達からも最大限の感謝を捧げます」
「あ、ドラゴンさん。上手くいって良かったよ。……もしもさ、俺たちが失敗してたらどうなったの?」
「あなたの魂が剥がされかけたように、侯爵領の人々は次々と傀儡にされていたでしょう」
「……怖すぎるな、あの楔」
「あなたの魂はレイテアの魂と深く繋がっていたので無事だったのです」
「なるほど……。生き物を傀儡に変えるって、帝国どんだけハイテクなんだよ」
「いいえ、あれはずっと昔、私達が人と寄り添っていた時代よりも前、滅びた文明が残したもの」
「そ、そんな昔の? すごい古代文明があったわけだ……。レイテアちゃん、ドラゴンのお告げだと言って王様に報告した方がいいんじゃないか?」
「
「そうか! 貴族学院に入ったんだね?」
「はい。オリドアさんというお友達もできました」
「そりゃ良かった」
少年、いや男は安堵する。根っからのオタク気質なレイテアはきっと周りから浮いた存在になると心配していたからだ。
ドラゴンの化身が口を開く。
「帝国はラーヤミド王国へ攻め入ることを諦めてない。気をつけなさい。我らは人と人の争いには干渉しません、こうして警告をするのが精一杯なのです」
「わかりました」
「了解だよ……って、ここ俺の部屋? 高校時代だよな」
辺りにはSF雑誌、アニメ情報誌、音楽雑誌が散乱している。
「あ、これこれ」
一冊の雑誌を手に取る。
「なんて鮮やか色と綺麗な絵でしょう」
「レイテアちゃん、これ見て」
男が広げたアニメ雑誌。そこには空を飛ぶロボットが描かれている。
「これは……」
「そう。走っていくのもいいけどさ、いざという時に空を飛べるようにしようぜ」
「ゴーレムが空を……」
「ドラゴンさん、あんたらを見て思ったんだ。アテネを抱えて飛べるんじゃないか?」
「ええ。飛べますよ」
「ええっ!」
レイテアは驚き、男は口角を上げて笑う。
「そうじゃないかと思ったんだ。あの小さな翼で羽ばたくんじゃなく、何かの力場を発生させて浮いてるんじゃないかってな。ならお願いがある。いざという時にアテナを飛ばしてほしい」
「ええ。戦に干渉しない範囲なら、あなた方の頼みを断ることはありません」
「よっしゃ! これで遠距離、海の向こうへの移動が出来る」
「海の向こう……発想がすごいです。おじさま」
「陸の移動じゃ限界あるからね」
男が答えると同時にレイテアは気を失ったように倒れた。