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第二十七話 潰えた搦手

「あばっ」

「おおっ」

「わわっ」

「喋ると舌を噛みますヨ」


 レイテアを抱いたまま、階段を一足飛びで駆け下り、突風のような勢いで宿舎を飛び出るエミサ。

 アテナの格納庫は宿舎の隣だ。


「絶叫アトラクションより疲れた……」

「さ、アテナへ」

「あ、ああ」


 今は男の意識が主体になってるレイテアが頷く。

 直立していたアテナが跪き、伸ばしてきた手のひらへ飛び乗り、胸の開口部へ。


「エミサちゃん! アテナに近づこうとする人間は全て怪しいと判断してくれ!」


 胸部装甲が閉まる前、レイテアは振り向きエミサに叫ぶ。


「了解しましタ。ここには誰も近寄らせませン」


 エミサはその場で警戒姿勢をとる。

 そこへ兵士二人を連れたアーシアが入ってくる。


「あなた! レイテアは無事なの?」

「はい。問題ありませン。アテナの中が最も安全なのデ」

「どきなさい、レイテアの顔が見たいの」

「いいエ。何人たりともここより先へは進めませン」


 すぐにエミサはアーシアの鳩尾へ拳で突き、後頭部へ軽く手刀を入れる。そして兵士二人を二秒とかからず昏倒させた。

 再び胸部装甲を開き、レイテアが顔を覗かせる。


「エミサちゃん、迷いがないな」

「まず姿が変わった私を見てモ、全員に僅かな動揺も見られませんでしタ。それと殿下の足運びや姿勢が明らかに別人のもの、また兵士の歩き方も軍人のそれではなかったでス」

「観察眼すごい。……どこで乗っ取られたか……アーシアちゃんが不審なものがあるって呼ばれて行っただろ? 恐らくそこに楔がある」

「殿下の匂いを辿れば見つけられまス」

「頼む! アテナでぶっ壊すから」

「了解しましタ」

「あまり近づかないでくれよ! 効果範囲はかなりある。傀儡にされちまうから」

「はい」


 格納庫を飛び出し、鼻先をせわしなく動かしながら走っていくエミサ。

 アテナも立ち上がり、格納庫を出てエミサに続く。兵士達も集まってきたので、レイテアが説明する。


「兵士長! 兵士を傀儡する魔導器具が持ち込まれています。見つけ次第アテナで破壊します」

「はっ!」


 兵士が数人エミサに続く。

 エミサがある建物の前で立ち止まる。


 作物保管倉庫。

 高さはゆうに二十メートルを超え、この施設では最大の大きさだ。

 昼間はここへ輸送部隊や専属の商人がひっきりなしに出入りする。


 倉庫の入り口に近づくエミサへ突如剣で斬りかかる三人の兵士。

 難なく無力化してエミサは倉庫の中へ走り込む。


 うず高く積まれた木箱や麻袋、荷車が数十台。それらが所狭しとひしめいている中をエミサは駆け抜け、ひとつだけ離れた場所に置かれている木箱を見つけると、目つきが厳しくなった。


 倉庫の入り口からアテナが入り、エミサが指さす木箱めがけてナイフを投擲。

 轟音とともに木箱は粉砕され、楔が姿を現した。ナイフが突き刺さり、半分に割れかけている。


 すぐに兵士が数人、倒れた。


「兵士長! 施設にいる全員を確認してくれ!」

「はっ!」


 四百名余りが駐屯している施設。

 意識を失って倒れた人数は十五人。その中にはレイテアへ睡眠剤入りの紅茶を運んできた女も含まれている。


 ディーザ侯爵領で破壊した楔に比べ、小型だからだろうか、アーシアを含む倒れた人々は意識を取り戻した。


 そしてレイテアの部屋へ侵入した全身青紫の布で包まれた男たちは忽然と姿を消していることが判明。


 第八王女が管理する耕作地で起きたレイテア拉致未遂事件。不審者の侵入を許し、加えて意識を乗っ取る魔導兵器が国内で使用された。

 この出来事はラーヤミド王国に大きな衝撃を与えた。

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