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第7話

その夜、晴翔は眠れなかった。隣の部屋では天音も同じように眠れずにいるのだろう。壁越しにベッドがきしむ音が時々聞こえてくる。


スマホの画面を開き、検索窓に指が迷う。何を調べればいいのか。「突然浮く」?「念力」?「超能力」?どれも非科学的で、検索しても役に立ちそうにない。


結局、「念力 科学的説明」と入力した。出てくる結果は、オカルト系のサイトばかり。科学的に証明された念力などないというのが結論だった。


「やっぱり...」


晴翔はため息をついた。姉に何が起きているのか、誰も答えを知らない。


ふと、窓の外に目をやると、いつもより星が明るく輝いているように見えた。まるで近づいているかのように。


「気のせいかな...」


そう思った瞬間、外から物音がした。窓を開けて外を見ると、庭に人影があった。


「お姉ちゃん...?」


天音が庭に立っていた。パジャマ姿のまま、上を見上げている。


晴翔は慌てて部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。


「お姉ちゃん! 何してるの?」


天音は振り向かなかった。まるで催眠状態のように、ただ夜空を見上げている。


「お姉ちゃん?」


晴翔が肩に触れると、天音はようやく我に返ったように振り向いた。


「え...晴翔? 私、どうして外に...?」


「分からないの?」


「うん...気づいたら、ここに立ってた」


晴翔は姉の手を取った。冷たい。


「部屋に戻ろう。風邪引くよ」


二人は家に戻り、リビングのソファに腰掛けた。晴翔はキッチンでお湯を沸かし、二人分のココアを作った。


「はい、温まって」


「ありがとう...」


天音はマグカップを両手で包み込む。その指先がわずかに震えていた。


「覚えてないの? どうして外に出たか」


「うん...ただ、なんか星が呼んでるような気がして...」


晴翔は眉をひそめた。


「星が...呼んでる?」


「変な言い方だよね。でも、そんな感じがしたの」


天音は窓の外を見つめながら続けた。


「星が近づいてきてる気がするんだ。今までより、ずっと大きく見える」


晴翔も窓の外を見た。確かに、星はいつもより明るく、大きく見える。でも、それは気のせいだろうか?


「天体観測とかしたことないから分からないけど...」


「ねえ、晴翔」


突然、天音が真剣な顔で晴翔を見つめた。


「明日から学校、休もうかな」


「え? どうして?」


「だって...また変なことが起きたら...」


確かにその心配は理解できた。でも——


「でも、学校休んでも解決しないよ」


「そうだけど...」


「それに、不自然に休むと余計に周りが心配する。生徒会の仕事もあるし」


天音は困ったように唇を噛んだ。


「変なことが起きそうになったら、すぐに俺を呼べば? いつでも飛んでいくから」


「本当に?」


「当たり前じゃん」


天音は少し安心したように笑った。


「ありがとう。晴翔がいてくれて本当に良かった」


「姉と弟だもんね」


「そうだね...」


静かな夜の中、二人は黙ってココアを飲んだ。窓の外では、星々が異常に輝いていた。


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