その夜、晴翔は眠れなかった。隣の部屋では天音も同じように眠れずにいるのだろう。壁越しにベッドがきしむ音が時々聞こえてくる。
スマホの画面を開き、検索窓に指が迷う。何を調べればいいのか。「突然浮く」?「念力」?「超能力」?どれも非科学的で、検索しても役に立ちそうにない。
結局、「念力 科学的説明」と入力した。出てくる結果は、オカルト系のサイトばかり。科学的に証明された念力などないというのが結論だった。
「やっぱり...」
晴翔はため息をついた。姉に何が起きているのか、誰も答えを知らない。
ふと、窓の外に目をやると、いつもより星が明るく輝いているように見えた。まるで近づいているかのように。
「気のせいかな...」
そう思った瞬間、外から物音がした。窓を開けて外を見ると、庭に人影があった。
「お姉ちゃん...?」
天音が庭に立っていた。パジャマ姿のまま、上を見上げている。
晴翔は慌てて部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。
「お姉ちゃん! 何してるの?」
天音は振り向かなかった。まるで催眠状態のように、ただ夜空を見上げている。
「お姉ちゃん?」
晴翔が肩に触れると、天音はようやく我に返ったように振り向いた。
「え...晴翔? 私、どうして外に...?」
「分からないの?」
「うん...気づいたら、ここに立ってた」
晴翔は姉の手を取った。冷たい。
「部屋に戻ろう。風邪引くよ」
二人は家に戻り、リビングのソファに腰掛けた。晴翔はキッチンでお湯を沸かし、二人分のココアを作った。
「はい、温まって」
「ありがとう...」
天音はマグカップを両手で包み込む。その指先がわずかに震えていた。
「覚えてないの? どうして外に出たか」
「うん...ただ、なんか星が呼んでるような気がして...」
晴翔は眉をひそめた。
「星が...呼んでる?」
「変な言い方だよね。でも、そんな感じがしたの」
天音は窓の外を見つめながら続けた。
「星が近づいてきてる気がするんだ。今までより、ずっと大きく見える」
晴翔も窓の外を見た。確かに、星はいつもより明るく、大きく見える。でも、それは気のせいだろうか?
「天体観測とかしたことないから分からないけど...」
「ねえ、晴翔」
突然、天音が真剣な顔で晴翔を見つめた。
「明日から学校、休もうかな」
「え? どうして?」
「だって...また変なことが起きたら...」
確かにその心配は理解できた。でも——
「でも、学校休んでも解決しないよ」
「そうだけど...」
「それに、不自然に休むと余計に周りが心配する。生徒会の仕事もあるし」
天音は困ったように唇を噛んだ。
「変なことが起きそうになったら、すぐに俺を呼べば? いつでも飛んでいくから」
「本当に?」
「当たり前じゃん」
天音は少し安心したように笑った。
「ありがとう。晴翔がいてくれて本当に良かった」
「姉と弟だもんね」
「そうだね...」
静かな夜の中、二人は黙ってココアを飲んだ。窓の外では、星々が異常に輝いていた。