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第10話

校庭の円は完全な幾何学的形状を保っていた。草が丁寧に編み込まれたような不思議な模様が浮かび上がり、円の中心には何もない空間が広がっていた。


「これって...」


結城ゆうき美羽みうが言葉を詰まらせる。生徒たちが恐る恐る近づいていくが、教師たちが立ち入り禁止のテープを張り巡らせていた。


「みんな下がって! 危険かもしれないから近づかないで!」


佐藤さとう先生が声を張り上げる。しかし、好奇心旺盛な高校生たちはスマホを構えて写真を撮りまくっていた。


朝霧あさぎり天音あまねは、その光景を茫然と見つめていた。彼女の顔が青ざめている。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


朝霧あさぎり晴翔はるとが心配そうに尋ねた。


「うん...でも、これ...」


天音は小さな声で言った。


「昨日の夜、夢の中で見たの」


晴翔は息を飲んだ。


「夢で...見た?」


「うん。空から地面を見下ろして...円を描くように飛んだの」


晴翔は周囲を見回した。誰も彼らの会話に耳を傾けていない。みんな奇妙な円形の模様に夢中だ。


「お姉ちゃん、今日は帰ろう。このままいても...」


「そうだね...」


二人が静かに校庭を離れようとしたとき、突然、校内放送が鳴り響いた。


『緊急連絡です。ただいま気象庁から注意喚起ちゅういかんきが発表されました。本日、妙典みょうでん地区上空に発生している大気光学現象たいきこうがくげんしょうについてです。この現象の原因は現在調査中とのことですが、健康への影響は報告されていないとのことです。ただし、念のため、本日の授業は午前中で終了とし、午後は臨時休校とします。速やかに下校するよう指示します』


放送が終わると、生徒たちの間に歓声と困惑が入り混じった反応が広がった。


「やったー! 午後休みだ!」 「でも、原因不明の現象って怖くない?」 「UFOの仕業じゃない?」


様々な憶測が飛び交う中、晴翔は天音の手を取った。


「行こう」


「うん...」


天音はふらつく足取りで、晴翔に支えられながら校門へと向かった。美羽も心配そうに二人の後を追いかけてきた。


「先輩、本当に大丈夫ですか? 送っていきましょうか?」


「ありがとう、美羽ちゃん。でも、晴翔がいるから...」


「そうですか...」


美羽は少し不満そうな顔をしたが、すぐに明るい笑顔に戻した。


「じゃあ、また明日ですね! お大事に!」


美羽が手を振って別れると、姉弟は静かに帰路についた。


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