帰り道、天音はほとんど口を開かなかった。晴翔も無理に話しかけようとはしなかった。二人の間に不安な沈黙が流れる。
「晴翔...」
ようやく天音が口を開いた。
「うん?」
「私、怖いよ...」
天音の声が震えていた。
「何が起きてるんだろう...あの円も、空の光も...全部私のせいなの?」
晴翔は深く息を吸い、ゆっくりと言った。
「まだ分からないよ。偶然かもしれないし...」
「偶然じゃないよ!」
突然強い口調になった天音に、晴翔は驚いた。
「だって...私が夢で見たことが、そのまま現実になってるんだよ。空を飛んで、円を描いて...それが朝になったら校庭に出来てた」
その言葉に反論できなかった。確かに偶然とは思えない一致だ。
「じゃあ...お姉ちゃんに何か特別な力が目覚めたってこと?」
「そんな...
天音は苦笑したが、その表情には深い不安が刻まれていた。
二人が家に着くと、玄関前に見知らぬ人影があった。黒いスーツを着た女性が、まるで彼らを待っていたかのように立っていた。
「あの...どちら様ですか?」
晴翔が警戒しながら尋ねた。女性は短く切りそろえた黒髪を揺らし、鋭い視線を二人に向けた。
「
女性は冷たく洗練された声で言った。年齢は二十代半ばといったところか。
「どうして私たちの名前を...?」
天音が不安そうに晴翔の後ろに隠れる。
「私の名前は
女性——叶絵は、ポケットからIDカードのようなものを取り出した。そこには確かに「特殊事象調査局」という見慣れない名前と彼女の写真が印刷されていた。
「特殊事象...調査局?」
「はい。一般には知られていない組織です」
叶絵は周囲を見回し、静かに続けた。
「ここでは話せません。お二人とお話したいことがあります。中に入らせていただけませんか?」
晴翔は迷った。見知らぬ人間を家に上げるのは危険だ。しかし、この女性は明らかに天音の異変について何か知っているようだった。
「晴翔...」
天音が不安そうに囁く。
「大丈夫だよ」
晴翔は深呼吸をして、決断した。
「分かりました。どうぞ」