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第14話

夕食後、晴翔は一人で自室に戻り、叶絵が残した装置を調べていた。表面には複雑な幾何学模様が彫り込まれている。押すと動作するというボタンも確認できた。


「本当に効くのかな...」


スマホの着信音が鳴り、画面を見ると鴻上こうがみ直人なおとからのメッセージだった。


『今日の異変について、色々調べてみた。明日話したいことがある。』


晴翔は返信した。


『了解。何か分かったの?』


すぐに答えが返ってきた。


『妙典周辺だけで起きている現象だということ。それと、似たような事例が過去にもあったらしい。詳しくは明日』


晴翔は眉をひそめた。過去の事例? それが意味することは...


考えを整理できないまま、晴翔はベッドに横になった。今日の出来事が頭の中でぐるぐると回る。神の力を持った姉。彼女を狙う謎の存在たち。そして、普通の日常を守るという自分の使命。


「やれやれ...」


天井を見つめながら、晴翔は苦笑した。


「漫画みたいな展開だよ...」


しかし、これは現実だ。明日からの生活がどうなるのか、想像もつかない。


晴翔が物思いにふけっていると、ノックの音がした。


「晴翔、入ってもいい?」


天音の声だ。


「どうぞ」


ドアが開き、パジャマ姿の天音が入ってきた。手には小さなノートを持っている。


「これ」


天音がノートを差し出した。開くと、そこには彼女の整った字で記された文章があった。


「これは...?」


「私が最近見た夢の記録。あの叶絵さんが来る前から書き始めてたんだ」


晴翔はページをめくった。空を飛ぶ夢。物を動かす夢。そして、校庭に円を描く夢。全て現実になったものばかりだ。


「これから見る夢も記録しておこうと思って...もしかしたら、手がかりになるかもしれないから」


「そうだね、良い考えだ」


晴翔はノートを返した。天音はベッドの端に腰掛けた。


「怖いよ...」


彼女の声は小さかった。


「急に神なんて言われても...私には大きすぎる」


「そりゃそうだよ。いきなり『あなたは神です』なんて言われたら、誰だって混乱する」


晴翔は姉を励まそうとした。


「でも、お姉ちゃんならきっと大丈夫だよ。だって、あの人も言ってたじゃん。『純粋な愛情』を持ってるって」


天音は照れたように俯いた。


「それって...そんな大したことじゃないよ」


「いや、すごいことだよ。だからお姉ちゃんは選ばれたんだ」


晴翔は真剣な表情で言った。


「俺は...お姉ちゃんを信じてる。どんな力を持とうが、お姉ちゃんは誰も傷つけない。それだけは確かだ」


天音の目に涙が浮かんだ。


「ありがとう...」


彼女はそっと晴翔の肩に頭を預けた。


「晴翔がいてくれて本当に良かった...」


「当たり前じゃん。俺たちは家族だから」


暖かな沈黙が流れた。窓の外には、まだ虹色のもやが漂っている。不思議なことに、その光景も少し美しく感じられるようになっていた。


「そういえば」


天音が急に思い出したように言った。


「あの叶絵っていう人、すごく強い人な気がした」


「確かに。普通の人じゃないって感じはしたね」


「彼女も...何か能力持ってるのかな」


「さあ...」


それについては、叶絵は何も語らなかった。神狩りの組織とはどんな存在なのか。彼らもまた特殊な力を持っているのだろうか。


「ねえ、明日から学校、どうしよう...」


天音が不安そうに言った。


「普通に行こう」


晴翔はきっぱりと言った。


「でも、また変なことが起きたら...」


「起きたら、その時考えよう。事前に心配しても仕方ないよ」


天音はしばらく考え込み、やがて小さく頷いた。


「そうだね...普通に、普通の女子高生として...」


「それが一番だよ。それに、俺がついてるから」


「うん...」


天音は立ち上がり、ドアに向かった。


「おやすみ、晴翔。明日も...よろしくね」


「おやすみ、お姉ちゃん」


ドアが閉まり、晴翔は再び一人になった。彼は窓辺に立ち、夜空を見上げた。


虹色のもやの向こうに、星々が輝いている。何も知らない街の人々は、この不思議な光景をどう思っているのだろう。


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