夕食後、晴翔は一人で自室に戻り、叶絵が残した装置を調べていた。表面には複雑な幾何学模様が彫り込まれている。押すと動作するというボタンも確認できた。
「本当に効くのかな...」
スマホの着信音が鳴り、画面を見ると
『今日の異変について、色々調べてみた。明日話したいことがある。』
晴翔は返信した。
『了解。何か分かったの?』
すぐに答えが返ってきた。
『妙典周辺だけで起きている現象だということ。それと、似たような事例が過去にもあったらしい。詳しくは明日』
晴翔は眉をひそめた。過去の事例? それが意味することは...
考えを整理できないまま、晴翔はベッドに横になった。今日の出来事が頭の中でぐるぐると回る。神の力を持った姉。彼女を狙う謎の存在たち。そして、普通の日常を守るという自分の使命。
「やれやれ...」
天井を見つめながら、晴翔は苦笑した。
「漫画みたいな展開だよ...」
しかし、これは現実だ。明日からの生活がどうなるのか、想像もつかない。
晴翔が物思いにふけっていると、ノックの音がした。
「晴翔、入ってもいい?」
天音の声だ。
「どうぞ」
ドアが開き、パジャマ姿の天音が入ってきた。手には小さなノートを持っている。
「これ」
天音がノートを差し出した。開くと、そこには彼女の整った字で記された文章があった。
「これは...?」
「私が最近見た夢の記録。あの叶絵さんが来る前から書き始めてたんだ」
晴翔はページをめくった。空を飛ぶ夢。物を動かす夢。そして、校庭に円を描く夢。全て現実になったものばかりだ。
「これから見る夢も記録しておこうと思って...もしかしたら、手がかりになるかもしれないから」
「そうだね、良い考えだ」
晴翔はノートを返した。天音はベッドの端に腰掛けた。
「怖いよ...」
彼女の声は小さかった。
「急に神なんて言われても...私には大きすぎる」
「そりゃそうだよ。いきなり『あなたは神です』なんて言われたら、誰だって混乱する」
晴翔は姉を励まそうとした。
「でも、お姉ちゃんならきっと大丈夫だよ。だって、あの人も言ってたじゃん。『純粋な愛情』を持ってるって」
天音は照れたように俯いた。
「それって...そんな大したことじゃないよ」
「いや、すごいことだよ。だからお姉ちゃんは選ばれたんだ」
晴翔は真剣な表情で言った。
「俺は...お姉ちゃんを信じてる。どんな力を持とうが、お姉ちゃんは誰も傷つけない。それだけは確かだ」
天音の目に涙が浮かんだ。
「ありがとう...」
彼女はそっと晴翔の肩に頭を預けた。
「晴翔がいてくれて本当に良かった...」
「当たり前じゃん。俺たちは家族だから」
暖かな沈黙が流れた。窓の外には、まだ虹色の
「そういえば」
天音が急に思い出したように言った。
「あの叶絵っていう人、すごく強い人な気がした」
「確かに。普通の人じゃないって感じはしたね」
「彼女も...何か能力持ってるのかな」
「さあ...」
それについては、叶絵は何も語らなかった。神狩りの組織とはどんな存在なのか。彼らもまた特殊な力を持っているのだろうか。
「ねえ、明日から学校、どうしよう...」
天音が不安そうに言った。
「普通に行こう」
晴翔はきっぱりと言った。
「でも、また変なことが起きたら...」
「起きたら、その時考えよう。事前に心配しても仕方ないよ」
天音はしばらく考え込み、やがて小さく頷いた。
「そうだね...普通に、普通の女子高生として...」
「それが一番だよ。それに、俺がついてるから」
「うん...」
天音は立ち上がり、ドアに向かった。
「おやすみ、晴翔。明日も...よろしくね」
「おやすみ、お姉ちゃん」
ドアが閉まり、晴翔は再び一人になった。彼は窓辺に立ち、夜空を見上げた。
虹色の