目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第15話

朝の光が窓から差し込む頃、朝霧あさぎり晴翔はるとは既に目を覚ましていた。昨夜はほとんど眠れなかった。目を閉じるたびに、叶絵の言葉が頭の中でこだまする。


「神...か」


言葉にすると、いっそう非現実的に感じられる。晴翔はベッドから起き上がり、窓の外を見た。空の異変は続いていた。虹色のもやが朝日に照らされ、幻想的な光景を作り出している。


「それにしても、何でお姉ちゃんなんだ...」


天音はいつも通りの女子高生だ。確かに優しくて、思いやりがあって、周りから好かれる存在。でも、「神」に選ばれるほど特別な存在だとは思ってもみなかった。


時計は六時半を指していた。いつもより早い。晴翔は静かに部屋を出て、廊下に立った。隣の部屋からは物音一つしない。天音はまだ眠っているようだ。


「今日は起こさないでおこう」


そっと階段を下り、キッチンへ向かった。今日は自分が朝食を用意しよう。姉を少しでも安心させたかった。


食パンをトーストし、スクランブルエッグを作り、コーヒーを入れる。いつもより丁寧に、愛情を込めて。


「なんだか新婚の夫みたいだな」


自分の考えに苦笑する。こんな状況でも冗談が浮かぶのは、緊張からかもしれない。


朝食の準備が整った頃、階段の上から足音が聞こえた。


「晴翔...?」


眠そうな声で天音が呼んだ。


「おはよう、お姉ちゃん。朝ごはん作ったよ」


天音はパジャマ姿のまま階段を下りてきた。髪は少し乱れていて、目元には疲れの色が見える。


「ありがとう...でも、なんでこんなに早くに?」


「今日は特別だからね」


それ以上の説明は必要なかった。二人とも、昨日の出来事を鮮明に覚えている。


天音はテーブルに座り、コーヒーに手を伸ばした。カップを持ち上げようとした瞬間、彼女の手が震え、コーヒーがテーブルにこぼれた。


「あっ...ごめん」


「大丈夫だよ」


晴翔はすぐにキッチンペーパーを取って拭き始めた。天音の手がまだ震えているのが見える。


「昨日のこと、考えてたの?」


「うん...」


天音は俯いた。


「私、学校行くべきかな...」


「行こう」


晴翔はきっぱりと言った。


「でも...」


「普通の生活を送るって決めたんだろ? だったら、普通に学校に行くべきだよ」


天音は迷いながらも、小さく頷いた。


「そうだね...あの人も言ってたもんね。自覚すればするほど力が強くなるって。だから普通の女子高生として過ごすのが一番」


「そういうこと」


晴翔は姉の前にトーストとスクランブルエッグを置いた。


「食べて。今日はきっと長い一日になるから」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?