登校途中、二人は静かに歩いていた。いつもなら
「みんな、あの空のことどう思ってるんだろう...」
天音が空を見上げながら呟いた。
「さあ...でも、ニュースでは『
「それで納得してる人、どれくらいいるかな」
科学で説明できない現象を目の当たりにして、人々はどう反応するのか。不安と好奇心が入り混じった感情だろう。
校門が見えてきた。いつもと変わらない光景だが、生徒たちの視線が空に向いているのが分かる。
「行こう、お姉ちゃん」
晴翔は天音の手を軽く握った。
「うん...」
学校に入ると、昨日と同じざわめきが続いていた。みんなスマホを見せ合い、空の写真を撮っている。
「あ! 朝霧くーん!」
振り返ると、美羽が走ってきた。
「おはよう、天音先輩! 朝霧くん!」
「おはよう」
天音が微笑みを返す。
「先輩、もう大丈夫なんですか? 昨日は具合悪そうでしたけど」
「うん、ありがとう。もう大丈夫よ」
美羽は安心したように笑った。
「よかったぁ! それにしても、あの空、まだ続いてますね!」
「うん...」
「でも、なんか綺麗じゃないですか? みんな怖がってるけど、私はむしろワクワクしちゃう!」
美羽の前向きな反応に、天音は少し驚いた様子だった。
「そう...思う?」
「はい! なんか、魔法みたいじゃないですか? 現実離れした世界に来たみたいで」
天音と晴翔は顔を見合わせた。美羽は知らずに的確なことを言っている。
「そうかもね...」
「あ、そういえば!」
美羽が急に思い出したように言った。
「昨日の校庭の円、今朝見たら消えてましたよ!」
「え?」
晴翔は驚いた。
「本当?」
「はい! 先生たちも不思議がってました。昨日はあんなにはっきりあったのに、今朝になったら跡形もなく...」
天音はそっと晴翔の袖を引いた。二人は視線を交わす。
「見に行ってみる?」
「うん」
三人は校庭へ向かった。確かに、昨日あれほど鮮明だった円形の模様は完全に消えていた。まるで最初から存在しなかったかのように。
「不思議ですよね〜」
美羽がキョロキョロと辺りを見回す。
「先生たちは『いたずらだったのではないか』って言ってましたけど、あんな完璧な円をどうやって一晩で消すんですかね?」
晴翔は考え込んだ。昨日、天音は夢で円を描いたと言っていた。そして今朝は...
「お姉ちゃん、昨日の夜、何か夢を見た?」
小声で尋ねると、天音はハッとした表情になった。
「思い出した...昨夜、『もう円はいらない』って思いながら眠ったの」
「それで消えたのか...」
二人の小声の会話に、美羽が首を傾げた。
「え? 何かあったんですか?」
「あ、いや、何でもないよ」
晴翔は慌てて取り繕った。
チャイムが鳴り、三人は教室へと向かった。