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第16話

登校途中、二人は静かに歩いていた。いつもなら結城ゆうき美羽みうが走ってきて声をかけるところだが、今日は姿が見えない。


「みんな、あの空のことどう思ってるんだろう...」


天音が空を見上げながら呟いた。


「さあ...でも、ニュースでは『大気光学現象たいきこうがくげんしょう』って言ってたよね」


「それで納得してる人、どれくらいいるかな」


科学で説明できない現象を目の当たりにして、人々はどう反応するのか。不安と好奇心が入り混じった感情だろう。


校門が見えてきた。いつもと変わらない光景だが、生徒たちの視線が空に向いているのが分かる。


「行こう、お姉ちゃん」


晴翔は天音の手を軽く握った。


「うん...」


学校に入ると、昨日と同じざわめきが続いていた。みんなスマホを見せ合い、空の写真を撮っている。


「あ! 朝霧くーん!」


振り返ると、美羽が走ってきた。


「おはよう、天音先輩! 朝霧くん!」


「おはよう」


天音が微笑みを返す。


「先輩、もう大丈夫なんですか? 昨日は具合悪そうでしたけど」


「うん、ありがとう。もう大丈夫よ」


美羽は安心したように笑った。


「よかったぁ! それにしても、あの空、まだ続いてますね!」


「うん...」


「でも、なんか綺麗じゃないですか? みんな怖がってるけど、私はむしろワクワクしちゃう!」


美羽の前向きな反応に、天音は少し驚いた様子だった。


「そう...思う?」


「はい! なんか、魔法みたいじゃないですか? 現実離れした世界に来たみたいで」


天音と晴翔は顔を見合わせた。美羽は知らずに的確なことを言っている。


「そうかもね...」


「あ、そういえば!」


美羽が急に思い出したように言った。


「昨日の校庭の円、今朝見たら消えてましたよ!」


「え?」


晴翔は驚いた。


「本当?」


「はい! 先生たちも不思議がってました。昨日はあんなにはっきりあったのに、今朝になったら跡形もなく...」


天音はそっと晴翔の袖を引いた。二人は視線を交わす。


「見に行ってみる?」


「うん」


三人は校庭へ向かった。確かに、昨日あれほど鮮明だった円形の模様は完全に消えていた。まるで最初から存在しなかったかのように。


「不思議ですよね〜」


美羽がキョロキョロと辺りを見回す。


「先生たちは『いたずらだったのではないか』って言ってましたけど、あんな完璧な円をどうやって一晩で消すんですかね?」


晴翔は考え込んだ。昨日、天音は夢で円を描いたと言っていた。そして今朝は...


「お姉ちゃん、昨日の夜、何か夢を見た?」


小声で尋ねると、天音はハッとした表情になった。


「思い出した...昨夜、『もう円はいらない』って思いながら眠ったの」


「それで消えたのか...」


二人の小声の会話に、美羽が首を傾げた。


「え? 何かあったんですか?」


「あ、いや、何でもないよ」


晴翔は慌てて取り繕った。


チャイムが鳴り、三人は教室へと向かった。


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