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第17話

授業中、晴翔の頭の中は混乱していた。視線は教科書に向けられているが、心はそこにない。隣の席では鴻上こうがみ直人なおとが時折チラチラと彼を見ていた。


「なあ、朝霧」


休み時間になるなり、直人が声をかけてきた。


「昨日言ってた話、聞きたくないか?」


晴翔は周囲を見回した。クラスメイトたちは思い思いに過ごしている。誰も彼らの会話に興味はなさそうだ。


「うん、聞かせて」


直人は眼鏡を上げ、声を落とした。


「昨日調べてみたんだが、この現象、過去にも似たようなケースがあったらしい」


「本当に?」


「ああ。約50年前、北海道ほっかいどうの小さな町で。突然空が変色し、奇妙な現象が続いたという記録がある」


晴翔は身を乗り出した。


「その時は、どうなったの?」


「...数日後、その町は大地震に襲われた」


晴翔の背筋に冷たいものが走った。


「大地震...?」


「犠牲者も出たらしい。当時はこの空の現象と地震の関連性は不明とされたが...」


直人は眼鏡の奥の鋭い目で晴翔を見た。


「朝霧、君は何か知ってるだろう?」


「え?」


「君の様子がおかしい。昨日から落ち着きがないし、姉さんの具合が悪くなったのも、この現象が始まってからだ」


晴翔は言葉につまった。直人は鋭い。何かを感じ取っているのだろう。


「...君を責めてるわけじゃない。ただ、何か関連があるなら、教えてほしい」


直人の真剣な表情に、晴翔は迷った。友人を信じるべきか。でも、姉のことを守るという使命もある。


「...今は言えないんだ。ごめん」


直人はしばらく晴翔を見つめ、やがて小さくため息をついた。


「分かった。無理強いはしない。ただ...」


彼は低い声で続けた。


「危険なことが起きそうなら、言ってくれ。力になれるかもしれない」


晴翔は驚いた。直人がこんな風に心配してくれるなんて。


「ありがとう...」


その時、教室のドアが急に開いた。望月もちづきれんが入ってきたのだ。彼の銀色の髪が朝の光に照らされて神秘的に輝いている。


蓮は教室に入るなり、真っ直ぐに晴翔の方へ歩いてきた。


朝霧あさぎり


意外な声かけに、晴翔は驚いた。これまでほとんど話したことのない蓮が、突然声をかけてくるなんて。


「なに?」


「君の姉さんに、気をつけた方がいい」


唐突な言葉に、晴翔は思わず立ち上がった。


「どういう意味だ?」


「この空の変化...彼女に関係がある」


晴翔は血の気が引いた。どうして蓮がそんなことを知っているのか。


「何を言って...」


「僕にも見えるんだ。普通の人には見えない『光』が、彼女の周りに渦巻いている」


蓮の瞳が、不思議な光を帯びているように見えた。


「お前...一体何者だ?」


「ただの『見る人』さ」


蓮は微笑み、続けた。


「心配しないで。敵じゃない。でも、彼女を狙う者たちがいる。気をつけた方がいい」


そう言うと、蓮は自分の席へと戻っていった。後には困惑する晴翔と、興味深そうに見守る直人が残された。


「一体、何なんだ...」


晴翔はつぶやいた。状況はますます複雑になっていく。


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