授業中、晴翔の頭の中は混乱していた。視線は教科書に向けられているが、心はそこにない。隣の席では
「なあ、朝霧」
休み時間になるなり、直人が声をかけてきた。
「昨日言ってた話、聞きたくないか?」
晴翔は周囲を見回した。クラスメイトたちは思い思いに過ごしている。誰も彼らの会話に興味はなさそうだ。
「うん、聞かせて」
直人は眼鏡を上げ、声を落とした。
「昨日調べてみたんだが、この現象、過去にも似たようなケースがあったらしい」
「本当に?」
「ああ。約50年前、
晴翔は身を乗り出した。
「その時は、どうなったの?」
「...数日後、その町は大地震に襲われた」
晴翔の背筋に冷たいものが走った。
「大地震...?」
「犠牲者も出たらしい。当時はこの空の現象と地震の関連性は不明とされたが...」
直人は眼鏡の奥の鋭い目で晴翔を見た。
「朝霧、君は何か知ってるだろう?」
「え?」
「君の様子がおかしい。昨日から落ち着きがないし、姉さんの具合が悪くなったのも、この現象が始まってからだ」
晴翔は言葉につまった。直人は鋭い。何かを感じ取っているのだろう。
「...君を責めてるわけじゃない。ただ、何か関連があるなら、教えてほしい」
直人の真剣な表情に、晴翔は迷った。友人を信じるべきか。でも、姉のことを守るという使命もある。
「...今は言えないんだ。ごめん」
直人はしばらく晴翔を見つめ、やがて小さくため息をついた。
「分かった。無理強いはしない。ただ...」
彼は低い声で続けた。
「危険なことが起きそうなら、言ってくれ。力になれるかもしれない」
晴翔は驚いた。直人がこんな風に心配してくれるなんて。
「ありがとう...」
その時、教室のドアが急に開いた。
蓮は教室に入るなり、真っ直ぐに晴翔の方へ歩いてきた。
「
意外な声かけに、晴翔は驚いた。これまでほとんど話したことのない蓮が、突然声をかけてくるなんて。
「なに?」
「君の姉さんに、気をつけた方がいい」
唐突な言葉に、晴翔は思わず立ち上がった。
「どういう意味だ?」
「この空の変化...彼女に関係がある」
晴翔は血の気が引いた。どうして蓮がそんなことを知っているのか。
「何を言って...」
「僕にも見えるんだ。普通の人には見えない『光』が、彼女の周りに渦巻いている」
蓮の瞳が、不思議な光を帯びているように見えた。
「お前...一体何者だ?」
「ただの『見る人』さ」
蓮は微笑み、続けた。
「心配しないで。敵じゃない。でも、彼女を狙う者たちがいる。気をつけた方がいい」
そう言うと、蓮は自分の席へと戻っていった。後には困惑する晴翔と、興味深そうに見守る直人が残された。
「一体、何なんだ...」
晴翔はつぶやいた。状況はますます複雑になっていく。