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第20話

帰宅後、晴翔は玄関と窓の鍵を二重三重に確認した。両親は今日も遅いらしい。二人だけの家は妙に静かで、物音一つが心臓を高鳴らせる。


「お茶入れたよ」


天音がリビングに運んできた。彼女の手はまだ少し震えている。


「ありがとう」


晴翔はソファに座り、叶絵から渡されたカードを取り出した。


「叶絵さんに連絡してみようか」


「うん...」


晴翔が番号を押すと、すぐに応答があった。


『はい、叶絵です』


「朝霧晴翔です。今日、僕たちは襲われました」


『...詳細を教えてください』


晴翔は今日の出来事を簡潔に説明した。黒スーツの男のこと、そして蓮の助けのことも。


『分かりました。その男はジンという名の刺客です。神狩り組織の一員ですが、私とは別の派閥に属しています』


「別の派閥?」


『はい。私たちの組織内にも意見の対立があります。完全抹殺派と観察派...』


「完全抹殺派って...」


『新たな神を即座に排除すべきだと考える派閥です。私は観察派ですが、彼らの動きを完全に止めることはできません』


晴翔は天音を見た。姉の顔は青ざめている。


「じゃあ、またあの男が来る可能性もあるってことですか?」


『あります。しかし、我々も対策を講じています。本部に保護を申請します』


「保護...?」


『常時監視と緊急時の介入です。ただ...』


叶絵の声が一瞬躊躇した。


『望月蓮という少年の件は新情報です。彼が何者かは調査します』


「分かりました」


『それと、前も伝えたように抑制装置は常に携帯してください。天音さんの力が暴走すれば、ジンのような刺客を引き寄せます』


「了解しました」


通話が終わると、晴翔は深いため息をついた。


「どうするの...これから」


天音の声は小さかった。


「とりあえず、明日から学校は一緒に行こう。一人にはさせない」


「うん...」


晴翔は姉の肩を抱いた。


「大丈夫だよ。俺が絶対に守るから」


「でも...あんな刺客がまた来たら...」


「その時は...」


晴翔は言葉を選んだ。


「お姉ちゃんの力を使ってもいい」


「え?」


「命の危険がある時だけ。それ以外は普通に振る舞おう。でも、万が一の時は...自分を守るために力を使っていいんだ」


天音は困惑した表情で晴翔を見た。


「でも、叶絵さんは『自覚すればするほど危険』って...」


「だから、普段は使わないでいい。でも、命の危険があるなら、それは仕方ない」


晴翔は強く言った。


「お姉ちゃんに死なれるくらいなら、力を使ってほしい」


天音の目から涙がこぼれた。


「晴翔...」


「約束して。危ない時は、自分を守ると」


「...うん、約束する」


晴翔は安心したように微笑んだ。


「よし。それじゃあ、今日はもう寝よう。疲れたはずだから」


「うん...」


天音が立ち上がりかけたとき、ふと足を止めた。


「晴翔...本当にありがとう」


「なにが?」


「そばにいてくれて...守ってくれて...」


晴翔は頭をかいた。


「当たり前じゃん。お姉ちゃんは俺の大切な家族だから」


天音は優しく微笑んだ。その表情に、かすかな光が宿るように見えた。


「私も晴翔を守りたい...だから強くなる」


「無理しないでね」


「うん...おやすみ、晴翔」


「おやすみ」


天音が部屋に戻った後、晴翔は窓の外を見つめた。空には依然として虹色のもやが広がり、星々が幻想的に輝いている。


「神か...」


ため息と共に呟いた言葉が、静かな夜の中に溶けていった。


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