帰宅後、晴翔は玄関と窓の鍵を二重三重に確認した。両親は今日も遅いらしい。二人だけの家は妙に静かで、物音一つが心臓を高鳴らせる。
「お茶入れたよ」
天音がリビングに運んできた。彼女の手はまだ少し震えている。
「ありがとう」
晴翔はソファに座り、叶絵から渡されたカードを取り出した。
「叶絵さんに連絡してみようか」
「うん...」
晴翔が番号を押すと、すぐに応答があった。
『はい、叶絵です』
「朝霧晴翔です。今日、僕たちは襲われました」
『...詳細を教えてください』
晴翔は今日の出来事を簡潔に説明した。黒スーツの男のこと、そして蓮の助けのことも。
『分かりました。その男はジンという名の刺客です。神狩り組織の一員ですが、私とは別の派閥に属しています』
「別の派閥?」
『はい。私たちの組織内にも意見の対立があります。完全抹殺派と観察派...』
「完全抹殺派って...」
『新たな神を即座に排除すべきだと考える派閥です。私は観察派ですが、彼らの動きを完全に止めることはできません』
晴翔は天音を見た。姉の顔は青ざめている。
「じゃあ、またあの男が来る可能性もあるってことですか?」
『あります。しかし、我々も対策を講じています。本部に保護を申請します』
「保護...?」
『常時監視と緊急時の介入です。ただ...』
叶絵の声が一瞬躊躇した。
『望月蓮という少年の件は新情報です。彼が何者かは調査します』
「分かりました」
『それと、前も伝えたように抑制装置は常に携帯してください。天音さんの力が暴走すれば、ジンのような刺客を引き寄せます』
「了解しました」
通話が終わると、晴翔は深いため息をついた。
「どうするの...これから」
天音の声は小さかった。
「とりあえず、明日から学校は一緒に行こう。一人にはさせない」
「うん...」
晴翔は姉の肩を抱いた。
「大丈夫だよ。俺が絶対に守るから」
「でも...あんな刺客がまた来たら...」
「その時は...」
晴翔は言葉を選んだ。
「お姉ちゃんの力を使ってもいい」
「え?」
「命の危険がある時だけ。それ以外は普通に振る舞おう。でも、万が一の時は...自分を守るために力を使っていいんだ」
天音は困惑した表情で晴翔を見た。
「でも、叶絵さんは『自覚すればするほど危険』って...」
「だから、普段は使わないでいい。でも、命の危険があるなら、それは仕方ない」
晴翔は強く言った。
「お姉ちゃんに死なれるくらいなら、力を使ってほしい」
天音の目から涙がこぼれた。
「晴翔...」
「約束して。危ない時は、自分を守ると」
「...うん、約束する」
晴翔は安心したように微笑んだ。
「よし。それじゃあ、今日はもう寝よう。疲れたはずだから」
「うん...」
天音が立ち上がりかけたとき、ふと足を止めた。
「晴翔...本当にありがとう」
「なにが?」
「そばにいてくれて...守ってくれて...」
晴翔は頭をかいた。
「当たり前じゃん。お姉ちゃんは俺の大切な家族だから」
天音は優しく微笑んだ。その表情に、かすかな光が宿るように見えた。
「私も晴翔を守りたい...だから強くなる」
「無理しないでね」
「うん...おやすみ、晴翔」
「おやすみ」
天音が部屋に戻った後、晴翔は窓の外を見つめた。空には依然として虹色の
「神か...」
ため息と共に呟いた言葉が、静かな夜の中に溶けていった。