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第24話

登校途中、二人は静かに歩いていた。通りがかる人々が空を見上げ、スマホで写真を撮っている。虹色のもやは、もはや珍しい観光スポットのようになっていた。


「みんな、慣れてきてるみたいだね」


天音が空を見上げながら言った。


「そうだね。人間って順応性があるんだな」


「でも、これって私のせいなんだよね...」


「気にしないで。誰も困ってるわけじゃないし、むしろ綺麗だって言ってる人も多いよ」


天音は小さく微笑んだ。


「そっか...」


二人が校門に近づくと、見慣れた元気な声が聞こえてきた。


「おはよーっ!」


結城ゆうき美羽みうが駆け寄ってきた。


「天音先輩、朝霧くん、おはようございます!」


「おはよう、美羽ちゃん」


「よう」


美羽は二人の顔を交互に見た。


「なんか今日、二人とも雰囲気違いますね! 特に天音先輩、なんだか輝いてる!」


天音は少し驚いた表情になった。


「そ、そう?」


「うん! なんていうか...自信があるというか...」


美羽は言葉を探しながら続けた。


「あ! 恋でもしてるんですか?」


「え!? そ、そんなことないよ!」


天音が慌てて否定すると、美羽はくすくす笑った。


「冗談ですよ〜。でも本当に素敵ですね、今日の先輩」


三人で校門をくぐると、校庭で騒ぎが起きていた。


「どうしたんだろう?」


人だかりができている。中心には望月もちづきれんの姿があった。彼は何かを話しているようだ。


「あれ、望月くんじゃない」


美羽が首を傾げた。


「昨日、彼のおかげで助かったんだ」


晴翔が小声で天音に言った。蓮との会話は美羽には伏せておきたかった。


「行ってみよう」


三人が近づくと、蓮は話をやめ、晴翔たちの方を向いた。


「来たね、朝霧あさぎりたち」


蓮の声は柔らかいが、どこか不思議ふしぎ威厳いげんを感じさせた。周囲の生徒たちが好奇心に満ちた視線を投げかけてくる。


「おはよう、望月」


晴翔が声をかけると、蓮はふわりと微笑んだ。


「大丈夫だった? 昨日のこと」


「ああ...助かったよ。ありがとう」


「なに? 何があったの?」


美羽が不思議そうに尋ねる。


「ちょっとした些事さじさ」


蓮は軽く答え、天音に視線を移した。


「君こそ大丈夫? 朝霧あさぎり天音あまねさん」


天音は少し緊張した様子で頷いた。


「はい...ありがとうございます」


蓮は周囲をさっと見回し、小声で言った。


「放課後、話があるんだ。屋上で待ってるよ」


そして、彼は人混みの中に消えていった。残されたのは困惑する三人だ。


「あの...何があったんですか? 昨日」


美羽が真剣な表情で尋ねた。


「実は...」


晴翔は言葉につまった。全てを話すわけにはいかない。


「ちょっと不良に絡まれて、望月が助けてくれたんだ」


「え!? 大丈夫だったんですか? どうして言ってくれなかったんですか!?」


美羽の声が大きくなる。心配してくれるのはありがたいが、これ以上質問されるのは困る。


「大したことなかったから。それより、授業始まるよ」


晴翔は話題を変え、教室へと向かった。美羽は納得していない様子だったが、それ以上追求はしなかった。


「また後でね、お姉ちゃん」


天音に別れを告げ、晴翔は自分のクラスへと向かった。教室に入ると、鴻上こうがみ直人なおとが席で本を読んでいた。


「よう」


「ああ、朝霧」


直人は本から顔を上げ、眼鏡を上げた。


「昨日はすまなかった。急に話を切り上げて」


「いや...こっちこそ、隠し事をして悪かった」


直人はしばらく晴翔を観察し、静かに言った。


「朝霧...君は何か抱え込んでいるだろう。無理に話す必要はないが、手伝えることがあれば言ってくれ」


その申し出に、晴翔は心動かされた。


「...ありがとう」


教室の後ろのドアが開き、蓮が入ってきた。彼は晴翔と目を合わせ、かすかに頷いた。


チャイムが鳴り、授業が始まった。


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