午前の授業が終わり、昼休みになった。晴翔は姉のクラスへと向かった。教室のドアを開けると、天音が友人たちと楽しそうに会話している姿が見えた。
「お姉ちゃん」
天音が顔を上げる。
「あ、晴翔! どうしたの?」
「ちょっと一緒にお昼食べないか?」
天音は友人たちに一言断り、晴翔について廊下に出た。
「屋上に行こう」
二人は屋上へと向かった。幸い、今日は風が強かったせいか、屋上には他の生徒はいなかった。
「蓮のこと、どう思う?」
晴翔が尋ねた。天音は空を見上げながら考えた。
「不思議な人だね...でも、悪い人じゃないと思う」
「俺もそう思う。でも、どうして俺たちを助けてくれたんだろう」
「それは...放課後に聞けばいいんじゃない?」
天音はお弁当を広げた。いつも母が作ってくれるお弁当だ。
「食べよう。冷めちゃうよ」
二人は静かに食事を始めた。屋上からは虹色に輝く空と、下の校庭で遊ぶ生徒たちの姿が見える。
「なんだか...不思議な感じだね」
天音が呟いた。
「何が?」
「この状況。私が『神』で、空が変色して、刺客が現れて...まるで漫画みたいな展開」
晴翔は苦笑した。
「確かに。俺たち、朝霧兄妹の平凡な日常は何処へやら、だね」
「でも...」
天音は真剣な表情になった。
「この力で、何か役に立つことできないかな。世界のために」
「お姉ちゃん...」
晴翔は姉の成長を感じた。昨日まで怯えていた彼女が、今は力の使い方を考えている。
「焦らなくていいよ。まずは自分の身を守ることが大事だから」
「うん...分かってる」
二人が食事を終えると、屋上のドアが開く音がした。振り返ると、美羽が立っていた。
「ここにいたんですね! 探しちゃいました!」
「美羽ちゃん」
「一緒にお昼食べてもいいですか?」
美羽は自分のお弁当を手に持っていた。
「もう食べ終わっちゃったんだ...ごめんね」
「えー、残念...」
美羽が肩を落とす。
「でも、少しだけなら一緒にいれますよね?」
「もちろん」
三人は屋上の端に腰掛けた。校庭を見下ろす位置だ。
「ねえ...」
美羽が切り出した。
「最近、何か変なことばっかりですよね。空が変わるし、校庭に謎の円ができるし...」
天音と晴翔は緊張した。
「それで、私、ちょっと調べてみたんです」
「調べた?」
「はい。ネットで『空 虹色 現象』って検索したら、似たような事例が過去にもあったみたいなんです」
晴翔は息を飲んだ。直人も同じことを言っていた。
「それで?」
「50年前に北海道のどこかで同じような現象があって、その後...」
「大地震があった」
晴翔が言葉を続けた。美羽は驚いた顔で晴翔を見た。
「知ってたんですか?」
「ちょっと聞いたんだ」
「怖くないですか? もし同じことが起きたら...」
美羽の表情に不安が浮かんだ。天音も顔を曇らせる。
「大丈夫だよ」
晴翔は二人を安心させようとした。
「前回とは状況が違うはずだし、そもそも関連性があるかどうかも分からない」
「そうですけど...」
美羽はまだ不安そうだ。
「天音先輩、あの...昨日、先輩の周りが光ってるように見えたの、覚えてますか?」
天音は緊張した面持ちで頷いた。
「うん...」
「あれ、気のせいじゃなかったんです。今も、うっすらと...」
美羽は天音をじっと見つめた。
「先輩の周り、光の粒子みたいなものが舞ってるんです」
晴翔と天音は顔を見合わせた。やはり美羽にも見えるようになっている。
「あの...それって...」
天音が言葉につまる。
「先輩、何か特別な人なんですか?」
あまりにも率直な質問に、二人は言葉を失った。美羽は続けた。
「私、オカルトとか超能力とか好きなんです。だから...もしかして...」
その時、救いの鐘のようにチャイムが鳴った。昼休み終了の合図だ。
「あ、もう授業だ。また後で話そう」
晴翔は立ち上がり、美羽の質問を避けた。
「あ、はい...また後で」
美羽は少し不満そうだったが、それ以上は追求しなかった。
三人は教室へと向かった。