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第25話

午前の授業が終わり、昼休みになった。晴翔は姉のクラスへと向かった。教室のドアを開けると、天音が友人たちと楽しそうに会話している姿が見えた。


「お姉ちゃん」


天音が顔を上げる。


「あ、晴翔! どうしたの?」


「ちょっと一緒にお昼食べないか?」


天音は友人たちに一言断り、晴翔について廊下に出た。


「屋上に行こう」


二人は屋上へと向かった。幸い、今日は風が強かったせいか、屋上には他の生徒はいなかった。


「蓮のこと、どう思う?」


晴翔が尋ねた。天音は空を見上げながら考えた。


「不思議な人だね...でも、悪い人じゃないと思う」


「俺もそう思う。でも、どうして俺たちを助けてくれたんだろう」


「それは...放課後に聞けばいいんじゃない?」


天音はお弁当を広げた。いつも母が作ってくれるお弁当だ。


「食べよう。冷めちゃうよ」


二人は静かに食事を始めた。屋上からは虹色に輝く空と、下の校庭で遊ぶ生徒たちの姿が見える。


「なんだか...不思議な感じだね」


天音が呟いた。


「何が?」


「この状況。私が『神』で、空が変色して、刺客が現れて...まるで漫画みたいな展開」


晴翔は苦笑した。


「確かに。俺たち、朝霧兄妹の平凡な日常は何処へやら、だね」


「でも...」


天音は真剣な表情になった。


「この力で、何か役に立つことできないかな。世界のために」


「お姉ちゃん...」


晴翔は姉の成長を感じた。昨日まで怯えていた彼女が、今は力の使い方を考えている。


「焦らなくていいよ。まずは自分の身を守ることが大事だから」


「うん...分かってる」


二人が食事を終えると、屋上のドアが開く音がした。振り返ると、美羽が立っていた。


「ここにいたんですね! 探しちゃいました!」


「美羽ちゃん」


「一緒にお昼食べてもいいですか?」


美羽は自分のお弁当を手に持っていた。


「もう食べ終わっちゃったんだ...ごめんね」


「えー、残念...」


美羽が肩を落とす。


「でも、少しだけなら一緒にいれますよね?」


「もちろん」


三人は屋上の端に腰掛けた。校庭を見下ろす位置だ。


「ねえ...」


美羽が切り出した。


「最近、何か変なことばっかりですよね。空が変わるし、校庭に謎の円ができるし...」


天音と晴翔は緊張した。


「それで、私、ちょっと調べてみたんです」


「調べた?」


「はい。ネットで『空 虹色 現象』って検索したら、似たような事例が過去にもあったみたいなんです」


晴翔は息を飲んだ。直人も同じことを言っていた。


「それで?」


「50年前に北海道のどこかで同じような現象があって、その後...」


「大地震があった」


晴翔が言葉を続けた。美羽は驚いた顔で晴翔を見た。


「知ってたんですか?」


「ちょっと聞いたんだ」


「怖くないですか? もし同じことが起きたら...」


美羽の表情に不安が浮かんだ。天音も顔を曇らせる。


「大丈夫だよ」


晴翔は二人を安心させようとした。


「前回とは状況が違うはずだし、そもそも関連性があるかどうかも分からない」


「そうですけど...」


美羽はまだ不安そうだ。


「天音先輩、あの...昨日、先輩の周りが光ってるように見えたの、覚えてますか?」


天音は緊張した面持ちで頷いた。


「うん...」


「あれ、気のせいじゃなかったんです。今も、うっすらと...」


美羽は天音をじっと見つめた。


「先輩の周り、光の粒子みたいなものが舞ってるんです」


晴翔と天音は顔を見合わせた。やはり美羽にも見えるようになっている。


「あの...それって...」


天音が言葉につまる。


「先輩、何か特別な人なんですか?」


あまりにも率直な質問に、二人は言葉を失った。美羽は続けた。


「私、オカルトとか超能力とか好きなんです。だから...もしかして...」


その時、救いの鐘のようにチャイムが鳴った。昼休み終了の合図だ。


「あ、もう授業だ。また後で話そう」


晴翔は立ち上がり、美羽の質問を避けた。


「あ、はい...また後で」


美羽は少し不満そうだったが、それ以上は追求しなかった。


三人は教室へと向かった。


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