目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第26話

放課後、晴翔と天音は約束通り屋上へと向かった。蓮はすでにそこで待っていた。銀色の髪が夕日に照らされて輝いている。


「来たね」


蓮は二人に向き直った。


「話があるって言ってたけど...」


晴翔が切り出すと、蓮はゆっくりと頷いた。


「まず、自己紹介からだね」


蓮は深呼吸し、静かに言った。


「僕は望月もちづきれん。『予知者』の末裔だよ」


「予知者...?」


「そう。未来を見る能力を持つ家系の者だね」


晴翔は驚いた。昨日の超能力のような力は、そういうことだったのか。


「それで、僕が朝霧天音さんのことを知っていたのは、彼女が『神』になると予知していたから」


天音が息を飲んだ。


「いつから...知ってたの?」


「半年前。君が神に選ばれる夢を見たんだ」


蓮は空を見上げた。


「最初は信じられなかった。だけど、徐々に君の周りに『光』が見え始めて...そして三日前、空が変わった」


「あの...私のせいで、こんなことになって...ごめんなさい」


天音が謝ると、蓮は首を横に振った。


「謝ることじゃない。これは『天秤』による選定だ。君に責任はない」


「天秤...?」


晴翔が食いついた。夢で聞いた言葉だ。


「世界の均衡を保つ力。時々、新たな『神』を選ぶんだ」


「なぜ、姉が選ばれたんだ?」


蓮は天音をじっと見た。


「純粋な愛情と無欲...それが選定基準だと伝えられている」


叶絵と同じことを言う。これは事実なのだろう。


「で、俺たちに何の用だ?」


晴翔は率直に尋ねた。蓮は少し微笑んだ。


「協力したいんだ。君たちを守るために」


「なぜ?」


「理由は二つ。一つは予知者としての使命。もう一つは...」


蓮は少し言葉を選ぶように間を置いた。


「僕も、特殊な力を持つ者として、同じような立場にある人を助けたいからだよ」


蓮の言葉には誠実さが感じられた。


「昨日の男...ジンって言うんだっけ? 彼のような刺客はまだ来る。一人より二人、二人より三人の方が守りは固い」


晴翔は考えた。確かに味方は多い方がいい。でも、全てを信用していいのか。


「信じていいのか分からないよ」


正直に言うと、蓮は優しく微笑んだ。


「当然さ。でも、もし信用できないと思ったら、いつでも距離を置いていい。それだけは約束する」


晴翔は天音を見た。姉は少し考え、頷いた。


「私は...蓮くんを信じたいと思います」


「お姉ちゃん...」


「だって、昨日、晴翔を助けてくれたでしょ? それに...」


天音は蓮を見た。


「何だか...信じられる気がするの」


蓮は安堵したように笑った。


「ありがとう」


晴翔もしぶしぶ頷いた。


「分かった。とりあえず話を聞こう」


蓮は真剣な表情になった。


「実は、もう一人の刺客が来ている」


「え?」


「ジンとは別の人物だ。名前はアルバあるば。神狩り組織の中でも、気まぐれな危険人物として知られている」


「どうして知ってるんだ?」


「予知だよ。それに...僕も少し調べているんだ、神狩り組織のことを」


蓮は声を落とした。


「彼は明日、君たちに接触するだろう」


「明日...」


「うん。だから、警戒していて。でも、ジンとは違って、いきなり襲ってくることはない...はずだ」


「はず?」


「彼は気まぐれだから、確実なことは言えない。でも、基本的に興味で動く人物らしい」


晴翔はポケットの抑制装置を握りしめた。


「何か対策は?」


「まずは普通に振る舞うこと。刺激しないように。それから...」


蓮はポケットから小さな布袋を取り出した。


「これを持っていて」


「これは?」


「僕の家に伝わる護符ごふ。神狩りの感知能力を鈍らせる効果がある」


晴翔は半信半疑で受け取った。小さな布袋の中には、独特の香りがする何かが入っている。


「本当に効くの?」


「完全ではないけど、少しは助けになるはず」


蓮は天音にも一つ渡した。


「常に持ち歩いて。特に学校では」


「ありがとう...」


天音は感謝の意を込めて頭を下げた。


「それから...力の使い方、少しだけ教えてもいいかな」


「え?」


天音が驚いた顔をする。


「僕は神ではないから、完全には分からないけど...似たような能力者を見てきたから、基本的なことなら」


「でも、『自覚すればするほど危険』って言われたんだけど...」


蓮は首を傾げた。


「それは半分は正しいけど、半分は違う。力を恐れ、抑え込むことも危険なんだ。暴走の原因になる」


晴翔は叶絵の言葉を思い出した。彼女は天音に「普通」であることを勧めていた。しかし、蓮の言うことも理にかなっている。


「どうすればいいんだ?」


「バランスさ。力を完全に無視するのではなく、少しずつ理解し、コントロールできるようになること」


蓮は天音に向き直った。


「試しに、小さな実験をしてみない?」


「実験...?」


「うん。例えば...」


蓮は地面に落ちていた小さな石を拾った。


「この石を、意識して浮かせてみて」


天音は不安そうに晴翔を見た。晴翔は少し考え、頷いた。


「大丈夫だよ。ここには俺たちしかいないし」


天音は深呼吸し、石に手を伸ばした。


「どうすればいいの...?」


「まず、リラックスして。それから、石が浮くイメージを持って」


天音は目を閉じ、集中した。しばらくすると、石がわずかに揺れ始めた。


「そう、その調子」


石はゆっくりと宙に浮かび始めた。最初は数センチ、やがて10センチほどの高さまで上がった。


「すごい...」


晴翔も驚きの声を上げた。天音の目は開いており、彼女は自分の力を目の当たりにしていた。


「次は、石を回転させてみて」


「え、どうやって...?」


「イメージするんだ。石が回るところを」


天音が集中すると、石はゆっくりと回り始めた。


「できた...!」


天音の顔に喜びの表情が浮かんだ。しかし次の瞬間、石が急に高く舞い上がり、勢いよく地面に落ちた。


「あっ...」


「大丈夫、最初はコントロールが難しいものさ」


蓮は優しく言った。


「少しずつ練習していけばいい。大事なのは、力を恐れないこと」


天音は落ちた石を見つめた。


「不思議...ちゃんとイメージすれば動くんだね」


「神の力は『思考による現実操作』だからね。考えたことが現実になる」


「でも、危険じゃない? もし間違ったことを考えたら...」


蓮は静かに頷いた。


「だからこそ、コントロールが大切なんだ。無意識の思考に支配されないように」


話し合いが続くなか、空が少し暗くなり始めた。日が傾いている。


「そろそろ帰ろうか」


晴翔が提案した。


「うん。それじゃあ、明日...そのアルバって人に気をつけよう」


蓮は二人に向かって最後にアドバイスした。


「普段通りに過ごして。でも警戒は怠らないで。それから...」


彼は天音に向かって言った。


「少しだけでいいから、毎日力の練習をしてみて。小さな物を動かすとか、簡単なことから」


「分かった...やってみる」


「僕たち、連絡先交換しておかない?」


蓮の提案に、三人はLINEの交換をした。


「何かあったらすぐ連絡して」


「ありがとう、蓮くん」


三人は屋上を後にした。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?