下校時、晴翔と天音は静かに帰路についた。夕陽が虹色の空を赤く染め、幻想的な風景を作り出している。
「蓮くん、不思議な人だね」
天音が空を見上げながら言った。
「そうだな。予知能力を持ってるなんて...現実離れしてる」
「でも、この状況だと、そんなことも信じられちゃうよね」
天音は自分の手のひらを見つめた。
「私、練習してみようと思う。この力のこと」
「本当に? でも叶絵は...」
「うん、分かってる。でも、蓮くんの言うことも理にかなってる気がするの。力を恐れるだけじゃなくて、コントロールできるようになりたい」
晴翔は少し心配だったが、姉の決意を尊重することにした。
「分かった。でも無理はしないで。それに...」
晴翔はポケットから叶絵の装置を取り出した。
「何か異変があったら、すぐこれを使うからね」
「うん...」
二人が住宅街に差し掛かったとき、突然、前方から奇妙な雰囲気を持つ男が現れた。
「!」
晴翔は咄嗟に天音の前に立ちはだかった。
男は20代前半くらいだろうか。金髪で、軽装な服装。一見すると外国人観光客のようにも見える。しかし、その目は鋭く、二人を見据えていた。
「やぁ、こんにちは」
軽快な声で男が挨拶した。どこか余裕のある態度だ。
「君たちが噂の
晴翔は緊張した。この男が蓮の言っていたアルバなのか。
「誰だ、君は」
晴翔は平静を装いながら問いかけた。
「あ、失礼。自己紹介が遅れたね」
男は軽くお辞儀をした。
「僕の名前は
やはりアルバだ。蓮の予知は当たっていた。
「何の用だ?」
「そんな
アルバは笑顔で言ったが、その目は笑っていなかった。
「特に君、
天音は晴翔の背中に隠れるように立っていた。
「どうして私のこと...」
「知ってるかって? 僕らの仕事だからね」
アルバは少し近づいてきた。晴翔は警戒を強める。
「安心して。今日は手出しするつもりはないよ。ただ、どんな子が『神』に選ばれたのか見に来ただけさ」
「信用できるわけないだろ」
晴翔の声は冷たかった。
「まあ、そりゃそうだね。昨日は仲間が失礼したみたいだし」
「ジンのことか」
「ああ、彼のこと知ってるんだ。そう、あいつは少し短気でね。組織の命令を機械的に守るタイプなんだ」
アルバは肩をすくめた。
「僕は違うよ。もっと...柔軟思考派というか」
「何が言いたい?」
「言いたいのは...」
アルバはにっこりと笑った。
「君たちに興味があるってこと。特に天音ちゃんの力にね」
「ちゃん付けで呼ばないでください」
天音が勇気を出して言った。
「あはは、ごめんごめん。失礼だったね」
アルバは手を振った。
「それにしても、本当に純粋な心を持った子が選ばれたんだね。その力、どれくらいコントロールできるの?」
「それは...」
「教える必要はないよ、お姉ちゃん」
晴翔が遮った。
「そうだね、無理に答えなくていいよ。でも...」
アルバは指を天に向けた。
「あの空、君の作品だよね? 綺麗だよ。芸術的だ」
「それは...」
天音は言葉につまった。アルバは微笑んだ。
「否定しなくていいよ。僕は批判してるわけじゃない。むしろ、感心してるんだ」
彼は二人をじっと見つめた。
「君たちのような純粋な子たちが、この大きな力を手に入れるなんて...面白い展開だね」
「展開って...これは私たちの人生だよ」
晴翔は怒りを抑えながら言った。
「そうだね、ごめん。でも、君たちがこれからどう進むのか、本当に興味深いんだ」
アルバは少し後ずさり、両手を広げた。
「じゃあ、今日はこの辺で。また会おう、朝霧兄妹」
そう言うと、アルバは軽快な足取りで去っていった。
二人はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
「あれが...アルバ」
天音が小さく呟いた。
「うん...蓮の言ってた通りだ」
「怖かった...でも、ジンとは違って攻撃してこなかったね」
「うん。でも油断はできない。あいつの『興味』ってのが厄介そうだ」
晴翔はポケットの装置と護符を確認した。蓮の護符のおかげで、アルバに能力のことをあまり感知されなかったのかもしれない。
「家に帰ろう」
二人は急いで残りの道のりを歩いた。