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第27話

下校時、晴翔と天音は静かに帰路についた。夕陽が虹色の空を赤く染め、幻想的な風景を作り出している。


「蓮くん、不思議な人だね」


天音が空を見上げながら言った。


「そうだな。予知能力を持ってるなんて...現実離れしてる」


「でも、この状況だと、そんなことも信じられちゃうよね」


天音は自分の手のひらを見つめた。


「私、練習してみようと思う。この力のこと」


「本当に? でも叶絵は...」


「うん、分かってる。でも、蓮くんの言うことも理にかなってる気がするの。力を恐れるだけじゃなくて、コントロールできるようになりたい」


晴翔は少し心配だったが、姉の決意を尊重することにした。


「分かった。でも無理はしないで。それに...」


晴翔はポケットから叶絵の装置を取り出した。


「何か異変があったら、すぐこれを使うからね」


「うん...」


二人が住宅街に差し掛かったとき、突然、前方から奇妙な雰囲気を持つ男が現れた。


「!」


晴翔は咄嗟に天音の前に立ちはだかった。


男は20代前半くらいだろうか。金髪で、軽装な服装。一見すると外国人観光客のようにも見える。しかし、その目は鋭く、二人を見据えていた。


「やぁ、こんにちは」


軽快な声で男が挨拶した。どこか余裕のある態度だ。


「君たちが噂の朝霧あさぎり兄妹かな?」


晴翔は緊張した。この男が蓮の言っていたアルバなのか。


「誰だ、君は」


晴翔は平静を装いながら問いかけた。


「あ、失礼。自己紹介が遅れたね」


男は軽くお辞儀をした。


「僕の名前はアルバあるば。君たちのファンさ」


やはりアルバだ。蓮の予知は当たっていた。


「何の用だ?」


「そんな警戒けいかいしなくていいよ。今日は挨拶に来ただけさ」


アルバは笑顔で言ったが、その目は笑っていなかった。


「特に君、朝霧あさぎり天音あまねさん。新しい『神』に会えて光栄だよ」


天音は晴翔の背中に隠れるように立っていた。


「どうして私のこと...」


「知ってるかって? 僕らの仕事だからね」


アルバは少し近づいてきた。晴翔は警戒を強める。


「安心して。今日は手出しするつもりはないよ。ただ、どんな子が『神』に選ばれたのか見に来ただけさ」


「信用できるわけないだろ」


晴翔の声は冷たかった。


「まあ、そりゃそうだね。昨日は仲間が失礼したみたいだし」


「ジンのことか」


「ああ、彼のこと知ってるんだ。そう、あいつは少し短気でね。組織の命令を機械的に守るタイプなんだ」


アルバは肩をすくめた。


「僕は違うよ。もっと...柔軟思考派というか」


「何が言いたい?」


「言いたいのは...」


アルバはにっこりと笑った。


「君たちに興味があるってこと。特に天音ちゃんの力にね」


「ちゃん付けで呼ばないでください」


天音が勇気を出して言った。


「あはは、ごめんごめん。失礼だったね」


アルバは手を振った。


「それにしても、本当に純粋な心を持った子が選ばれたんだね。その力、どれくらいコントロールできるの?」


「それは...」


「教える必要はないよ、お姉ちゃん」


晴翔が遮った。


「そうだね、無理に答えなくていいよ。でも...」


アルバは指を天に向けた。


「あの空、君の作品だよね? 綺麗だよ。芸術的だ」


「それは...」


天音は言葉につまった。アルバは微笑んだ。


「否定しなくていいよ。僕は批判してるわけじゃない。むしろ、感心してるんだ」


彼は二人をじっと見つめた。


「君たちのような純粋な子たちが、この大きな力を手に入れるなんて...面白い展開だね」


「展開って...これは私たちの人生だよ」


晴翔は怒りを抑えながら言った。


「そうだね、ごめん。でも、君たちがこれからどう進むのか、本当に興味深いんだ」


アルバは少し後ずさり、両手を広げた。


「じゃあ、今日はこの辺で。また会おう、朝霧兄妹」


そう言うと、アルバは軽快な足取りで去っていった。


二人はしばらく呆然と立ち尽くしていた。


「あれが...アルバ」


天音が小さく呟いた。


「うん...蓮の言ってた通りだ」


「怖かった...でも、ジンとは違って攻撃してこなかったね」


「うん。でも油断はできない。あいつの『興味』ってのが厄介そうだ」


晴翔はポケットの装置と護符を確認した。蓮の護符のおかげで、アルバに能力のことをあまり感知されなかったのかもしれない。


「家に帰ろう」


二人は急いで残りの道のりを歩いた。


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