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第28話

家に着くと、珍しく両親が揃って帰宅していた。


「ただいま」


「おかえり、晴翔、天音」


朝霧あさぎり純子じゅんこが台所から顔を出した。温かい夕食の匂いがする。


「今日は珍しいね、母さん早いの」


「ええ、今日は特別にね。あの空の影響で早めに帰ってくるよう言われたの」


純子は窓の外の虹色の空を見た。


「不思議よね、この現象。気象庁も原因不明って言ってるそうだけど」


晴翔と天音は顔を見合わせた。両親には何も話していない。


「あ、お父さんは?」


「リビングでテレビ見てるわよ」


リビングに行くと、朝霧あさぎり誠司せいじがソファでくつろいでいた。


「おお、晴翔、天音。おかえり」


「ただいま、お父さん」


誠司はニュースを見ていた。画面では妙典みょうでん上空の虹色のもやについて報道している。


『...気象庁は引き続き原因を調査中ですが、健康への影響はないと発表しています。また、この現象は妙典みょうでん周辺の限られた地域でのみ観測されており...』


晴翔は緊張した。限定的な現象だということは、ますます天音との関連が疑われる。


「不思議だな、この現象」


誠司は空を見上げた。


「でも、きれいじゃないか。神秘的で」


「そうだね...」


晴翔は曖昧に答えた。


「お前たち、最近変わったことはないか?」


突然の質問に、晴翔は驚いた。


「へ? 何が?」


「いや、なんとなくだが...特に天音、何か雰囲気が違うような気がするんだ」


天音は焦った様子で答えた。


「そ、そんなことないよ、お父さん。いつも通りだよ」


誠司はしばらく天音を見つめ、やがて笑った。


「そうか。父親の勘違いかな」


晴翔は冷や汗をかいた。父は鋭い。何か感じ取っているのかもしれない。


「晴翔、天音、ご飯できたわよ〜」


純子の声が台所から聞こえた。


「行こう」


四人家族での夕食。久しぶりのことだった。普通の家族の、普通の時間。しかし、晴翔と天音の心は複雑だった。この日常が、いつまで続くのだろうか。


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