昼食後、蓮は一人で屋上に残った。他の三人は既に教室に戻っている。
彼は手のひらを空に向かって広げた。すると、指先から淡い光が漏れ出した。
「やはり...強まっている」
蓮はつぶやいた。天音の力が日に日に増していることを感じ取れる。それは素晴らしいことでもあり、危険なことでもある。
「このままじゃ...」
彼の思考は、背後から聞こえた声で中断された。
「何してるの?」
振り返ると、美羽が立っていた。彼女はドアの陰から出てきたところだ。
「美羽...」
「手、光ってたよね?」
蓮は一瞬動揺したが、すぐに平静を取り戻した。
「見えたの?」
「うん。天音先輩の周りの光と同じ...」
美羽は蓮に近づいた。彼女の目は好奇心で輝いている。
「教えて。あの光、何なの? 天音先輩と望月くんと...これ全部繋がってるよね?」
蓮はため息をついた。
「鋭いね、君は」
「だって! 最近おかしいもん。空が変色して、天音先輩が光り始めて、朝霧くんがソワソワして...」
美羽の勢いに、蓮は少し押され気味だ。
「それに、」
美羽は真剣な表情になった。
「前に朝霧くんと天音先輩が不良に絡まれたって言ってたけど、本当は違うでしょ?」
「...」
「私、友達だよ? 心配してるの」
蓮は少し考え込んだ後、空を見上げた。
「美羽...君は天音先輩や晴翔くんのことが好きなんだね」
「え?」
唐突な言葉に、美羽は少し戸惑った。
「もちろん好きだよ。友達だもん」
「そう...」
蓮は優しく微笑んだ。
「じゃあ、少しだけ話そうか。でも、全ては言えないよ。それは彼らが決めることだから」
美羽は頷いた。
「分かった。でも、危険なことなら教えて。協力したいから」
蓮は静かに説明を始めた。
「天音先輩には...特別な力があるんだ。それが、君が見ている光」
「特別な力...超能力みたいな?」
「そうとも言えるかな。でも、まだ彼女自身もよく分かっていない」
「朝霧くんも知ってるの?」
「うん。彼は天音先輩を守ろうとしている」
美羽はしばらく考え込んだ。
「あの時の不良って...」
「本当は別の何かだったんだ。詳しくは言えないけど」
「危険なの?」
蓮は真剣な表情になった。
「うん。だから僕たちは天音先輩を守っている」
「私も手伝う!」
美羽は迷わず言った。
「私も天音先輩のこと、大事だから!」
蓮は少し驚いたように美羽を見つめ、やがて微笑んだ。
「ありがとう。でも、まずは彼らの了解が必要だよ」
「分かった。言わない方がいいなら、黙ってるね。でも...」
美羽は決意を込めた表情で言った。
「もし何かあったら、絶対に助ける!」
蓮はその強い意志に感心したような表情を浮かべた。
「美羽...君は素直だね」
「え?」
「心がまっすぐで...素晴らしいよ」
美羽は少し照れたように頬を赤くした。
「そ、そんなことないよ...」
「いや、本当だよ」
蓮は真剣な表情で言った。
「だからこそ、君の力も必要になるかもしれない」
「私の力?」
「うん。純粋な心は、時に最強の武器になる」
美羽には蓮の言葉の深い意味は分からなかったが、なぜか心が温かくなるのを感じた。
「分かった! 任せて!」
二人は微笑み合い、教室へと戻る準備をした。美羽の中に、新たな決意が芽生えていた。