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第35話

一方、2年3組の教室では、天音が窓際で物思いにふけっていた。彼女の机の上には、小さなノートが開かれている。そこには彼女の夢の記録が書かれていた。


(昨日の夢...また空を飛んだ...)


彼女は自分の能力について考え始めていた。恐怖は少しずつ薄れ、代わりに好奇心と責任感が芽生えてきている。


「天音」


呼びかけられて顔を上げると、同じクラスの千早ちはや理子りこが立っていた。真面目な顔立ちの女子だ。


「あ、理子ちゃん」


「授業始まるよ」


「うん、ありがとう」


理子は天音のノートに目をやった。


「何を書いてるの?」


「え?」


天音は慌ててノートを閉じた。


「ちょっと...日記みたいなもの」


「そう...」


理子は少し不満そうな表情を浮かべた。


「最近、朝霧くんとよく一緒にいるわね」


「え? ああ、うん...」


「弟さんだっけ?」


「そうだよ。晴翔は私の弟」


理子は何か言いたげな表情をしていたが、言葉を飲み込んだ。


「そう。気にしないで」


そう言って、理子は自分の席に戻った。天音は少し首を傾げた。


(理子ちゃん、何だったんだろう...)


教室の後ろのドアが開き、担任の先生が入ってきた。授業が始まる。


天音はそっとノートをしまい、教科書を開いた。しかし、彼女の心の中は別のことで一杯だった。


(この力...どうすれば上手く付き合っていけるんだろう...)


空を見上げると、虹色のもやが美しく広がっていた。自分が作り出した現象だと思うと、不思議な感覚だ。


(私の思いが、世界を変えているなんて...)


そんなことを考えているうちに、彼女の周りの空気が微かに揺らめいた。机の上の鉛筆が、ほんの少しだけ浮き上がる。


「!」


天音は慌てて鉛筆を押さえた。幸い、誰も気づいていないようだ。


(危なかった...集中しないと)


彼女は深呼吸して、授業に意識を戻そうとした。でも、その顔には小さな笑みが浮かんでいた。


(少しずつ、コントロールできるようになってきたかも)


教室の窓から差し込む光が、天音の姿を優しく包み込んでいた。まるで、彼女の新たな一歩を祝福するかのように。


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