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第36話

放課後、晴翔は直人と教室で話していた。


「朝霧、最近元気ないな」


直人が眼鏡を上げながら言った。


「そうかな」


「ああ。何か悩みでもあるのか?」


晴翔は少し考え、どこまで話すべきか迷った。


「まあ...ちょっとね」


「姉さんのことか?」


鋭い指摘に、晴翔は驚いた。


「どうしてそう思うんだ?」


「観察してればわかる」


直人は静かに続けた。


「あの空の異変が始まってから、君と姉さんの様子がおかしい。それに...」


彼は声を落とした。


「姉さんの周りに、奇妙な光が見えることがある」


「!」


晴翔は言葉を失った。直人にも見えるのか。


「俺だけじゃない。他にも気づいている者がいる。みんな口には出さないが」


「そうか...」


晴翔はため息をついた。もはや隠し切れなくなってきている。


「直人...もし俺が、本当のことを話せないとしたら?」


「無理強いはしない」


直人は冷静に答えた。


「ただ、何か手伝えることがあれば言ってくれ。僕は...友達だから」


最後の言葉は、少し照れくさそうに言った。普段クールな直人らしくない。


「ありがとう」


晴翔は心から感謝を込めて言った。


「必要な時は、必ず頼るよ」


直人は満足したように頷いた。


「それでいい」


そのとき、教室のドアが開き、天音が顔を覗かせた。


「晴翔、帰る?」


「ああ、今行く」


晴翔は立ち上がり、直人に手を振った。


「また明日」


「ああ、気をつけて」


教室を出ると、天音が廊下で待っていた。


「美羽ちゃんと蓮くんは?」


「もう先に帰ったよ。美羽ちゃん、部活があるって」


「そっか」


二人は並んで歩き始めた。学校が終わった安堵感と、これからの不安が入り混じる複雑な気持ちだ。


「晴翔...」


天音が静かに言った。


「今日、美羽ちゃんが私のこと、いろいろ気にしてくれてる気がする」


「ああ、気づいてた?」


「うん。彼女、私の周りの光が見えてるみたい」


晴翔は頷いた。


「そうみたいだ。蓮も言ってたけど、美羽は特別な感覚を持ってるのかもしれない」


「そうかも...」


天音は少し考え込んだ。


「彼女には、いずれ話した方がいいかな」


「うーん...」


晴翔も悩ましい表情をした。


「正直、分からない。でも、美羽は信頼できる子だとは思う」


「うん...」


二人が校門を出ると、突然声がかかった。


「やぁ、朝霧兄妹!」


振り返ると、アルバあるばが立っていた。軽装で、相変わらず気さくな笑顔を浮かべている。しかし、その目は鋭く二人を見据えていた。


「っ!」


晴翔は反射的に天音の前に立った。


「また君か...」


「そんな冷たくしないでよ。ただの挨拶さ」


アルバは軽く手を振った。


「それに今日は...ちょっとした提案があってね」


「提案?」


晴翔は警戒を緩めない。


「そう。天音さんの力のこと、もっと知りたくない?」


天音は晴翔の背中に隠れながらも、少し顔を出した。


「私の...力?」


「ああ。君はまだ自分の可能性に気づいていない。もっと素晴らしいことができるんだよ」


アルバは空を指さした。


「あの空だって、君の力のほんの一部。もっと凄いことができるはずさ」


「凄いこと...?」


「天音、聞くな!」


晴翔が遮った。


「こいつの言うことは信用できない」


「そんな言い方ないだろ〜」


アルバは肩をすくめた。


「僕は純粋に興味があるだけさ。この子の力が、どこまで成長するのか」


「それで? 何が望みだ?」


晴翔の声は冷たかった。


「望みか...そうだな」


アルバはふと真面目な表情になった。


「例えば、明日の放課後、河川敷で会わないか? 力の使い方、教えてあげられるかもしれない」


「断る」


即答する晴翔。しかし、天音は少し迷っている様子だ。


「本当に...教えてくれるの?」


「天音!」


「だって...この力のこと、もっと知りたいもん」


アルバは笑顔を広げた。


「そうそう! 知りたいと思うのは自然なことさ。それに...」


彼は声を落とした。


「君の弟さんを守りたいなら、力を理解する必要があるよ」


その言葉に、天音の顔色が変わった。


「晴翔を...守る?」


「ああ。この先、もっと危険な連中が来るからね。ジンのような奴らが」


晴翔は拳を握りしめた。


「脅すのか?」


「いや、事実を伝えてるだけさ」


アルバは肩をすくめた。


「明日、河川敷の橋の下。来るなら来て、来ないなら来なくていい。強制じゃないよ」


そう言うと、彼は手を振って去っていった。


晴翔と天音は、しばらくその場に立ち尽くしていた。


「晴翔...」


「行くつもりなの?」


「わからない...でも、」


天音は晴翔の目をまっすぐ見つめた。


「もし本当に、晴翔を守るための力が得られるなら...」


晴翔はため息をついた。


「お姉ちゃんが決めることだけど...俺は反対だよ。アイツは信用できない」


「うん...分かってる」


二人は黙って歩き始めた。夕暮れの空は相変わらず虹色に輝いている。美しいけれど、どこか不穏な雰囲気を漂わせていた。


その日の夕方、彼らそれぞれの心には、新たな決意と迷いが生まれていた。


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