目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第41話

昼休み、屋上には五人が集まっていた。晴翔、天音、美羽、直人、そして蓮。誰も昼食を取る気分ではないようだ。


「で、説明してくれるのか?」


直人が切り出した。彼の冷静な声には、少し苛立ちが混じっている。


「朝霧、姉さん、そして望月。君たち、何か知ってるだろう?」


三人は顔を見合わせた。天音が小さく頷き、晴翔はため息をついた。


「話してもいいと思う」


蓮が静かに言った。


「彼らは信頼できる友人だ。特に美羽は...既に気づいている」


「え?」


美羽は驚いた様子で蓮を見た。


「何に気づいてるって?」


「天音先輩の周りの光...見えるでしょ?」


美羽は大きく頷いた。


「うん! だから何なのか知りたいって...」


直人も興味深そうに天音を見つめた。


「私も...時々見える。何か特別な現象だと思っていた」


晴翔は決心したように言った。


「じゃあ、話すよ。でも、誰にも言わないって約束して」


美羽と直人は真剣な表情で頷いた。


「約束する」


「絶対に秘密にする」


天音は深呼吸して、ゆっくりと話し始めた。


「私...最近、変な力が目覚めたの」


彼女は手のひらを広げた。すると、指先から淡い光が漏れ出し、小さな光の球が形成された。


「わぁ...」


美羽は驚きの声を上げた。直人も眼鏡の奥の目を見開いている。


「これは...科学的に説明できない現象だ」


「うん...」


天音は続けた。


「思ったことが...現実になるの。夢で見たものが、実際に起きたり...」


「あの空の色も...校庭の模様も...?」


美羽が尋ねると、天音は小さく頷いた。


「たぶん...私のせい」


「それで、『神』と呼ばれてるんだ」


蓮が補足した。


「神?」


直人が疑わしそうに尋ねた。


「ええ。天音先輩は『神』に選ばれたんです」


蓮は静かに説明を続けた。


「世界には『天秤』と呼ばれる法則があり、時々新たな神を選ぶ。天音先輩は、その選ばれし者」


美羽は圧倒されたように口を開けた。


「まるで漫画みたい...でも、すごい! 天音先輩、神様なんだね!」


「いや、そんな...」


天音は照れたように首を振った。


「ただの普通の女子高生だよ。たまたま変な力が目覚めただけで...」


直人は腕を組み、冷静に分析するように言った。


「これが事実なら...あの空の異変や校庭の模様も説明がつく」


「そうなんだ」


晴翔が頷いた。


「実は他にも色々あって...お姉ちゃんを狙う連中がいるんだ」


「狙う?」


美羽は驚いた表情になった。


「どういうこと? 誰が?」


「『神狩り』と呼ばれる組織だ」


蓮が説明した。


「新たな神を排除しようとする者たち。それに、『旧神』と呼ばれる存在も...」


「ちょっと待って」


直人が手を上げた。


「話が急に飛躍している。証拠はあるのか?」


「これじゃ足りない?」


天音は再び光の球を大きくした。それは彼女の意志に従って動き、まるで生き物のように屋上を舞った。


「確かに超常現象だが...」


「先日、刺客に襲われたんだ」


晴翔が真剣な表情で言った。


「ジンという男。それから昨日はアルバという男が接触してきた」


「え...」


美羽は心配そうな表情になった。


「危ないじゃない! 警察は?」


「警察に言っても信じてもらえないよ」


蓮が苦笑した。


「超能力と神の話だからね」


直人は眉をひそめた。


「では、どうするつもりだ?」


「...アルバが、力の使い方を教えてあげると言ってきた」


天音が小さな声で言った。


「今日の放課後、河川敷で会おうって」


「罠だろう」


晴翔が即答した。


「そう思う」


蓮も同意見だ。


「でも、何か知れるかもしれない。この力のこと...」


天音の言葉に、美羽が勢いよく立ち上がった。


「行くの? 危ないよ!」


「でも...」


「私も行く! 天音先輩を一人にしない!」


美羽の突然の宣言に、みんなが驚いた表情を浮かべた。


「美羽...」


「私も行くよ」


直人がクールに言った。


「こんな非科学的な話、確かめたい」


「おいおい...」


晴翔は頭を抱えた。


「お前らまで巻き込むわけにはいかないよ」


「もう巻き込まれてるよ」


美羽が力強く言った。


「私たち、友達でしょ? 友達を危険な目に遭わせるわけにはいかない」


蓮は微笑んだ。


「ありがとう、美羽。直人くんも」


彼は真剣な表情になった。


「でも、本当に危険かもしれない。準備が必要だ」


「どんな準備?」


晴翔が尋ねた。


「まず、叶絵さんに連絡するべきだ」


「叶絵...?」


美羽と直人は首を傾げた。


「神狩り組織の人で、天音先輩を観察している人。でも、敵対しているわけじゃない」


蓮の説明に、二人は複雑な表情を浮かべた。


「ますます訳が分からなくなってきたな...」


直人が呟いた。


「でも、興味深い」


晴翔はスマホを取り出した。


「叶絵さんに連絡してみる」


彼が番号を押す間、他の四人は緊張した面持ちで見守った。


『はい、叶絵です』


冷静な女性の声が聞こえた。


「朝霧晴翔です。アルバという男から接触がありました」


『...詳しく話してください』


晴翔は昨日の出来事を伝えた。河川敷での待ち合わせのことも。


『分かりました。危険です。絶対に行かないでください』


「でも、姉が...力のことをもっと知りたがっています」


『それは罠です。アルバは気まぐれで危険な男。彼の目的は天音さんの力を引き出し、暴走させることかもしれません』


「暴走...?」


『はい。天音さんの力が暴走すれば、より強い旧神の関心を引くでしょう。それがアルバの狙いかもしれません』


晴翔は天音を見た。姉は困惑した表情をしている。


「どうすればいいですか?」


『今日の放課後、私が学校近くで待機します。アルバが現れたら対処します』


「分かりました」


電話を切ると、晴翔は状況を説明した。


「叶絵さんは行かないほうがいいって」


「やっぱり...」


天音は少し落胆したように見えた。


「でも、力のことをもっと知りたい...」


「それなら私が教えるよ」


蓮が優しく言った。


「完全ではないけど、力の扱い方なら少しは分かる」


「本当?」


「うん。それより大事なのは、天音先輩の安全だ」


美羽も頷いた。


「そうだよ! 変な男より、蓮くんの方が信用できる!」


直人は少し考え込んでいた。


「朝霧、姉さんの力...どこまで制御できるんだ?」


「まだよく分からないよ」


天音が答えた。


「小さなものを動かしたり、浮かせたりはできるけど...」


「それ以上のことは?」


「夢の中で見たものが現実になったり...あの空だって、たぶん私が『綺麗な空だったらいいな』って思ったから変わったみたい」


直人は眉をひそめた。


「つまり、無意識の願望が現実化する...これは厄介だな」


「だから、コントロールを学びたいんだ」


天音は決意を込めて言った。


蓮は静かに頷いた。


「分かった。放課後、練習しよう。ただし、人目につかない場所で」


「でも、アルバのことは...?」


「叶絵さんに任せよう」


晴翔が言った。


「お姉ちゃんの安全が第一だ」


五人は頷き合った。しかし、それぞれの心の中には不安が渦巻いていた。


チャイムが鳴り、昼休みの終わりを告げた。


「また放課後、中央階段で会おう」


晴翔の提案に、全員が同意した。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?