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第43話

使われていない倉庫は埃っぽかったが、人目につかない場所としては最適だった。


「よし、ここなら大丈夫だろう」


蓮は中央に立ち、天音に向き合った。


「まず、リラックスして」


「うん...」


天音は深呼吸した。


「力の本質は、意志による現実操作だ。考えたことが形になる」


「すごい...」


美羽が感嘆の声を上げた。直人は冷静に観察している。


「試しに、この缶を動かしてみて」


蓮は床に空き缶を置いた。天音は集中し、手を缶に向けた。


缶がゆっくりと揺れ始め、やがて宙に浮かび上がった。


「おお...」


直人も驚きの声を上げた。


「すごい! 天音先輩、まるで魔法使い!」


美羽の目は輝いていた。


「今度は、缶を回転させてみて」


蓮の指示に従い、天音は集中した。缶はゆっくりと回り始めた。


「うん、上手い」


蓮は満足げに頷いた。


「次は少し難しいけど...缶を変形させてみて」


「変形?」


「うん。形を変えるんだ」


天音は眉を寄せて集中した。缶が少しへこみ始める。しかし、突然彼女が苦しそうな表情を浮かべた。


「く...」


「お姉ちゃん!」


晴翔が駆け寄ると、缶が床に落ちた。


「大丈夫?」


「うん...ちょっと頭が痛くなって...」


蓮は心配そうに天音を見た。


「無理しすぎたね。休もう」


「そうだね...」


天音が椅子に座ろうとしたとき、突然倉庫のドアが開いた。


「やぁ、みんな」


軽快な声と共に、アルバあるばが立っていた。


「っ!」


晴翔は反射的に天音の前に立ちはだかった。


「アルバ...どうしてここが...」


「君たちを追跡するのは簡単さ」


アルバは肩をすくめた。


「特に、天音ちゃんの光は目立つからね」


「光...?」


天音は自分の手を見た。確かに、今日は特に強く光っているように感じる。


「何の用だ?」


晴翔の声は冷たかった。


「さっきの叶絵を撒いてきたとこなんだ。彼女、まだ校門で待ってるよ」


アルバは軽く笑った。


「で、練習中かな? 天音ちゃんの力」


「近づくな」


蓮が天音の横に立った。美羽と直人も守るように周りを固めた。


「おや、ボディーガードが増えたね」


アルバは軽妙な口調で言ったが、その目は鋭く全員を観察していた。


「なるほど...面白い展開だ」


彼は一歩前に出た。美羽が反射的に後ずさる。


「怖がらなくていいよ、お嬢さん。僕は暴力は好きじゃないから」


「でも、天音先輩を狙ってるんでしょ?」


美羽は怯えながらも勇敢に主張した。


「狙う? ううん、僕はただ...」


アルバは天音を見つめた。


「彼女の力に興味があるだけさ。どこまで成長するか見てみたいんだ」


「実験台じゃないよ!」


晴翔が怒りを込めて言った。


アルバは肩をすくめた。


「そうだね。でも、このままじゃ彼女の力はコントロールできなくなる」


「何が言いたい?」


蓮が静かに尋ねた。


「君はある程度分かってるはずだよ、予知者さん」


アルバの言葉に、蓮は表情を硬くした。


「天音さんの力は急速に成長している。このままだと...」


「暴走する」


直人が冷静に言った。彼はメガネを上げながら、アルバを観察している。


「正解、賢い坊やだね」


アルバは微笑んだ。


「彼女の周りの光、見えてるでしょ? あれは力が溢れ出しているサイン」


天音は自分の手を見た。確かに、いつもより強く光っている。


「どうすればいいの...?」


彼女の声は震えていた。


「それを教えに来たんだ」


アルバは親切そうな表情を作った。が、その目は何か別の感情を隠している。


「放出すればいい」


「放出?」


「そう。意識的に力を使って、溜まったエネルギーを放出する」


蓮が眉をひそめた。


「それは...危険かもしれない」


「でも必要さ。彼女の力は増大している。使わなければ、制御できなくなる」


直人は考え込んだ様子で言った。


「理にかなっている...燃料が溜まりすぎれば、爆発する」


「そういうこと」


アルバは頷いた。


「で、僕の提案は...」


彼は窓の外を指さした。


「あそこで、力を思いっきり放出してみない? 誰もいない場所だ」


窓の外には、広い空き地が見える。学校の裏手で、ほとんど人が来ない場所だ。


「だめだ」


晴翔がきっぱりと言った。


「お姉ちゃんの力をもっと引き出そうとしてるだけだろ」


「疑り深いなぁ」


アルバは苦笑した。


「でも、これは本当だよ。彼女の力は日に日に強まっている。このままだと...」


「わかった」


突然、天音が口を開いた。


「え?」


晴翔は驚いて姉を見た。


「試してみる。力を放出するの」


「お姉ちゃん! 罠かもしれないよ!」


「でも...」


天音は自分の手を見た。光の粒子が以前より強く輝いている。


「このままじゃ危ないのは感じるの。体の中で、何かがどんどん大きくなってる感じ...」


蓮は渋々頷いた。


「確かに...このままでは危険かもしれない」


「蓮!」


晴翔は抗議したが、蓮は真剣な表情で言った。


「天音先輩の言うとおりだ。力が溢れている。でも...」


彼はアルバを鋭く見た。


「完全に安全な場所で、僕たちの監視の下でやるべきだ」


美羽は不安そうに天音の腕を掴んだ。


「本当に大丈夫なの?」


「うん...やってみる」


天音の声には決意が込められていた。


直人は冷静に状況を分析している。


「では、どうやって放出するんだ?」


アルバは笑顔で答えた。


「簡単さ。彼女が思うままに力を解き放てばいい」


「それだけ?」


「うん。でも...」


アルバの表情が真剣になった。


「一度始めたら止められないかもしれない。エネルギーが全て放出されるまでね」


「危険じゃないか!」


晴翔が抗議した。


「だからこそ、人のいない場所でやるんだ」


アルバは窓の外を指さした。


「あそこなら、誰も巻き込まれない」


五人は顔を見合わせた。不安と決意が入り混じる複雑な表情だ。


「行こう」


天音が静かに言った。


「でも、お姉ちゃん...」


「大丈夫。みんながいてくれるから」


晴翔はため息をついた。姉の決意を覆せそうにない。


「分かった。でも、何か変だと思ったらすぐ止めるからね」


彼はポケットの抑制装置を確認した。いざというときのために。


「じゃあ、外へ出よう」


アルバが先導し、六人は倉庫を出た。


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