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第44話

空き地に立つと、風が強く吹いていた。虹色の空が、より鮮やかに見える。


「ここなら大丈夫だろう」


アルバは満足げに辺りを見回した。


「さて、天音ちゃん。準備はいい?」


「うん...」


天音は少し緊張した様子だが、決意の表情を浮かべている。


「みんな、少し離れててね」


「いや、俺はそばにいる」


晴翔は断固として言った。


「僕も」


蓮も同意した。


「危険だよ?」


アルバは警告したが、二人は動かなかった。


「分かった。でも、あまり近づきすぎないで」


晴翔と蓮は天音から数メートル離れた場所に立った。美羽と直人はさらに後ろへ。


「どうすればいいの?」


天音が尋ねると、アルバは優しく言った。


「目を閉じて、体の中のエネルギーを感じて。それを...解き放つんだ」


天音は深呼吸し、目を閉じた。彼女の周りの空気が揺らめき始める。


「そう、その調子...」


アルバの声が静かに響く。


天音の体から、光の粒子が徐々に溢れ出した。最初は小さな光だったが、次第に強く、大きくなっていく。


「すごい...」


美羽が息を呑んだ。


天音の周りに光の渦が形成され始めた。彼女の髪が風に舞い、服が揺れる。まるで無重力状態のようだ。


「これは...科学では説明できない現象だ」


直人が呟いた。その声には、畏怖の念が混じっている。


「お姉ちゃん...」


晴翔は心配そうに天音を見つめていた。


光の渦はさらに強くなり、天音の足が地面から数センチ浮き始めた。


「浮いてる!」


美羽が驚きの声を上げた。


「予想通りだ...」


アルバはニヤリと笑った。その表情に、晴翔は不安を覚えた。


「なんか変だぞ!」


「大丈夫、自然な反応だよ」


アルバは冷静に言った。


天音の体はさらに高く浮かび上がり、光の渦は激しさを増した。彼女の表情が苦しそうに変わる。


「くっ...」


「お姉ちゃん! 大丈夫?」


「止めよう!」


蓮が叫んだ。


「だめだ!」


アルバが制止した。


「途中で止めると危険だ。最後まで放出させないと」


「でも...」


天音の周りの光がさらに強くなった。まるで小さな太陽のようだ。辺りの空気が震え、地面が微かに揺れ始めた。


「これは...」


直人が驚いた表情になった。


「地震か?」


「違う、天音先輩の力だ!」


蓮が叫んだ。


光の中心で、天音が苦しそうな表情をしている。彼女の目が開き、そこには普段とは違う光が宿っていた。金色に輝く瞳。


「晴翔...助けて...」


かすかな声が聞こえた。


「お姉ちゃん!」


晴翔は迷わず光の渦に向かって走り出した。


「危ない!」


アルバが警告したが、晴翔は止まらない。


「晴翔くん!」


美羽が心配そうに叫んだ。


晴翔は光の壁に手を伸ばした。強い力で押し返されるが、彼は諦めない。


「お姉ちゃん! 俺だよ!」


光の中心で苦しむ天音の目と、晴翔の目が合った。


「晴...翔...」


一瞬、光が弱まった。晴翔はその隙に腕を伸ばし、姉の手を掴んだ。


「大丈夫だから! 俺がいるよ!」


彼の言葉が天音の心に届いたのか、光の渦が徐々に弱まり始めた。


「そう...リラックスして...」


蓮が静かに言った。彼も光の渦に近づいていた。


「でも...力が...」


天音の声は震えていた。


「コントロールして。少しずつ、ゆっくりと...」


蓮の声は落ち着いていて、力強い。


天音は深呼吸し、目を閉じた。光の渦が少しずつ収まっていく。


「そう、その調子」


晴翔は安堵の表情を浮かべた。


しかし、突然アルバが動いた。彼は光の渦に向かって何かを投げた。小さな球体のようなものだ。


「何をした!?」


蓮が叫んだ。


球体が光の中で弾け、青い光が天音を包み込んだ。


「きゃあ!」


天音の悲鳴が上がった。光の渦が再び激しく回転し始める。


「やっぱり罠だったな!」


晴翔はアルバに怒りの表情を向けた。


「違うよ」


アルバは冷静に言った。


「彼女の力を引き出したいだけさ。その本当の姿を見たいんだ」


「やめろ!」


蓮が叫び、アルバに向かって走った。しかし、アルバは軽々と避け、蓮の動きを封じる。


「君の力は知ってると言っただろ、予知者の末裔さん」


二人が睨み合う中、光の渦は制御不能になっていた。


「くぁあっ!」


天音の叫び声が響く。光の中で、彼女の姿が変わり始めた。髪が長く伸び、体から強い光が放たれる。まるで神話に描かれる女神のような姿だ。


「これが...天音先輩の本当の姿...?」


美羽は恐れと畏敬の念で見つめていた。


直人は冷静さを失い、呆然と立ち尽くしている。


「科学では...説明できない...」


晴翔はポケットから抑制装置を取り出した。姉の変貌を見て、彼は決断した。


「ごめん、お姉ちゃん...!」


彼は光の渦に飛び込んだ。強い力で押し返されるが、彼の意志は固い。一歩、また一歩と、天音に近づく。


「やめろ! 危険だ!」


アルバが叫んだが、晴翔は聞く耳を持たない。


ついに天音の前に辿り着いた晴翔。彼女は宙に浮かび、金色の瞳で彼を見下ろしていた。その表情には、もはや人間的な感情は見えない。


「お姉ちゃん...俺だよ、晴翔だよ!」


一瞬、天音の瞳に人間らしさが戻った。


「晴...翔...?」


「そう! 戻ってきて!」


晴翔は抑制装置を天音の額に当て、ボタンを押した。


青白い光が装置から放たれ、天音の体を包み込んだ。光の渦が急速に弱まり、天音の姿が元に戻り始める。


「うっ...」


彼女は意識を失い、晴翔の腕の中に倒れこんだ。


光が完全に消え、辺りが静かになった。


「お姉ちゃん! 大丈夫?」


晴翔は心配そうに天音の顔を覗き込んだ。彼女の呼吸は安定しているが、意識はない。


「天音先輩!」


美羽が駆け寄ってきた。


「彼女は無事だ」


直人が脈を確認した。


「ただ疲れて眠っているだけだろう」


蓮はようやくアルバから離れ、天音のもとへ。


「それにしても...」


彼はアルバを鋭く見た。


「何をしたんだ?」


アルバは肩をすくめた。


「ちょっとした触媒さ。彼女の力を引き出すものだよ」


「なぜだ?」


「言っただろ? 興味があるんだ」


アルバの表情は本当に好奇心だけに見える。しかし、その目には別の光が宿っていた。


「これで分かったよ。彼女の力は本物だ。『神』と呼ぶにふさわしい」


「満足したか?」


晴翔の声は怒りに震えていた。


「まあね」


アルバはニヤリと笑った。


「でも、これでまた別の問題が起きるだろうね」


「何が言いたい?」


「彼女の力の放出は、このエリアだけじゃなく、もっと広い範囲に影響を与えた」


アルバは空を指さした。虹色の靄が、より強く、より広範囲に広がっている。


「これは...」


「ああ、そして...」


彼は地面を指さした。


「感じないか?」


その瞬間、地面が微かに揺れた。小さな地震だ。


「これは...」


直人が顔色を変えた。


「北海道の事例と同じだ...」


「正解」


アルバは冷静に言った。


「彼女の力が暴走すると、自然現象にも影響を与える。特に地震は...」


「やめろ!」


晴翔が叫んだ。


「もういい! 話すな!」


アルバは手を上げた。


「分かったよ。今日はここまでにしておこう」


彼は後ずさりしながら言った。


「でも覚えておいて。彼女の力は、まだほんの一部しか引き出されていない。本当の姿は...もっと恐ろしいものだ」


そう言い残し、アルバは姿を消した。


残された五人は、沈黙の中に立ち尽くしていた。


「どうしよう...」


美羽が不安げに言った。


「天音先輩を保健室に連れて行こう」


蓮が提案した。


「でも、このことは...」


「黙っておく」


直人がきっぱりと言った。


「これが世間に知れたら、彼女は実験台にされるだろう」


晴翔は天音を抱きかかえた。彼女は穏やかに眠っていた。


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