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第52話

朝霧あさぎり家では、五人がそれぞれの調査を始めていた。


リビングのテーブルでは、直人がパソコンで情報を検索している。美羽は彼の隣で、スマホを駆使しながら地震情報をチェックしていた。


「直人くん、見て!」


美羽がスマホの画面を見せた。


「地震の震源、全部妙典みょうでんの周辺なんだよ」


直人は眼鏡を上げながら、そのデータを見た。


「確かに...これはただの偶然とは思えないな」


「でしょ?」


美羽は続けた。


「しかも、全部浅い震源なんだって。普通の地震のパターンとは違うんだって」


「地質学者たちも困惑しているだろうな」


直人はパソコンの画面に戻った。彼は古代神話についての文献を読んでいる。


「イシュタリアについて、少し情報が見つかった」


「ほんと? どんな神様なの?」


「メソポタミア神話の女神だ。愛と戦争の神とされている」


直人は眉をひそめた。


「しかし、叶絵さんの言っていたイシュタリアは男性として描写されていたようだが...」


「神話と実際は違うのかな?」


「かもしれないな」


直人は考え込んだ。


「あるいは、人間の記録が不正確だったのかもしれない」


一方、庭では蓮が瞑想していた。静かに座り、目を閉じ、未来を見ようとしている。彼の周りには、かすかな風が渦を巻いていた。


家の二階では、晴翔と天音が天音の部屋にいた。天音は小さなボールを浮かせる練習をしている。


「うまくなってきたね」


晴翔が感心した様子で言った。天音の前に浮かぶボールは、以前より安定している。


「うん...少しずつだけど」


天音は集中しながら答えた。


「心を落ち着けて、イメージするコツが分かってきたみたい」


「それはいいことだね」


「でも...」


彼女は少し不安そうに言った。


「大きな力は使えない。怖くて...」


「無理しなくていいよ」


晴翔は優しく言った。


「少しずつで十分だ。まずは完全にコントロールできることが大事だから」


「うん...」


天音はボールを優しく回転させた。


「これくらいなら、問題ないよね...」


「ああ、全然」


二人が練習を続けていると、ノックの音がした。ドアを開けると、蓮が立っていた。彼の表情は少し暗い。


「蓮くん、どうしたの?」


天音が尋ねた。


「予知...少しだけ見えた」


蓮の声は重々しかった。


「どんな未来?」


晴翔が真剣な表情で尋ねた。


「明確ではないんだ...でも...」


蓮は言葉を選ぶように間を置いた。


「大きな力の衝突が見えた。金色の光と、漆黒の闇が...」


「それって...」


「天音先輩の力と、イシュタリアの力かもしれない」


蓮の目は遠くを見ているようだった。


「それが、いつのことなのかは分からない。でも...近いと思う」


三人は黙り込んだ。未来の予言は不吉だが、知っておくべき情報だった。


「他には何か見えた?」


晴翔が尋ねた。


蓮は少し迷った様子だったが、やがて口を開いた。


「五つの光...私たちだと思う。その光が闇と対峙している」


「私たち...一緒に戦うんだね」


天音が小さな声で言った。


「うん...」


蓮はさらに続けた。


「でも、それだけじゃない。他の力も...味方になるかもしれない者たちも見えた」


「他の力?」


「詳細は分からないけど...私たちだけじゃない。もっと大きな戦いになりそうだ」


三人は再び黙り込んだ。重い話だが、未来を知ることは準備のために必要だった。


「みんなに伝えよう」


晴翔が決断した。


「直人と美羽にも知っておいてもらうべきだ」


「そうだね」


蓮も頷いた。


「それと...叶絵さんにも」


三人は階下に降り、リビングに集合した。直人と美羽も情報収集を中断し、蓮の予知について聞いた。


「そんな未来が見えたの...?」


美羽は少し青ざめた表情になった。


「怖いね...」


「恐れる必要はない」


直人は冷静に言った。


「未来は変えられる。だからこそ、今私たちは準備をしているんだ」


「そうだよね!」


美羽は元気を取り戻した。


「私たち、『天秤の守護者』だもんね!」


晴翔は窓の外を見た。夕暮れ時で、空は虹色と夕日の赤が混ざり合い、幻想的な景色を作り出している。


「明日も調査を続けよう」


彼は決意を込めた声で言った。


「そして、できるだけ早く対策を立てよう」


「うん!」


全員が強く頷いた。不安は消えていないが、一人ではないという安心感がある。五人の絆は、これから待ち受ける試練に向けて、少しずつ強くなっていくだろう。


「絶対に乗り越えよう...一緒に」


天音の静かな声に、全員が同意した。


「「「「一緒に」」」」

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