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第56話

叶絵はアルバを追って街中を走っていた。しかし、彼の姿はすぐに見失ってしまった。


「くっ…」


彼女は妙典みょうでん駅前の広場で立ち止まり、周囲を見回した。平和な日常の風景。買い物をする主婦、下校する学生、仕事帰りのサラリーマン…。


(どこに消えた…)


そのとき、後ろから声がした。


「追いかけっこは得意じゃないんだけどね、叶絵さん」


振り返ると、アルバが立っていた。相変わらずの軽薄な笑みを浮かべている。


「アルバ…」


叶絵は警戒しながら彼を見つめた。


「何をしている?」


「さあね〜」


アルバは肩をすくめた。


「お散歩かな? この町、面白いことが起きそうで」


「イシュタリアのために動いているんだろう?」


「ばれちゃった?」


アルバはわざとらしく驚いた表情を作った。


「まあね。彼は素晴らしい主人なんだ」


「器は誰だ?」


叶絵の質問に、アルバは人差し指を唇に当てた。


「ひ・み・つ♪」


「…」


「でも、もうすぐ分かるよ」


アルバの表情が一瞬だけ鋭くなった。


「三日以内に、この町は変わる。イシュタリア様の支配下に」


「させるものか」


叶絵は低い声で言った。


「神狩り組織は黙ってない」


「あの分裂した組織に何ができる?」


アルバは嘲笑うように言った。


「完全抹殺派は天音ちゃんを殺したがってるし、観察派は何もしない。そのスキに、イシュタリア様は力を取り戻す」


「…」


「それに、新たな神はまだ力をコントロールできていない。勝負にならないよ」


「そうかな?」


叶絵は冷静に言った。


「天音さんには優秀な支援者たちがいる」


アルバの顔から笑みが消えた。


「彼らに何ができる? ただの子供たちじゃないか」


「甘く見ない方がいい」


叶絵はきっぱりと言った。


「彼らの絆は、想像以上に強いものだ」


「絆なんて…」


アルバの顔に軽蔑の色が浮かんだ。


「所詮、幻想さ。イシュタリア様の前では無力だよ」


「さて、それは分からないね」


叶絵は微笑んだ。


「どうやら私たちの意見は一致しないようだ」


「そのようだね」


アルバも笑顔を取り戻した。


「じゃあ、この先は…実力で決着をつけよう。三日後、妙典駅前広場で」


「何を企んでいる?」


「さあね〜」


アルバは片手を振りながら後ずさりした。


「でも、見逃せないショーになるよ。君も、あの子たちも…招待するね」


そう言い残し、アルバは人混みに紛れて姿を消した。


叶絵はしばらくその場に立ち尽くしていた。彼女の表情は冷静だが、心の中では警戒を強めていた。


(三日後…妙典駅前広場…)


彼女は空を見上げた。虹色のもやがより濃くなっているように見える。


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