翌朝、
「深呼吸して…自分の感情と向き合う…」
天音は目を閉じ、自分の内側に意識を向けた。恐怖、不安、そして…愛情。全ての感情を認識し、受け入れる。
水晶がわずかに光り始めた。天音の手からも、柔らかな光が漏れている。
「上手くなってきたね」
晴翔が部屋に入ってきた。朝食の準備をしていたようだ。
「うん、少しずつだけど」
天音は目を開け、水晶を見つめた。
「不思議…私の気持ちが、水晶に共鳴してるみたい」
「それが力をコントロールする秘訣なのかな」
晴翔は姉の隣に座った。
「どんな感じ?」
「うーん…」
天音は言葉を探した。
「体の中を、暖かい水が流れるような…」
「へえ」
「それと、思いが形になる感覚。何かを強く思うと、それが現実になりそうな…」
「怖くない?」
「少し」
天音は正直に答えた。
「でも、みんなが助けてくれるから、大丈夫って思える」
「そうだね」
晴翔は微笑んだ。
「叶絵さんから連絡あった?」
「うん、さっきメッセージがきてた。今日の午後に来るって」
「そうか」
晴翔はスマホを取り出した。
「みんなに連絡しとこう」
彼は「天秤の守護者」グループに今日の集合時間を伝えた。すぐに全員からの返信があった。
「みんな来れるみたい」
天音はほっとした表情を浮かべた。
「よかった…」
そのとき、スマホに別のメッセージが入った。クラスのグループLINEだ。
『今日、千早さんが学校を休むって。風邪らしい』
天音と晴翔は顔を見合わせた。
「理子ちゃんが…」
「タイミング的に気になるな…」
晴翔は眉をひそめた。
「単なる偶然かもしれないけど」
「うん…」
天音は窓の外を見た。空の虹色の靄は、さらに濃くなっているように見える。
「でも、今は私たちにできることをしよう」
「そうだね」
晴翔は立ち上がった。
「朝食できてるよ。食べよう」
「うん、ありがとう」
天音も立ち上がり、水晶をポケットにしまった。まだ慣れない力だが、少しずつコントロールできるようになってきている。三日後に備えて、もっと練習しなければ。