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第60話

翌朝、朝霧あさぎり家では天音が早くから起きて瞑想をしていた。叶絵からもらった水晶を手に持ち、光の粒子を観察している。


「深呼吸して…自分の感情と向き合う…」


天音は目を閉じ、自分の内側に意識を向けた。恐怖、不安、そして…愛情。全ての感情を認識し、受け入れる。


水晶がわずかに光り始めた。天音の手からも、柔らかな光が漏れている。


「上手くなってきたね」


晴翔が部屋に入ってきた。朝食の準備をしていたようだ。


「うん、少しずつだけど」


天音は目を開け、水晶を見つめた。


「不思議…私の気持ちが、水晶に共鳴してるみたい」


「それが力をコントロールする秘訣なのかな」


晴翔は姉の隣に座った。


「どんな感じ?」


「うーん…」


天音は言葉を探した。


「体の中を、暖かい水が流れるような…」


「へえ」


「それと、思いが形になる感覚。何かを強く思うと、それが現実になりそうな…」


「怖くない?」


「少し」


天音は正直に答えた。


「でも、みんなが助けてくれるから、大丈夫って思える」


「そうだね」


晴翔は微笑んだ。


「叶絵さんから連絡あった?」


「うん、さっきメッセージがきてた。今日の午後に来るって」


「そうか」


晴翔はスマホを取り出した。


「みんなに連絡しとこう」


彼は「天秤の守護者」グループに今日の集合時間を伝えた。すぐに全員からの返信があった。


「みんな来れるみたい」


天音はほっとした表情を浮かべた。


「よかった…」


そのとき、スマホに別のメッセージが入った。クラスのグループLINEだ。


『今日、千早さんが学校を休むって。風邪らしい』


天音と晴翔は顔を見合わせた。


「理子ちゃんが…」


「タイミング的に気になるな…」


晴翔は眉をひそめた。


「単なる偶然かもしれないけど」


「うん…」


天音は窓の外を見た。空の虹色の靄は、さらに濃くなっているように見える。


「でも、今は私たちにできることをしよう」


「そうだね」


晴翔は立ち上がった。


「朝食できてるよ。食べよう」


「うん、ありがとう」


天音も立ち上がり、水晶をポケットにしまった。まだ慣れない力だが、少しずつコントロールできるようになってきている。三日後に備えて、もっと練習しなければ。


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