午後、五人と叶絵が再び
「まず、状況報告からしましょう」
叶絵が静かに口を開いた。
「組織からの応援は、明日到着する予定です。人数は五名」
「五名?」
晴翔が尋ねた。
「多くはないですね」
「残念ながら、これが限界です」
叶絵は少し苦い表情を見せた。
「完全抹殺派との対立もあり、協力者は限られています」
「でも、五名でも大きな力になりますよね」
美羽が明るく言った。
「私からの報告です」
直人が眼鏡を上げた。
「イシュタリアについて、さらに調査しました」
彼はノートを開いた。
「古代文献によれば、イシュタリアは『支配と征服の神』とされています。人間の心の闇に付け込み、力を与える代わりに魂を奪うとも」
「魂を…奪う?」
天音が不安げに尋ねた。
「そうです。『器』となった人間は、徐々に自我を失い、イシュタリアの思いのままに動く
「そんな…」
「もし、理子ちゃんが本当に器になってしまったら…」
天音の表情が曇った。
「救う方法はある?」
「文献にはこう書かれています」
直人はノートを見ながら言った。
「『闇を光で包み込め。憎しみを愛で浄化せよ』」
「それって…どういう意味?」
美羽が首を傾げた。
「解釈が難しいですが」
叶絵が説明した。
「『神』の光の力で、闇の力を浄化できるということでしょう」
「つまり…」
天音が理解した様子で言った。
「私の力で、イシュタリアの力を打ち消せるかもしれない?」
「そう考えられます」
「でも…どうやって?」
「それが問題だ」
蓮が静かに言った。
「力のコントロールがまだ完全ではない状態で…」
「練習あるのみですね」
叶絵は天音に向き直った。
「水晶での練習は順調ですか?」
「はい、少しずつ感覚がつかめてきています」
天音は水晶を取り出した。今日は昨日より強く光っている。
「素晴らしい」
叶絵は満足げに頷いた。
「では、午後は集中的に練習しましょう」
「僕からも報告があります」
蓮が口を開いた。
「さらに詳しい予知がありました。三日後、妙典駅前で起きる出来事の一部です」
全員の視線が彼に注がれた。
「黒い靄が広場を覆い、人々が倒れる…その中心に、赤い光を放つ人影がある」
「赤い光…」
「そして、対峙するのは金色の光…天音先輩です」
「私…?」
「はい。二つの力がぶつかり合う。その衝撃で、空間が歪む…」
蓮は目を閉じた。
「それ以上は見えませんでした。ただ…」
「ただ?」
晴翔が促した。
「予知の中で、一瞬だけ千早さんの姿が見えました」
「やっぱり…」
全員が黙り込んだ。予想していたとはいえ、確信を得るのは辛い。
「理子ちゃんが…本当に…」
天音が悲しげに言った。
「まだ確定ではありません」
叶絵が天音を安心させるように言った。
「最終的には、実際に会って確かめる必要があります」
「でも、どうやって?」
美羽が尋ねた。
「彼女に会いに行ったりしたら、危険じゃない?」
「そうですね」
叶絵は考え込んだ。
「まずは、遠隔で監視するのが良いでしょう」
「監視?」
「はい。私が組織の技術を使って、彼女の自宅を監視します」
「それって…」
晴翔が少し眉をひそめた。
「プライバシーの侵害じゃ…」
「緊急事態です」
叶絵はきっぱりと言った。
「多くの人命がかかっています」
「…分かりました」
晴翔も納得した様子で頷いた。
「とにかく、彼女に直接接触するのは避けましょう」
叶絵が言った。
「特に天音さんは危険です」
「はい…」
「私からも報告があります!」
美羽が手を挙げた。
「SNSの監視を続けてたんだけど、妙典の近くで、『黒い影を見た』って投稿が増えてるの」
「黒い影?」
「うん。『虹色の空の下に、黒い影が伸びてる』とか、『漆黒の靄を見た』とか…」
「イシュタリアの力の現れですね」
叶絵が顔色を変えた。
「想像以上に進行が早い」
「三日後じゃなくて、もっと早く起きるかも?」
美羽が不安そうに尋ねた。
「その可能性もあります」
叶絵は窓の外を見た。
「常に警戒を怠らないでください」
「分かりました」
全員が頷いた。
「では、午後の練習計画に移りましょう」
叶絵は天音に向き直った。
「まず、水晶を使った瞑想を深めます。そして、徐々に小さな力の使い方を練習していきましょう」
「はい」
「他の皆さんは、それぞれの役割を続けてください」
全員が了解した。
「三日後までの我々の準備が、勝負の鍵を握ります」